協奏曲

 本屋の女性から言われた場所へ行こうとしたけれど…。


「私、場所知らないんだった…」


 ヘッドフォンを耳にあててあたりを見渡す。

 どこを目指せばいのだろうか…。

 すると、肩に小鳥を乗せた少年と視線が合った。

 少年は何も語らなかったけれど、その視線は『ついてきて』と言っているみたいだった。

 何故だろう…この感覚を私は知っている気がする。

 昔、私はこんな風に鳥に導かれた気がするの。


 少年は、神社の参道を進んで行くと途中で逸れた。

 竹が生い茂る道を進むとドーナツ型の池があった。

 池の中心には小さな祠。

 鳥居の前で少年は立ち止まり、私の方を見てから祠に視線を向ける。

 私は、鳥居をくぐると池の中を覗き込む。

 鯉が数匹泳いでいた。

 祠には、透明の液体が入った瓶が置いてあった。

 瓶の内側には、イラストが描かれていて不思議な感じ。

 どこかの街並みだろうか…。

 少年の方に振り向くと、どこか遠い所を見ていたので鳥居の方に戻る。


 先程の道を少し戻ると、少年は建物の中へと入っていった。

 少年の家にしては大きいな…。

 と、建物を見上げていたら扉が閉まっていた。

 慌てて観音扉の片側を開くと、かすかに春の香りがした。


 少年の姿は何処にもなく…とても家には見えなかった。

 建物の中をあちこち探していると、植物でできた横笛が置かれていた。

 手に取ると、演奏なんてしたことないはずなのに、自然と指が動いた。しばらく演奏をしていると、ヘッドフォンから声が聴こえてきた。


『この歌が届くなら

 あなたは笑ってくれるだろうか

 願いを込めて歌うから…』


 この場所には、私と少年以外に誰か居たのかな…。

 周囲を見渡しても、私以外の姿は見つからない。

 それに、この声にはどこかで聞き覚えがあった…。

 いったいどこで聞いたんだっけ…。

 少し歩くと、ヘッドフォンから聴こえてくる声が大きくなってくる。

 すごく重たい扉を開けると、椅子がたくさん置かれている開けた空間にだった。

 少し薄暗いその空間の先……少し高い場所が明るく照らされていた。

 階段を数段上り、さっきまで自分がいた場所を振り返る。

 そして、ようやくここがどこかの劇場なのだと気づく。

 自分が今立っている場所は、ステージ上なのだと。

 ステージの中央、1本の柱が立っている。

 上を見上げると何やら蕾のようなオブジェが付いている。


『しわくちゃな私の事を…潤して』


 初めて聞く歌だったけれど、なんだかとても夢中になった。

 本屋の女性に渡されたヘッドフォンは、どこかに繋がっているのだろうか…。


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