第12話マイ フィロソフィ1−12

 夕方。自転車をこぎながら坂道を上る。僕は上りながらいろんな事を考えていた。いや、いろんな回想が頭の中をぐるぐるかき乱していた。

 断片的な回想を一つはしてはすぐにもう一つに移るという作業を超高速でやっているようでいつも頭に思うけど、考えがまとまらない事をしていた。

 しかし、僕の頭は一つの考えだけは浮かんできた。それは………。

—これからどうなるんだろう?

 この考えだった。 




学校から戻って和也さんの家についた。春の優しい光が居間にも入ってくるが、しかし、僕の心はボロぞうきんのように疲れきっていた。

 疲れた。今日はそれにつきる。

 それで僕は音楽をかける事にした。

 こうしてとりとめもなく音楽を聞いているといろんな事を考えてしまう。

 例えば、額田君と友達になれるのか?とか、クラスいた美少女の事とかを色々空想してしまう。

 額田君の事なら、第一関門はboyのCDだろう。それが気に入るかどうか、もし、僕がそれがあんまり自分の琴線に触れなかったら、どうするか、という問題が待ち構えている。

 クラスの美少女の事はもう、考えただけで何か恥ずかしい、というか胸がドキドキしてくる。そう、この時点で僕はあの子に淡い恋をしていたのだ。その少女の事をあまり知らないけど、いや、知らないが故に妄想が膨らんでくるのだ。

 ここで読者諸君はいぶかしむのではないのか。あの渡り廊下の少女の事はどうだったのかと。小説内ですごくあの少女との邂逅を書いていたではないか。それなのに当時の君はあの子の事を気にしないのかと。

 確かに普通に考えたら、そうであろう。しかし、ここでもう少し僕の話を聞いてほしい。

 あの少女の前にこんな問いをだそう。人はどうしたら人、物事を想像たくましくする瞬間はどこで来るのだと。

 君はこれをどう考えるか。その人、物事が自分にとって魅力的、もしくは重要だからと答えるだろうか。確かにそれは重要な要素だ。

 しかし、僕はこれ以外にももう一つ要素を加えようと思う。それはその対象が自分にとってどうなるかわからない、偶有性が高いときが妄想をさせるよう育と。

 例えば、仕事。仕事が初めてのときは色々と妄想をしてしまう。自分にこの仕事ができるのだろうか?という風な具合だ。

 なぜなら、初めての仕事は自分にとって未知であり、どのような事かわからないため、ベテランは当然な作業でも新入りには突拍子も無しに起こったように感じてしまうからだ。

 そして、仕事に慣れてくるとその仕事が自分にとってどれだけ重要でもあまり妄想を抱かなくなる。

 本題に戻ろう。僕が彼女について想像をしないわけ、それは彼女とは将来何かあると確信しているからだ。

 例えば、クラスの美少女とは自分にとってどういう関係になるか未知数だからこそ、色々想像をしてしまうが、彼女とは自分と必ず関わるだろうと確信していたのだ。

 普通に考えて廊下の少女も未知数だろうと思うかもしれないが、僕の思考の中では自分の将来に彼女が必ず関わっていく事を確信していた。あまりに確信してるものだから、まったく、想像しないのだ。それで、自分でもその事にまったく気づいていなかったのだ。

 だから、当時の僕はクラスの少女と額田君の事だけを考えながら、ずっと加奈子を聞いていた。




 夕食。おじさん達と一緒に食卓を囲む。

 おじさんとおばさんがどことなくそわそわしているように思える。思えるというのはそんなにはっきりとは出していなくていつもどおりの行動をしているのだが、何か雰囲気(ふんいき)がそわそわしているように感じるのだ。

 そんな表面上はいつも通りの食卓に和也さんが僕に声をかけてきた。

「一樹君、どうかな新しい学校は?」

「まあ、なんとかやり通せませた。今日は入学式だから時間が少なかったけど、高校に通いだすと授業とかがありますから、明日から本当に行けるかどうかの真価(しんか)が問われます」

 それを言うと和也さんが笑った。

「ふふ、真価なんて一樹君は難しい言葉を知っているな」

「すみません。他にいい言葉が思い浮かばなくて」

 それに康子さんが間に入ってきた。

「まあまあ、今日はゆっくり休んで明日に備えましょう。ね?」

「はい、そうします」

 そして僕は学校のもろもろの規則と明日の時間割を見て、その後、明日の英気(えいき)を養うため早めに休む事にした。

 明日はどうなるのか?それは明日考える事にしよう。

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