第9話 エビネスの危機

重い鉄の扉をエビネスが魔法で難なくあけてしまった。


ん?


大魔王の玉座の間…。

その前に禍々しい顔をした長身のでっぷりとした男が立っていた。


あれが魔王バドガスか…。


すると、その男がゆっくりと顔をこちらに向けた。


「とうとう来たか。元大魔王エビネス。しかも勇者を引き連れて。全く恥も外聞もなく敵に力を借りるとは…。やはり大魔王の器ではなかったか!」


え?なんで止まってないの?

周りのかがり火さえ揺らめいてないのに…。


「エビネス!バドガスにチタクックがかかってないよ!」


「ふむ。これは我らの動向に気付いて手を打っていたな?」


その通りだった。バドガスの胸に下がっている首飾りの宝玉は止められた時間の中に入れる効果を持っていたのだ。


「勇者と腕を組んでこの神聖なる玉座の前に来るとはなんたるバカップル!身の程を教えてくれるわ!来たれ!我が軍団!」


と、一声叫ぶと、今まで通り越してきた部屋のボスや、魔剣士クリフォードがこの玉座の間に瞬間移動してきたのだ!


「くそ!バドガスだけなら…。」


エビネスは悔しそうに声を上げた。


「かかれ!」


と、バドガスは叫んだ!

しかし、魔物たちは躊躇した。


今までの主人を倒すことにためらっているようだった。


しかし、バドガスが一言。


「かかれぬのなら、そちたちの家族が三分以内で死ぬ呪いをかけてやろう。」


一同、ガックリと頭(こうべ)を垂れ、腰に帯びている武器をそれぞれ取った。


クリフォードが叫ぶ


「よせ!」


魔物たちは一斉にクリフォードを見た。


「だめだ…やはり…。私に主君を手にかけるなど…。それにみんな!主君に手をかければ、後世まで史書に悪名が残るぞ!我々の…我々の真の敵は…。」


魔物たちはみんな顔を見合わせた。


「では、クリフォードの父親が死ぬ様を見よ!」


と指を鳴らすと、並みいる魔物の中の一人の首が爆発音とともに吹っ飛んでしまった。


クリフォードは顔をそむけた。

エビネスは


「やめろぉぉぉーーー!!」


と大声で叫んだ。


「………。殺せ。部下が死ぬところを見たくはない。」


と言って、宝剣を床に落とした。

バドガスは呵々大笑した。


「はっはっは。勅命(ちょくめい)であるぞ。誰ぞ早急に首を取れ!」


魔物は誰も動かない。


どうすりゃいいんだ?

こんな並みいる魔物がいて、エビネスをどうやって救える??


ん?待てよ…?


究極魔法…。


クリガラにしても、チタクックにしても、フラスカにしても…。

全部、伝説…神話にある神々が使った究極魔法。


全部、補助魔法だよな…。

攻撃魔法が一つもない。


神話の中に真の敵を倒すって言う究極攻撃魔法がまだ出てない!


光と闇が混ぜ合わさって真の敵を攻撃するってやつ…。


でも、どうすれば…。


手を繋ぐ…。


腕を組む…。


肩を抱く…。


とくれば、次は…。


でも…でも、全く違う究極魔法が発動したらどうすればいい?

それに、男女の恋の段階ってのはあくまでも仮説…。オレの勘違いかもしれない…。



「まったく不敬なやつらだ。陛下直々に殺せと言って仰せられるのに。まぁよい。お前たちの処分は後で考えるとして、ワシ直々に殺してやることにしよう。」


と言って、バドガスはこちらに近づいてきた。


オレは彼女を引き寄せ、正面を向き合った。

彼女はその美しい顔でニコリと笑った。


「そうか…。グレイブくん。運命を共にしてくれるか。キミと共に死ねるのなら何も怖いことはない。」


「いや…。」


「ん?」


「こうする。」


と言って、彼女の腰を抱いた!強く!

その途端、オレの腰に帯びている宝剣が抜け、また床に落ちているエビネスの宝剣も空中に浮いた。


そして、刃を外側に向けてグルグルと高速で回転し始めたのだ。


しかし、当たっていても、魔物も壁も天井も床も突き抜けてしまう。


バドガスは何かに気付いた。


「ぬ!いかん!小賢しい勇者の魔法だな!邪魔だ!フライボン!!!」


しかし、グレイブは吹き飛ばされない!


「なんだと!?」


バドガスは驚いて後ずさった。

エビネスが宝剣の動きを不思議そうに見ている。


「こ、これは…。」


「そうさ!究極魔法ライエネス!」


「ライエネス!?で、では…。」


「そうさ。誰も殺さない。何も壊しはしない。でも…。」


「うむ。そうか。では、声を揃えて…。」


「うん。」


オレたちは顔をバドガスに向けた!


「真の敵を討て!!!!」


二つの宝剣は回転を速め、バドガスに向かう。


光が弾けて、闇が全てを消し去った。

そこにはバドガスだったものは影も形も無くなってしまった。

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