第8話 ラブラブ・チタクック
エビネスに続いて、城の廊下の中央を歩いて行くと、前から兵団がドヤドヤと集まってきてオレたちを囲んだ。
そりゃそーだろ…。
例え自分の城でも、今はバドガスのものなんだからさぁ…。
その兵団の中央から一人の男が現れた。
白銀の鎧に黒マント。
こいつ知ってる…。
今まで4回戦って、4回引き分けた、
魔剣士クリフォード…。
彼は兵士に命じて、エビネスに対し最敬礼をとった。
「陛下にはつつがなきことお喜び申し上げます。」
「おお。クリフォード。久しかったな。壮健であったか?昔語りをしたいところだが、今は急ぎ用事を済ませたい。道をあけよ。」
「…申し訳ございませんが、その儀かないません。」
エビネスは足を止めた。
「話しを聞こう。」
「…主人より早急にエビネスの御首(みしるし)を取れとの指図にございます。」
「はっ!バドガスが主人か。大方、妻子を質にでも取られておるのであろう!」
「…御意にございます。どうか、一戦賜われますよう…。」
「やめておけ。馬鹿者。余とそなたが戦う理由などどこにある。」
「理由は…ございます。」
「なんだ。」
クリフォードは頭を上げてオレを指差した。
「その、隣にいる人間は、我らが宿敵!同胞を数えきれぬ程殺した勇者ではございませんか!」
周りのものはみんな驚いた!
そりゃそーだよ。
自分の主人だった人が敵を引き入れて来ちゃぁなぁ…。
「それだけでも我々に対する裏切り!殺す理由は充分にあります!」
といって、大剣を抜いた。
「ほう…。抜いたか。クリフォード。この大罪人め。弑逆(しいぎゃく)とは畏れ入ったわい。では望み通り、殺してやろうか!」
あまりの剣幕にクリフォード以外みんな一歩退いた。
しかし彼女は
「だが…。」
と、言ってピトリとオレにくっついて腕を絡めた。
「お、おい…。」
「グレイブくん。クリフォードは惜しい男だ。このままにしておこう。さぁ、マジックパワーが惜しい。さっさとこの布陣を駆け抜けてしまおう。」
ああ、チタクック…。
みんな、止まってる…。
そうだな。今のうちに彼らの横を通り過ぎて…
「ね、ねぇ…。」
「どうした?」
「そんなにくっついちゃぁ歩き難いよ…。軽くでいいんだからさ…。」
エビネスは顔を真っ赤にして大変に慌てた。
「ぬ、ぬむ!で、では、余がグレイブくんに劣情をもよおしているようではないか!て、訂正せよ!」
「い、いや、そういうわけじゃないけど…。」
「で、では訂正するのだな?」
「う、うん…。まぁ…。」
「グレイブくんが、余を好きで好きでたまらなくて組み付いてきた…。と、こう訂正するのだな?」
「なんでだよ!」
「そうであろう!!」
「…ん…。まぁ…そうかな?ーーーそうです。」
エビネスは怒りなのか、恥ずかしさなのか興奮して吐息を数回漏らした。
「ハァハァハァ。好きなのか?…じゃぁ…、しょうがないな…。グレイブくんの意にそってやろう…。んふんふんふ。」
といいながら、ますます腕にしがみついてくる。
オイオイ。歩き難いし、マジックパワーが減ってくっつーの。
「もう、いいだろ?ここまでこれば…。」
「ダメ。あそこの角まがるまで♡」
「…もう…。」
角を曲がって腕を外した。
時が動き出す。
後方から、クリフォードの「どこだ?どこにおわします!?」との声が聞こえた。
オレたちはそっとその場を通り過ぎた。
本来であれば、ボスが守る部屋がたくさんあるらしい。
だが、エビネスは秘密の抜け道を通り抜け、玉座の間まで戦いも無く短時間で辿り着いた。
「もう玉座の間かぁ…。正直武器はグレードアップしたけど、レベルは全然上がってない。」
「まぁ、余と二人ならなんとかなるだろ。」
「そうなのかなぁ…。」
「グレイブくん。キミに言っておきたいことがある。」
「…なに?」
「バドガスだが、正直、魔法攻撃は余り効かん。そして、魔法攻撃が得意中の得意だ。」
「そうなんだ。そーゆー情報ってこっちには無いからなぁ…。」
「今からチタクックを使ったまま、互いの宝剣で物理攻撃を仕掛けるわけだが、万一、腕が外れてしまって、バドガスに攻撃の猶予を与えてしまったとする。」
「うんうん。」
「そうするとだな、余を吹き飛ばした闇魔法フライボンを使って来ると思う。それが当たれば、片方がどこかにとんでいってしまうだろう。そうなると究極魔法が使えなくなる。」
「ああ、フライボンだったのか。じゃぁ、打ち消しの魔法を先にかけておこう。」
「やはり!光魔法にはその逆があるのだな!?」
「うん。じゃぁいくよ?メルトラーーイ!」
オレは、彼女と自分に対してフライボン除けの魔法をかけた。
これでお互いに飛ばされることは無いだろう。
「よし。これで、互いに腕を組んでチタクックを使ったまま、バドガスを切り刻んでしまおう。」
お互いに腕を組んだ。
はぁ…。いい感触…。
チタクックが発動した。
周りの音がいっさい聞こえない。
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