第10話マイ フィロソフィ1−10
2章、新しい人生、そして彼女との邂逅。
「おじさん、おばさん行ってきます」
「おお、いってらっしゃい。今日が一樹君の高校生活の第一歩か」
「はい、そうです」
「元気に行くのよ、一樹君」
「はい、おばさん」
僕はおじきをして出て行った。もう、この家にきて2ヶ月が過ぎた。その間に和也さん達に挨拶をしたり、荷物を片付けたり、自分が行く高校を見たりとしていたのだ。
ここの生活は何もなかったけど、だからこそ居心地がよかった。もう、あんな親とかに悩まされる事はない。考えるだけで自分の中にある嫌なものが溢れ出てしまう事もない。それだからここがいいのだ。
もう、親の事は置いといて、新しい生活の期待の話をしたい。僕はこれから瀬野(せの)高校の入学式に参加する。瀬野(せの)高はここから自転車で20分ぐらいの場所にある。僕はその高校生活というのを希望と不安が振り子のようにどちらかに傾ければ、次にもう一方にぶれてしまうそういう極端から極端へという思考をずっとしていた。
自分の高校生活はどうなるんだろう。ライトノベルや漫画みたいに楽しい高校生活が送れるのだろうか、それともこれまでと同じように一人なのだろうか。
漫画やらライトノベルとかではあり得ないほどのリアリティのなさで愉快な日常を書いているが、そういう現実はないと思うが、大衆小説の青春小説で、いじめとかをよく題材にした小説をこの時期にいくつか読んでいたが、そういう現実が置きらどうしよう、と不安になったものだ。
しかし、それは仕方ないことだ。小説では日常そのものを題材とするものは少なく、何かしら日常を超える事件を中心に動くというのが普通だからだ。そして、その非日常を題材にするのがエンターテイメントだからだ。
だから小説内の高校生活などほとんど当てにならないのが普通だ。当時僕はこの事があまりよくわからなかった。あまりというのは知識では知っていたけど、でも本当にわかっていたかというとわからなかった。なんせ、まったく未知の領域に足を踏み入れるのだから、わからない以上色々と想像してしまうのが人間の性だ。
僕は自転車に乗って家をでた。
僕は自転車でこぎながら周りのものを見る。朝早く出たためだろう、周りに高校生はいない。
僕は家であれこれ考えていたが、やはりどうにもならない。学校は想像とは違うのだ、自分にはどうしようもできない。
自転車をこぎながら早朝の空気に出会う。その清澄(せいちょう)な香りに心にも清らかな空気が生まれてくるかのようだ。
そして、僕は新たな一日を見る。空が暁(あかつき)から黎明(れいめい)に変わる中、世界の様相が変わる。
田んぼだらけの景色が黎明(れいめい)の朝一番の光に触れる時。それまでの闇がまた、太陽に追いやられるとき、世界は変わる。昨日とは違う今日が立ち上ってくる。
世界の創造だ。
その世界の創造に触れていると自分の中にも活力が、まだまだ自分は捨てたものでは無いはずだという楽観がうまれてきた。
高校についた。まだ、7時だ。人はちらほら見る程度だ。
(どう、暇つぶししようか……)
しかたないので僕はウォークマンをとろだして音楽を聴く。この当時僕がはまっていたのは加奈子(*2)だ。
男なのに加奈子を聞くのかと?思われた読者諸君もいると思うけど、僕はこれに釈明をしたいと思う。当時、僕は友達がいなかった。だから、そういう口コミの情報が全く無かったのでもっぱらテレビ等の情報に頼るしかなかった。しかし、皆様も知っての通り、テレビにはろくなミュージシャンがいない、その中でテレビに出ている中で一番思春期の心をもっている加奈子に感情移入してしまうのは道理だとは思わないか?
ここで思春期の心と言ったが、一つ言っておきたいのは今現在の僕は別に思春期を美化するつもりはないということ。美化どころか、むしろこれをおおざっぱに扱う人を嫌悪している。
しかし、当時の僕はむしろ加奈子が思春期をおおざっぱに扱ったからこそはまっていたと言える。
しかし、男の僕が加奈子を聞いているというと不思議な思いをする人もいるかも知れないが、僕がそれまでミュージシャンの情報を知るのはだいたいテレビなのだ。何個かレンタルでロックミュージシャンのCDもとったが、特に自分の琴線には触れなかった。それであいこは思春期の僕の琴線に触れた。だから、聞いたのだ。
それはともかく、僕はグラウンドの隅で時間が来るまで加奈子を聞く事にしたのだ。
時間が来た。早速体育館に移動しよう。
春のうららかな陽気の中、僕は体育館に移動する。歩いている最中漠然とした不安に襲われた。高校を見上げる。これから自分はどうなるのだろう?ここに適応できるのか?
