第7話 二本目の宝剣
クランプが近づいて来た。
息も絶え絶えでクランプを見ることもママならないオレはただうめくように息を出すしか出来ない…。
「あ、ああ…。」
「無様だな。元勇者。リーダー面してその様か。ドラゴンに勝ったのは、このクランプだ!」
と、叫んだ。
オレに手を差し伸べようともしなかった。
そして、仲間の二人に向かって号令した。
「ウォルト。聖剣を探してくれ。エミリ。もう充分だろ。立て。」
「は、はい…。」
怯えた表情でエミリが立ち上がる。ウォルトはオレの脇を駆け抜け、この大きな竜の巣から聖剣を探し、やがて叫んだ。
「あったぞ!クランプ。これじゃ…ないかな?」
それは、赤く錆びて、鞘すらない。ボロボロの剣だった。
クランプは苦笑して
「フ。これが聖剣か。絶対に役に立ちそうもない。」
といって、オレの顔を覗き込んだ。
「…だが、持って帰ろう。磨けば聖剣になるのかもしれないからな。オイ。エミリ。ウォルト。行くぞ。」
といって、出口に向かって歩き出した。
エミリはいつまでも横たわったオレを見ていた。
「せ、せめて薬草を…。」
「エミリ!」
そう、クランプに怒鳴られ、オロオロとしながらもクランプの元に駆けてゆくエミリ。
ふ…。でも、もういいや…。
クランプが聖剣で魔王を倒してくれる。
エミリも平和な世の中で幸せに暮らしてくれる…。
オレはこの竜の巣で死ぬ。
それでいい。
それでいいんだ。
…でも…シルバードラゴンはいなかった。
すでにクランプに倒されてたのかなぁ?
「勇者よ…。」
え?
「起きなさい。勇者よ。」
「良く来ましたね。あなたを長い間待っていました。」
だれ?あたたかいこの感じ…。
ゆっくりと目を開けると、そこには倒れたはずのゴールドドラゴン。
その後ろにシルバードラゴン。
あ、あれ?オレの体の火傷が消えてる…。
「あなたの勇気。見せてもらいました。」
「あなたの守る気持ち。見せてもらいました。」
頭の中に聞こえてくるこの声…。
そうか、この二匹のドラゴンから…。
「今こそ、聖剣をあなたに渡しましょう。」
「私たちは聖光の宝剣グラジナ!今こそ悪を倒すとき!」
と言ったと思うと、二匹の竜は金色の鞘と、銀色に輝く剣に変わった。
宙に浮くそれを握って、鞘に収めた。
す、すごい。
ものすごい力が宿っていることを感じる!
これが宝剣の力か!
「やったな。グレイブくん。」
エビネスが笑って拍手しながら近づいてきた。
「しっかし、あんな連中を守ろうってグレイブくんの気が知れんよ。」
その言葉にオレも苦笑した。
「そうだね…。」
エビネスはフフと笑って
「だが、それが勇者なのかもしれん。近くで見てみると熱いヤツで興奮するわい。はははははははは!」
と最後に高らかに笑った。
「では行こう。最終決戦に!」
「うん。魔族の地イブラガルドへ!」
オレたちが洞窟の外に出ると、大きな白金色に輝くドラゴンが待っていた。
ドキリとして、互いに剣を抜こうとすると…
「勇者とその供のものよ。それは我が子です。」
え?
剣から頭に直接聞こえるドラゴンの声…。
「供って、余のことか?」
「そうみたい。」
「ぬぅ…!」
やば…。
しかし、そんなことを気にしないドラゴンは尚も続ける。
「さぁ、我が子の背中に乗りなさい。敵の城まで送りましょう!」
え?マジ?
ここから合体魔法のフラスカで行くのはちょっと無理だと思ってたんだ!
すげぇすげぇ。
ありゃ?エビネスがつまらなそうな顔…。
お、怒ったの?
供とかって言われたから??
「…どーしたの?」
「ふん…。せっかくフラスカが使えると思ったのに…。まぁいい…。」
え?…それってどういう意味?
実はオレも…マジックパワーは気になったけど、そう思ってました…。ハイ…。
白金の竜の背中に乗りこむと、ものすごいスピードで魔族の地イブラガルドに向かって行く…。
このドラゴンの地をぬけ、魔獣の森、騎士の国エラルド、魔法の村プラスマ、王国ワンドレイド…。
無限の砂漠の上空に差し掛かった時、遥か先の空に小豆色の飛空艇が見えた。
あれ?
クリムゾンイーグルじゃん。
オレたちの前を黒い雲をかき分けてクランプたちが乗る、クリムゾンイーグルが進む。
白金の竜がその横を通り過ぎると、エビネスが身振り手振りで挑発した。
「やーい!やーい!おせーんだよ!バーカ!バーカ!」
…これが大魔王…??
あっという間にクランプたちを通り過ぎ、イブラガルドの中心。
魔物の大都市だ。中央には大きな城。
その城門の前に白金の竜は舞い降りた。
並みいる魔物たちは目をパチクリさせていた。
「よ!」
と、一声上げてエビネスは白金の竜より飛び降りた。
「へ、陛下!」
「…これは、一体…。」
と、駆け寄ってきた魔物がエビネスを迎えた。
「ふむ。みな健勝で何よりである。余のことをバドガスはなんて言っておった?」
魔物たちは顔を見合わせた。
「は、はは!前陛下は今上(きんじょう)陛下にその御位(みくらい)を禅譲(ぜんじょう)し誰も知らない土地で隠居なさっていると聞き及びましたが…。」
「さようであるか。分かった。どれどれ、では今上陛下に会いにゆくとしよう。」
とエビネスが城の入り口に入ろうとすると、体の大きい黒い甲冑をまとった門番たちは片膝をついて頭を下げた。
「まさか、陛下のご飛来に気付かず、我ら万死に値致します…。」
エビネスは鼻で笑った。
「追従(ついしょう)はよいよい…。道をあけよ。」
と言うと、門番たちは急いで左右に寄った。
「さぁ、グレイブくん。余に続け。」
「は、はい。」
そりゃオレは人間な訳だから、門番はあわてて
「陛下?この者は…?」
「ん?知らんのか?余はこの者のお供らしいぞ?ふふ。はっはっはっは!」
と、エビネスが高く笑うと、門番たちは訳も分からず、ただ合わせて愛想笑いをした。
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