第9話マイ フィロソフィ1−9

 岡山駅の構内。山陽本線からの列車から降りて、エスカレーターを上り、改札にでる。

「じゃあ、一樹君。少し待っていてくれ、すぐ入場券を買うから」

「はい」

 叔父さんとおばさんは入場券を買うために売り場に行った。

 僕は少しため息をつく、帰ってしまうのか、と思ってしまったのだ。

 今日で東京に帰る。そのために新幹線に乗るのだ。

 入場券を買った叔父さんとおばさんと一緒に改札を通って、東京行きのホームにでる。 

 ホームにはいると、いつも見える岡山の山の景色は何度見ても気分がいい。

 それはともかく、僕は叔父さんと康子さんにお別れを言わなくてはならない。

「じゃあね。叔父さん、康子さん」

「ええ、元気でね一樹君」

「達者にするんだぞ」

 僕は叔父さんの言葉に頷いた。確かにあそこにいても自分が壊れないようにしなければ…………。

 正直言ってお別れはつらかった。というよりあそこには戻りたくなかった。

「じゃあ、お父さんたちにもよろしく言っといて」

「…………ええ」

 僕があまり楽しくなさそうに言ったのだろう、叔父さんが訝しげに僕にある事を尋ねた。

「一樹君。まだ両親の事を根に持っているのか」

「そりゃあ、まあ」

 そうしたら。叔父さんは僕に対してたしなめるように言った。

「ダメだよ、一樹君。親に対してそんな事思っちゃあ」

「でも、あいつらかなりむかつくんだけど」

「むかつくなんて言っちゃあダメだ、一樹君。親だよ、自分を育ててくれた親だよ。それをむかつくなんて言ってどうする」

「しかし!あいつらは嫌なんです!気持ちがムカムカする!あいつらを思うと!なんか、違うんだよ、何かが違うんだよ、こんなにむかつくなんて異常だよ!」

 僕は一気に吐き出した。いや、吐き出したという事はいえないか、なぜならいったいなにが問題なのかがわからなかったからだ。親のなにが問題なのかわからないのだ。ただ、むかつく。それは今も続いてる。現在の僕が見たら君に必要なのは友達という存在、というだろう。しかし、現実に友達はいなかった。そして、駅の中の周囲の反応がすこしざわめいてる事に今気がついた。

 おじさんは僕の発言に対して少し驚いたものも、僕をゆっくりと呼んだ。

「一樹君、一樹君ちょっと聞きなさい」

「はい」

 僕は素直に聞く事にした。こういう激情に駆られた後というのはなぜか人の説教を素直に聞いてしまうものがある。

「一樹君、今は親に対してむかつく事があるかもしれないけど、時がくればいずれなくなってしまうから、そんなに悲観する事はない。その時になって親に対しての考えを決めなさい。少なくとも私はそうだった」

「叔父さんが?」

「そうだよ。というより大人はみんなそうなんだよ。誰もが親に嫌な感情を持っていた。それが時が来ると薄らいでいくのさ」

 僕はびっくりした大人が昔は親に対してむかついていたなんて、だってあれほどテレビとかで親とこの愛情が大切だと言っていることを言ってるのに!親に対してむかついていただなんて!僕はびっくりしまったのだ。

 その時はそういうものか、と思ったが、今のぼくはちょっと考えが違う。

 今のぼくは無職でなにも勤めていないが、そのぼくが親を許せるかというと全くそうは思わない。

 就職から逸脱してしまった僕はなにも安定した環境はないし、日々いらいらしてばかりだ。

 それに比べて、まだおじさんの時代は就職が期待できた、結婚も期待できた。僕の場合は小説が売れない限り無職の状態のまま、なにも誇ることがないまま、自他責の沼に身を入り込ませるだけだ。

 もう、親を非難する嵐に身を置かないが、しかし全く許そうという自発的な感じは起きない。

 つまり僕がいいたいのは親を許せるかどうかは時間の問題もあるが、それより重要なのは今現在の環境ではないのかと僕はいいたいのだ。

 それはともかく、僕は新幹線に乗りながら考えていた。あそこにまたいけるのだろうかと、それを考えていた。



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