第5話 彼女を助けたら…発動

それから、オレたちは大きな街へ。

とりあえず、どうにかして金を得ないとなぁ。

食料は川や山でとれるからどうにかなっても、宿屋にも泊まりたいし。


「ふむ…。ここはグレイブくんが救ってやった街だったな。」


「え?…うん…まぁ…。」


「はっはっは。では思わぬ歓待を受けそうだな。これは久々によい食事にありつけそうだ…。」


うーん…。何か期待してるみたいだけど…。


急ぎ足で職の斡旋所に言って、簡単そうなクエストを聞く。


後ろでヒソヒソと指を指されてるけど気にしない…。気にしない…。


「なんだ?あの者達は?なぜグレイブくんを変な目で見ている。」


「あ、エビネス。これなんていいんじゃない?山に行って赤い花を20取って来る…。200エンドル(通貨)貰えるよ。」


「いやいや。気にならんのか?バカにしてるような感じだぞ?」


「……いいんだ…。」


「いいわけないだろ?グレイブくんが勇者じゃないとかペチャクチャペチャクチャ。」


「分かってる…。」


クエストを引き受けて斡旋所をでた。

小さい子から小石をぶつけられた。


「オマエなんか勇者じゃない!」


エビネスは子供を睨みつけ、黒いローブを広げてヒラヒラさせながら


「なんだと、コゾォォォォーーーー!!」


子供にせまる、エビネスを止めた。

子供が怯えてる…。

大人達の顔が怒りに震えて、やがて爆発した。


「でていけ!偽りも勇者め!」

「そうだよ!期待するだけさせといて!」

「今度は子供に暴力か!」

「そーだ!そーだ!でていけーー!」


そういって、オレたちに石や卵をなげつけてきた。

オレはマントを広げてエビネスを隠し、急ぎ足で街を出た。


「ケガは?大丈夫?」


「大丈夫だと?」


エビネスは宝剣を抜いて叫んだ。


「今まで勇者に頼っておったくせに、その礼がこれか!」


…うん。エビネスは今までオレの動向を水晶玉で見てたから分かるのか…。


「迫り来る巨人の群れを流星魔法で倒し、歓喜の嵐であったはずだ!それが勇者じゃないと分かると手のひら返したように!」


そう…。あの時、クランプは街の入り口にいる巨人と戦っていた。

でも、後ろにたくさんの巨人の増援部隊が見えたんだ。

だから、オレはクランプに入り口の巨人を託して移動魔法で巨人の群れの前に立ち、流星魔法で一掃した。

流星魔法は使う場所が限られてる…。街の近くで使えば街も壊滅する。だから、離れて使わなければならなかったんだ。

魔力を使い果たして息も絶え絶え戻ると、クランプはすでに巨人を倒していて街中は大喜びだった。

逆にオレは逃げたみたいに思われてたっけ…。


「…ま。しょうがないよ。オレだって言いたいことはあるさ。でも失った信用はなかなか回復出来ないもんな。」


「ふん。」


エビネスはそっぽを向いてしまった。

二人にしばらく静寂がただよう…。


「なぁ…。」


「ふん…。」


「…倒しに行くか。…魔王バドガスを。」


「ん?」


「グズグズやってないでさ。二人で透明になって時間を止めて…。」


「やる気になったか!」


「うん。見返そう!みんなを!そして、エビネスは…。」


「大魔王に復帰…。」


オレたちは言葉を止めた。

なぜなら、そうなると敵同士になってしまうから…。


エビネスは少し悲しそうな顔をした。


「…ま…。その辺はあとで考えるとしよう。」


「うん。そうだね。」


「グレイブくん。キミはあの山を知っているか?」


エビネスが指差した山は細く切り立った山。

頂上の方は雲に隠れている。


「あれって…。塵屑(ちりくず)山…。」


「そうだ。あの山頂に余の教育係の大魔導士ダールが隠居しておる。」


「ふぅん…。」


「彼の者ならきっと力になってくれよう。」


「そうなんだ。」


そう言って、オレたちは塵屑山を目指して歩き出した。

それは、ボロボロの山で、のぼったところから崩れて行く…。


「こりゃ、無理だよ…。」


「繰り言を言うな。勇者ならやれ。」


そんなこと言ったって…。

そのうち山自体が崩れちゃうよ?


