第11話マイ フィロソフィ1−11

 —がらっ。

 教室をあけると僕のクラスメート達が緊張した面持ちで座っていた。高校生と言えばとにかくうるさいと考えていたが、さすがに今は静かだし、僕も高校生だった。

 まあ、ともかく座ろう。僕は手ごろな席に座る事にした。ここで言う手ごろというのはあまり壇上の前ではない席だが、後ろの席はもう、みんなが座っていた。しかたないので前の席に座る事にした。

 そこで目が一番前の席に座っている少女に引き寄せられた。その少女は髪の長い美少女だった。肌が白く、鼻が均整がとれていて、唇も厚すぎず、細すぎずという具合だ。だが、そこまではさっきの渡り廊下であった少女と一緒だ。彼らは日本人と外国人の違いの他に彼女との違う点は目と眉とほっぺただ。

 廊下の少女は眉が細かった。それが女性のきれいさを協調していたが、この少女は眉は普通、やや太い。それがなんだか廊下の少女と比べて親しみをもてる。後、この少女は廊下の少女に比べてほっぺたが丸い。廊下の少女は幾分細いが、この少女は幾分ふくよかな感じがする。

 そして目が本当に違う。廊下の少女は目が鋭かったが、この少女は目が大きい。今は緊張してるためか表情が硬いが、おそらく友達なんかのおしゃべりとかで快活になるときはその目がチャーミングなものになるのではないだろうか。

 概して言えば、先ほどの廊下の少女は無駄がなくきりっとしたいわばクールビューティーを想像させるのに対して、この少女は少女らしいあどけなさを感じられる。

 幸運な事にこの少女の隣があいていたので、座る事にした。僕はこの少女の隣に座っている最中、ずっと緊張していた。そう、何となくこの少女の事が気になっていたのだ。それは彼女が美しいという事と髪が長いという事に関係しているのだと思う。僕は髪の長い女の子に弱いのだ。今まで学校に行ってなかったので、好みのタイプとかがよくわからなかったが、自分は髪の長い女の子に弱いというのがだんだんわかってきたのだ。

 僕は彼女の隣に席を座ったら、間もなく先生が入ってきた。担任の先生の名は唐沢竜二というらしい。若い男性だ。何でも学校に来て3年目だとか。その後、彼は学校の説明をしたのだが、僕にはほとんどその言葉が素通りしてしまうのだ。

 別に彼の説明がおかしいというのではなくて、なんて僕にとって久しぶりの学校だ。僕の緊張はもう、頂上にまで高まっていたのだ。それで、彼の話を全然、聞いていなかったのだ。

 その後、教科書と学校の規則とかもろもろの書かれたプリントを受け取って、今日は終わりとする事になった。

 クラスの中で一気に安堵の空気が広がった。僕もやっと終わったと思った。 しかし、実はまだ終わっていなかった。僕はすぐにその事に気づいた。友達を見つけるにはこの時期しかないという事に。

 僕は一番やりたくない事をしなければならない。つまり、知らない人に声をかけるという事を。まあ、この場合少年に声をかけるのが妥当だろう。

 誰に声をかけるか。僕の隣の少女はもう女の子としゃべり合っているし、僕も彼女を見習って少年としゃべる必要がある。

 周りを見ると、僕の左の席に座っている男の子がいるが、彼がもう、いろんな教科書類を鞄につめているところだった。

 僕は早く教科書を鞄につめると、その男の子を追って出て行った。




「君!ちょっと、まって!」

 下駄箱から外に出るところで僕は彼を呼び止めた。彼がこちらを振り向く、彼は中背中肉の体型をしており、髪は5・5できれいに中央に別れており、何より彼の特徴となるものはその目と頬だろう。目が細くて、頬がすごく痩せている。その容姿なので見た目はすごく狡か狡賢く見えてしまうのだ。しかし、そんなに悪い人ではないと信じたい。

「僕ですか?」

「そう!あなたです!」

 それで僕は彼の前に立ち止まった。しかし……。

 しかし、彼を前にした瞬間言葉が出てこない!

 とにかく、話さなきゃと思っていったからどういえばいいのかわからないのだ。

 彼は彼でいきなり呼び止められて困惑しているようだし、早く何か言おう。

「あの!あなたはどこから来たのですか?」

「ああ、出地身の事か。僕はあそこだよ、瀬野(せの)の沖から来てるんだよ」

「僕は宗堂の方から来ています」

「宗堂ってどこかな?」

「ここから東の方に行く道をずっと言ったところに宗堂とか鍛冶也とかがあるんです」

「ああ、あっち、そうか。あっちの方は確かすごい田舎だっけ」

「そう、そうです。周りは田んぼだらけだ。唯一際立っているのはキリンビールの工場があるぐらいなものですよ」

「ふ〜ん、そうか」

 僕はなんとか安心した、一応はなんとか話せるようだった。

「ところであなたお名前は?」

「ああ、僕の名前は額田(ぬかだ)康祐と言うんだ。そちらは?」

「僕は笹原一樹って言います」

「そうか、笹原か。中学の時見なかったけど、別のところから来たのか?それともホントは中学にいたとか?」

「別のところからです。東京の立川(たちかわ)というところから来たんですけど……」

 やはりとか言うかなんというか。僕が東京を持ち出すと、額田君はすごく驚いた声を出した。

「東京!笹原君、東京からきたの!」

「ええ、そうです」

「じゃあ、あれだ。都会の人なんだね。じゃあ、はやりの音楽とかファッションとか知っているんだ!」

 額田君があまりに興奮気味に話すものった。僕の事で人が嬉しそうに話してくれるのは嬉しい事だけど、残念ながら僕は額田君の期待に添えるような人物ではなかったので、それに対して水を差さなければならなかった。

「額田君。残念ながら僕は友達とかまったくいなくて、流行のものとかまったく知りません。ごめん、でも、東京に住んでるからと言って、みんなが最先端の流行を知ってるわけじゃないんだよ」

「そうか…………」

 僕が額田君が思い描く都会っ子ではない事に彼は明らかに落胆していた。

 僕の中にもすごい悪い事をしたという気持ちが強くなってきた。普通に考えれば別に東京に住んでるからと言って流行に詳しいというのはあり得ない事だが、何か人が落胆するところを見ると、こちらが悪い気持ちになってくる。

「ごめん、額田君。あまり都会の人らしくなくてごめん。…………!そうだ、額田君はどんなアーティストが好きかな」

 僕はなんとか流行から考えて、そこから額田君の趣味につなげた。

「ああ、僕。僕はあれ、boyが好きだよ」

「boy?」

 そしたら額田君は少し笑った。

「東京出身なのにboyを知らないなんて。いいよ、今度CDをもってくるわ。そしたら感想を教えてくれ」

「うん。わかったよ」

 それから僕たちはいくらか世間話をして別れた。

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