お掃除は上から!

 前に京一郎と一緒に見ていたテレビで言っていた。「掃除の基本は〝上から〟です」


 よーし、とさくらは上を見上げた。まずはあの本棚からだ。さくらはお風呂場から適当なタオルを持ってきて、本棚に向かった。背たけの何倍もある本棚を、さくらは器用にひょいひょい登っていく。身軽なさくらはこういうのが得意だ。


 京一郎の本棚は難しい本ばかりでさっぱりだけど、さくらは本棚の上に登るのはちょっと好きだった。高いところに登ると、まるで自分も大きくなったみたいに感じる。でも、本棚に登るといつも京一郎に「危ないから降りなさい」と怖い顔で怒られるので、いつもはあまり登らないようにしている。

 久しぶりに登った本棚の上は、やっぱりホコリでいっぱいだ。さくらはタオルでぐいぐい拭いた。


 一通りきれいになってあたりを見渡すと、まだ汚いところが見えた。蛍光灯の傘の上だ。蛍光灯と本棚は、ちょうど同じくらいの高さで、そんなに遠くない。ジャンプをすれば届くかもしれない。さくらはちょっぴり怖かったけれど、思い切って、えい、と飛びついた。蛍光灯が大きく揺れて、さくらの体も右に左に大きく揺られた。落ちてしまうかと思ったけど、どうにかしがみついてよじ登った。

 きったない蛍光灯の傘も、タオルでぐいぐい拭いた。


 ところが、やっぱりそんなところに飛び移るものじゃなかった。いくら身軽なさくらでも限界というものがある。どうにかこうにか半分くらいきれいになったところで、さくらはついに手を滑らした。


 あっ。


 幸運なことに、ちょうど下にあったベッドにぼてんと飛び落ちる。びっくりしたし、怖かったけど、ベッドの上でよかった。それよりも、今ので京一郎が起きたりしなかったかな? とのぞきこむ。京一郎は何にも気付かず、すぅすぅ眠っていた。あぶないあぶない。


 高いところの掃除は危ないから、これでおしまいということにした。

 まだまだやることは山ほどある。窓ガラスを拭いて、テレビの上とか机の上とか、低いところをガシゴシ拭いてまわる。テレビの上には小さな置物があったけど、そんなの関係なしに、とにかくきれいにした。



 掃除機をかけよう。さくらは掃除機のうるさい音が嫌いだったけど、いつも京一郎がやっているのを真似して掃除機を担いで、あちこち走り回った。そのうちに京一郎がうーんと寝返りをうった。もしかしたら音がうるさくて起きちゃうかもしれない。そう思って、掃除機は電源を切ってやめた。


 お風呂場に行って、さっきのタオルを水でぬらす。カランとシャワーを間違えて、見事に水びたしになってしまった。びっくりして、間抜けた大声を出してしまって、さくらはあわてて口を押さえた。さくらは体を左右に振って水しぶきを飛ばした。すっごく冷たいけど、がまん、がまん。


 ぬらしたタオルをしいて、四つんばいになって床を拭いてまわる。雑巾がけというやつだ。床がぴかぴかになっていくのが楽しい。ひととおり掃除が終わって、さくらは小さな額をふう、と手でぬぐうようにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る