夜想曲:『曙』
『なんで私は
ねぇ、どうして貴女は
あのね、誰かが
じゃあ、なんであの子は
流れる星を頼りに
“誰か”を探す旅に出る
流れる星の落ちる場所には
きっと“誰か”が居るはずだから』
まるで、何処かの山奥で妖が宴会でも開いていそうな…そんな紅い月の夜。
私は、いつの間にか迷路のような住宅街の中に居た。
出口のない…どこを目指せばいいのかもわからない。
私は聴きなれないメロディに導かれ、住宅街には不釣り合いな木目調の建物の扉を開けた。
その建物はどうやら本屋さんだった様で、棚にはたくさんの本が収まっていた。
見渡してみても、歌声の主は見当たらないし、店内で流れている音楽…という訳でもなさそうだった。
「これはまた、可愛らしい小鳥が遊びに来てくれたのね」
聴こえてきた女性の声に振り向くけれど、でもやっぱり先程の歌声ではなかった。
「私の言葉は通じているかしら?」
「あ……はい」
「私はね、貴女が戻ってくるのをずっと待ち続けていたのよ。もう…どれくらいになるかしら」
部屋の奥で手招く女性の姿をじっと見ていると、テーブルの上に開いたままの本が置かれている。
本の隣には、クッキーが乗ったお皿とティーカップが2つ置かれている。
微かな甘い香りは、このクッキーだったんだ。
「貴女には、この本が読めるかしら?」
テーブルに置かれた開いたままの本を覗くと、その本には何も書かれていなかった。
『たまたま空白のページだったのかもしれない』
そんな風に考えながらページをめくると、じんわりと文字が浮かび上がった。
一度本を閉じて、最初から読み直すことにした。
その本は、森に住んでいる『謡うことが大好きな少女』が少年に出会うお話。
途中から、内容が少し難しかったけれど…。
初めて読む本のはずなのに、まるで自分が体験したみたいに鮮明に映像が脳内で再生された。
女性から本を受け取ると、『これも持って行きなさい』とヘッドフォンを首にかけられる。
「ヘッドフォンから聴こえる“声”が、きっと貴女を導いてくれるわ」
建物の外に出る時に振り返ると、女性が微笑みながら手を振っていた。
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