狂詩曲 第二幕

 扉を勢いよく開き駆け込む。

 ステージの方に視線を向けると、蕾のオブジェが微かに発光している。

 呼吸を整えながらしばらく見ていると、ゆっくりと花弁が開く。

 その時、ヘッドフォンから椛の声が聴こえてくる。


『愛しい人よ、よく聞いて。貴方があんなにも『好きだ』と言ってくれていたのにね…。この有様よ。』

 花弁が開ききると、中から大きな鳥篭が姿を現した。

 鳥篭の中には、椅子に座っている男性と、背後から抱きしめている女性の姿があった。

 男性はずっと目を閉じたままだ。


「よくお聞き人の子よ。これは、あなた達人の子の言葉だけれど、『大切な人はずっと一緒に居なければならない。なぜなら、目を離した隙に居なくなってしまうから』…本当にその通りね。」


 声を聴いて、目の前に居るのが椛なんだとすぐにわかった。

 ふわり。

 と、椛が蕾から降り立つと足元から衣装が変化し、蔦が絡んだ素足をくすんだ深紅の布が覆う。


「ようこそお越しくださいました。今宵のステージ、きっと最後になることでしょう。」


 栗毛の長い髪が揺れる。

 すぅ…と、息を吸うその音さえ音色に聞こえてしまうぐらい静かな空間。


 —— 

 あなたに出逢って 風が囁くの

『よかったね』


 愛しい人ができた時

 花々がまるで祝ってくれるみたいに

 揺れて背を押してくれた

“1人じゃない”と思えて

 だから


 この歌が届くのなら

 あなたは笑ってくれるだろうか

 願いを込めて歌うから

 ——


 椛が紡ぐ言の葉は、まるで本の中の小鳥みたいだった。

 いや…なのではなく、私達がなんだよね。

 楽園とりかごから出て行った私だけれど、そのおかげで知ることが出来た外の世界。

 響き渡る椛のARIAに反応するかのように。

 まるで、それは魔法みたいに。

 ステージ上では紅い花で満たされている。

 死人を弔うと云われているその花に囲まれる紅い1輪の花。


 ——しわくちゃな私の事を 潤して

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る