そんな事を考えているとやはり緊張してきた。いったい、僕はどうなるんだろう?学校に入って僕の未来は変わるのだろうか?それとも変わらない?
僕は通学中にこれを解決できたと思っていたけど、そんなに世界は甘くなかった。また不安に襲われてしまった。しかし、これから否応なく新たな自分の一ページがめくられるのだと、これを決心してめくるしかないのだと僕は思った。
僕は体育館にいる。今しがた入学式が終わったところだ。
今、終わったのだけれど、僕には入学式の事をほとんど覚えていない。それほど緊張していた。飴細工のように時間が薄く、薄く延ばされ個々の出来事などほとんど覚えていないのだ。
とにかく、なんとか耐える事ができた。それでほっとしているところだ。
さて、今あたりを見渡すと誰もいない。みんな教室に行ったところだろう。なぜ僕が一人で体育館にいるかというと、あまりの緊張に疲れてじっとしていたからだ。しかしそろそろ行かないといけない、なぜならやはり教室で始まる授業ではないけど、教師の説明があるからだ。
そして僕は立ち上がって体育館の出口に向かって歩く。どのクラスに行くかはもう事前に名簿を貰ってあるのでわかる。
少し僕が通う高校について話そう。この背の高校は普通の高校だ。特に言うべきところがない。だいたいの見取り図を書く。
体育館を出て中庭に出る高校の見とりをだいたい書くと北に校門があって、それを抜けたらグラウンド。グラウンドの向こうに校舎があって、北方面と南方面側に校門から見ると東西に伸ばされた校舎が二棟存在する。二つは渡り廊下などがあるため行き来が可能。そしてその校舎の右側、つまり東側に体育館、校舎の向こう側、つまり南西側に自転車置き場、駐車場がある。校門側に立つと、校舎の向こう側に体育館等があって、体育館が左手側、自転車と駐車堂が右側にあるのだ。南側、つまり後ろの校舎の裏に自転車用の通路があって僕のような自転車で登校するものは主にそれを使う。
それで体育館と南側の校舎は渡り廊下で繋がっている。それで僕はその廊下を使って、教室を目指すのだ。
「僕のクラスは1—Dか」
1—Dは南側にある、個々の南側の校舎から渡り廊下を使って、教室に向かおう。
その渡り廊下を見つけそれに入って、渡っているときの事だった。
向こう側から一人の女子高生が渡ってきた。
僕は自分の事を棚に上げておいて、こんな時間に珍しいなと思っていた。二人が接近するたびに女子高生の全容がわかってきた。
その女子は一般の日本人にとっては異質な存在であることが、僕は当目から分かった。そのブロンドの長髪も、細い目も、頬張ったあごも、白のおしろいを塗り込んだような白い肌も、日本人にとっては異質な存在だった。しかし、そういう、女性のきれいさをよりも僕は彼女の振る舞いと目が印象に残った。
彼女はものすごく堂々と歩いていた。堂々というのは図々しいというのではなく、そう図々しい要素はなく普通に歩いていたのだが、彼女自身すごく己の力を完全に信じていて、それを完全にものにしているような事が、歩き方でわかってしまうのだ。しかも、その証拠と言ってもいいかもしれないが、彼女の目が一目で人の印象に残るような強い光が宿っている事すぐわかるのだ。
彼女とは遠くではないが近くもない微妙な位置にいる。しかし、一歩一歩近づく。
一歩、また一歩。
彼女も僕が動いたのと同じように一歩、また一歩近づいてくる。
その彼女ともう眼前に迫っている。彼女はやはり、一年だった。バッジがすぐ見えるのだ。
一歩動いたら彼女も動く。
また、一歩、もう30センチほどだ。あと二歩ですれ違うだろう。
もう、一歩。彼女が自分のすぐ斜めにいる。彼女の空気を感じながら、僕はまた一歩動いて、彼女とすれ違った。
そして僕は振り向かずに廊下を渡った。普通に考えて、こんな美少女にすごいプレッシャーを感じたなら、普通は振り向くものだと思うが、僕にとって振り向くという選択肢は初めからなかった。彼女とはこのまま振り向かずにすれ違うのが当然と考えていた。
後で思うのだが、これが運命というのだろうか。僕は将来の彼女との関係を予感していたのではないのか、と思うのだ。
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