交声曲 第二幕
最後まで歌い終わり、ピアノの余韻を楽しんでいたら…。
打ち消すように、虹輝の拍手が聴こえてくる。
「とても素敵な演奏でしたね」
「…あら?そういえば初めましてよね」
女性の問いに、少女はスカートの裾を握りながら答えてくれた。
「あ…あの、私は
「あらあら…。胡散臭い店主だけだと思っていたら、こんなにも可愛い子が居たなんて。私は
アイカ…私と同じ名前だったんだ。
愛華さんは、実喜ちゃんの頭を撫でている。
「そして、こっちの歌姫は
「……よろしく」
虹輝に紹介され、実喜ちゃんへ手を差し出す。
実喜ちゃんの手は、少しだけ冷たかった。
「哀歌ちゃんは人見知りでね。あんまりおしゃべりはしないんだよ」
…言われてみれば、確かに私はあんまり会話はしないかもしれない。
でもそれは……お話しする相手がいないから。
ヘッドフォンから聴こえてくる彼女とも、いつか話せるのかな…。
「お二人とも、下の名前が同じなんですね」
「そうなのよ。私も最初に知った時は驚いたわ」
確かに、私も名前を知った時は驚いた。
それに…愛華さんからは、よく知っている匂いがした。
しばらく、他愛もない3人の会話を聴きながらお茶を飲む。
用事があったのか、愛華さんは実喜ちゃんに小包を渡すと、お店を出て行った。
実喜ちゃんが愛華さんからもらった小包を開けると、たくさんの色の小さな粒が入っていた。
小さな…小さなお星様。
「その金平糖、実喜ちゃん食べたいんじゃない?」
「でも…」
「つーちゃんは、興味津々みたいだけどね」
虹輝の声で、私がずっと金平糖を見ていたことに気が付く。
「哀歌さんは、金平糖が好きなんですか?」
「金平糖…初めてみる。ねぇ、この赤色と黄色のやつをもらってもいい?」
私の言葉を聞いて、虹輝は小包から2色の金平糖を数粒づつ別の袋に移してくれた。
「今日は、とても素敵な歌を聞かせてくれたからご褒美だよ。帰ったら一緒にお食べ」
『一緒に』…虹輝はそういうけれど、あの場所には私しか居ないのに…。
「それから、ご褒美はもう一つ」
カウンターを見ると、湯気が踊る新しいカップが置かれていた。
けれど、いつもと変わらない紅茶に首をかしげる。
「これは、実喜ちゃんとつーちゃんへのご褒美だよ」
実喜ちゃんも不思議に思っていたらしく、首をかしげている。
虹輝はそんな私達の反応に、くすり。と笑い、白い金平糖を2粒カップの中へと入れる。
紅茶の色に染まり、音もなく崩れていく金平糖をじぃっと見ていると、頭の中に言葉が流れてきた。
『やっと見つけた 大切な場所
けれど まるで別の世界みたい
見つかるかしら 私の一番星
絶対に見つける 大きくて小さな私の星
大切な人の処へ 導いて』
「金平糖ってなんだかお星様みたいですよね」
「お星様……。私が探している一番星は、いつになったら見つかるのかな…」
林檎喫茶を出て、ステージの上で横になる。
貰った金平糖の甘さで、溶ける様に眠りについた。
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