「どうやって、その…ダールさんは山頂に住んでるの?」


「瞬間移動の魔法が使えるからな。」


「そうか…。そうでもしなきゃ無理だろうな…。」


なんとか、五合目くらいまできた。

でもさらに難所になった。

足場は片足が乗るくらい…。

一歩間違えたら…。


死ぬ。


「はー。やっぱり戻るか。」


「エビネスが言ったんだろ?ここまできたら引き返せないよ…。」


その時!エビネスの足場が崩れた。

彼女の体が山から落ちる!


「キャァッ!!」


やばい!


オレは彼女目掛けて壁を蹴って飛び降り、彼女の肩を引き寄せ抱き、頭を守った!

すごい勢いで墜落してゆく…。目を閉じて死を覚悟した。


「ん?」


「あれ?れ?」


フワリフワリとオレたちの体が浮き始めた。


「おお!グレイブくんが肩を抱くと究極魔法フラスカが使えるのか!」


おおおお!!

はぁぁ〜〜〜。よかったぁ…。やっぱり、そういうやつね。

肩抱きで発動しました。フラスカ。


究極魔法フラスカ…。

神話や文献でしか見たこと無いけど…。傷ついて翼の折れた神々や空を飛べない協力者の人間が魔法によって空を飛んで戦いに参加したってやつね。

高度による身体的な影響を受けず、岩や山すら浮かしてしまうってやつ…。

文献だけだと思ったわ…そーゆーの…。


「すばらしい。とりあえず、山頂までこのまま行ってしまおう。」


「そ、そーだね。」


オレたちは身を寄せ合ってお互いの手を広げて空を飛んだ。


「ふふ…。」


「どした?」


「うれしいぞ。余を守るために飛び降りてくれるとは…。昔、水晶玉で見ていた時はただの偽善者だと思っていたが…。ふふふ。なかなか熱いヤツ。」


「…いやぁ…。無我夢中で…。はは…。」


山頂まであっという間だった。


針のような先端の山頂に、フラフラと小さい小屋が乗っている。

これが大魔導士ダールさんの庵(いおり)ね…。


ドアが自動的に開いて、オレたちは引っ張られるように中に入って行った。

エビネスが


「おお!ダール!久しかったな。壮健であったか?」


「おお。陛下。お待ちしておりました!」


と、慌てた様子で話し始めた。


「陛下とその者がくるのは先達(せんだっ)てより分かっておりました。」


「何も、そう急ぐ必要もあるまい。茶でも馳走になろう。」


「いえ。慌てなくてはなりません。にっくきバドガスは私に呪いをかけました。陛下と相見(あいまみ)えた時、3分で死ぬ呪いです!」


「な、なに!」


「ですから、用件を言います。陛下はすでに宝剣をお持ちだ。ですから、その者のために最強の武器を手に入れるのです。聖光の宝剣です。金竜山にございます。守護者(ガーディアン)はゴールドドラゴンとシルバードラゴンです。それでバドガスを倒すのです!」


聖光の宝剣?

うわさでは何百年も前に失われたって…。

現存してるのか!やった!勇者の最強の武器だ!


「宝剣が二振り必要になるときが必ず来ます。もともと、二つの剣は双子なのです。」


「わかった。もうやめよ。」


「ああもう、お仕舞いでございます。陛下。きっと復帰して下さい!ダールめが言えるのはここまででございます。さぁ、お逃げなさい!」


というと、ドアが空きオレたちは外に吹き飛ばされた。


あわてて彼女の肩を抱いた。


ダールさんの庵からポン!という音が聞こえた。

そして、山はガラガラと崩れ出し、完全に崩れ去ってしまった。


「ダール!ああ!ダール!!」


エビネスは泣きながら


「クソぉ!チクショウ!バドガスめぇ!」


そうだ。なんてヤツなんだ。

本当に… バドガスめ!

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