第4話マイ フィロソフィ1−4

 ぉぉぉぉぉぉぉ。

 僕は新幹線の中にいる。東京、岡山行きの便に乗っているのだ。

 そう、これから、岡山に行くのだ。

 新幹線に揺らされながら、僕は自分がどうなるのかという事を思う。

 どうなるのだろう?僕は岡山に行って、何か変わるのだろうか?それとも変わらない?

 そんな事を思いながら僕は新幹線の席に横たえた。 




 今は夏休み。もちろん僕は不登校で何も予定はない。家族も似たようなものだ。しかし、僕は想像してみる。僕と同年代の子はきっと、友達と一緒に遊んで海に行ったりとかしているのだろう。しかし、僕は何もしていない。

 そういう友達とかがまったくいない事も理由にあるが、何か僕自身何かしないといけないという気が身体がねじれるような感覚でしてくるのだ。

 それである日の事、みんなが出かけていた御昼下がり、電話がなりだしてそれを僕がとると小城叔父さんの声がしたのだ。

『おう、一樹君か、元気にしてるか?』

「いや、あんまりしてないです」

 小城叔父さんは岡山に住んでるお父さんの兄なのだ。つまり僕にとて叔父に当たる。

 電話越しの曇った声がする。

『そうか……ところで慎也はいるか?』

「いや、父はいません」

『そうか、それならお父さんに伝えておいてくれ、岡山にはいつでも来てくれいいって』

「はい」

『はは、一樹君もこっち来てもいいよ』

「……僕が?」

『もう、中学生だろ?新幹線は一人でのれるよね?そしたら駅でまっているからさ、改札くぐれば僕がまっているんで、一人でもこれれるだろう?』

「いや、でも……。ごめん、よくわからない。どうすればいいのか……」

『はは、まあそうだな。親との許可もいるしな。でも、もう中学生なんだがら、少し冒険してもいいと思うぞ。一樹君も一人で岡山に来るのが不安なんだろ?』

「……はい」

『でも、若いうちは冒険をしといた方がいい。ちょっと怖いぐらいの冒険がいいからな。ま、そういう事でいつでも家においでとお父さんに伝えといて』

「はい」

 それで電話が切れたのだ。僕は叔父さんの事を考えた。僕の叔父、小城和也。僕の名前と一文字違い。岡山に住んでる。父の兄。確か職業は靴製品の仕入れ業者って言ってたっけ。

 叔父とは何度か会った事がある。その記憶を呼び覚ます。かなり、気さくな性格だった。僕にもよく話しかけてきたっけ。

 あの叔父さんなら……。

 あの叔父さんなら、自分をなんとかしてくれるんじゃないのか?

 なんとかと言ってもどう、具体的になんとかするのか僕はさっぱりわからなかったけど、今ある気持ちはとにかく自分を変えること。どう、変えるかわからないけど変えること。

 僕にはその気持ちだけが心に充満(じゅうまん)して、時々身体を突き破ることがある。成長にいくにすれ、そういうことが起きてくるが、このときがその感覚の最初のときなのだ。

 そして、僕は夕食の時にこの事を家族に話した。つまり、一人で叔父さんのところに行きたいという事を。家族、特に母が慌てた。だけど、話し合いの末、まず、僕と家族が叔父さんのところ、実家に戻る、その後僕を残して変える、それで夏休みが終わる頃に僕が一人で帰るという事になった。

 それで僕は岡山に来た。岡山に来るのは何度かあったけど、やはり感想は山がすぐそばに見えるという事だった。東京ではこんな事はないけど、山が見えるのだ。新幹線のホームから!

 そして僕たちは岡山駅から山陽本線という線路にのって瀬野(せの)に来た。駅を降りると叔父さんがまっていてくれた。

「おう、慎也、久しぶり」

「ああ、そっちもずいぶんだな」

「ああ…………。奥さんもお久しぶりです。いや〜、いつ見ても美しいですね」

「も〜、和也さん、いつも御上手なんですから〜、私はもう年ですよ」

「いやいやいや、そんな事ありませんよ、奥さん。奥さんはまだまだ現役ですよ、本当に」

「もう、ホントお世辞が上手なんですから」

 僕は叔父さんを見た。このくだらない社交辞令をする叔父を。くだらないと書いたが、僕自身社交辞令は必要で叔父さんのやっている事は正しいと思うのだが、問題は僕の母の方だ。ただの社交辞令だとわかりきってるのに大げさに感情を表す母に嫌悪を抱いていたのだ。

 それはともかく、僕は叔父さんを見ていた。駅の入り口に立ち外の逆行を受けている叔父の姿を見て、この人は僕にとっていったいどういう人になるのだろうかと思った。

「信二君も久しぶり」

「はい、叔父さんも元気そうで」

 兄が答える。

「一樹君も久しぶりだね。お父さんから聞いてるよ、これから一ヶ月の間よろしく」

「はい、よろしくお願いします」

 僕が泊まるという話はすでに叔父に連絡してある。叔父が快く引き受けてくれたのだ。  

 今の自分は家族とうまくつきあえない。 僕たちはその後、叔父の車に乗り込んだのだ。


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