第4話 2つ目の究極魔法

オレは彼女の手を引いて、なるべく兵士が少ない場所に移動した。

周囲に人影がなくなったところ見計らってクリガラを解除し、ため息をついた。


「はぁ…。」


「はっはっはっは。あの兵士の慌てようと言ったら…。無様であったな。面白い。」


「何言ってんだよ…。足音だって立てないようにしてるのに…。バレるだろ?バレちゃうだろ?」


「そーですか。すいませんね。ゆーしゃさま。」


かわいい。…でもムカつく。こいつ。


「ではさっさと剣を取ってずらかろう。」


「もう、それしかないね。はぁ…。」


手を繋ぎ合って、長い長い階段を降りて行く。

兵士の数がどんどん減って行く。

おそらく、城門の守備を固めようって腹なんだろう。


そりゃ、透明になって忍び込まれるとは考えてないだろうな…。


城塞の最下層についた。

青い、大きな石の扉だ。


「重そうな扉だね。二人じゃあけるの無理じゃない?」


というと、エビネスは


「ゴマトビ!」


と呪文を唱えた。みるみる扉が開いて行く。


「すっげぇ!解錠の魔法まで使えるんだ!」


「うむ。これは闇の魔法だからな。ちょちょいのちょいだ。」


扉の中は大広間になっていた。

おごそかな雰囲気だ。


中央には闇の宝剣プルトンが台座の石に突き刺さっていて、鞘はその下に寝かされていた。


台座の脇には赤い炎と青い炎のかがり火が焚かれていた。


「ほう!あれが!」


エビネスは手を放して、宝剣に向かって歩き出した。

すると、赤い炎は燃え盛る鳥の形になり、青い炎は犬の形になった。


「うわわわわわ!守護者(ガーディアン)だ!」


おそらく、剣を守るために聖霊を置いて守護してたんだろう。


驚いて彼女はすぐさまオレと手を握ったがすでに遅かった。


青く燃える炎の犬はオレたちの匂いに気付いて、正確に飛びかかってきたのだ。


そらそーだ。相手は聖霊といえど犬…。匂いで敵をさぐるなんてお手のもんだろう。

このままじゃエビネスが危ない!


無意識に彼女の腕を組んで自分の方に引っ張って剣を構えて守った。


「………。」


「……あ、あれ??」


止まっていた。

赤い炎の鳥も、青い炎の犬も。


台座を囲む水も凍ったように動いていなかった。


オレたちは腕を組んだまま…。


「ほう。これは究極魔法チタクック。」


「チタクックって時間を止めるってヤツ?」


「そうだ。まさかグレイブくんと腕を組むと発動するとはな。面白い。」


究極魔王チタクック。

神話や文献にあるやつだ。納期までに武器を作り切れない魔法の鍛冶屋のために女神が時間を止めてやったってやつ。

術者や術者が選んだ者以外の時間を完全に停止してしまう。

もしも、時間を再始動する前に術者が死んでしまったらどうなるんだろ…。


「で、でもラッキーー!このまま、剣を失敬して、城塞をでちゃおう。うん。それがいい。」


オレたちは台座に近づいてお互いの片手を添えて無事に宝剣を引き抜いた。


「ほ、ほう。なじむ。実になじむ!」


「オーケー…。分かったから、このまま城塞を出るよ?ほら、鞘も拾ったから。」


彼女が宝剣を握っている都合上、オレが鞘を拾って、腕を組んだまま城塞の外へ。


それなりに離れてからお互いの腕を放した。


「うわーーー!めっちゃマジックパワー使った!エビネスは?大丈夫?」


「いやぁ。階段上ってるときにもうすっからかんだった。グレイブくんにマジックパワーが残っていて良かった。はっはっは。危うし危うし。」


そうなんだ。この合体魔法は片方にマジックパワーが残ってれば使えるんだな…。

はは。何事も実戦あるのみだなぁ…。


エビネスは月にさらして宝剣を見ていた。

その間にオレは野営の準備をした。

火球の魔法を使ってたき火を焚いて、枕になりそうな石を二つ選んで彼女の側に一つ置いて


「どれ?宝剣オレにも見せてよ。」


エビネスは月夜にギラリと宝剣のむき身をさらした。

基本黒く輝いているが光に当たると虹色に光っていた。


「すげぇーー!!さすが最強の剣!」


突然、彼女は剣を振るってオレの喉元に刃を当てた。


「!!!うっ…!!」


彼女の目がオレを睨む。


「にっくき我が宿敵!こうしてグレイブくんの首を落とすのはいとも容易(たやす)い!!」


くそ…!


クソ!!

そーゆーわけかよ!

オレを利用して…!!


「だが…。」


彼女はパチンと宝剣を鞘にしまった。


「今は余の相棒だ。」


はぁーーー。


「脅かすなよ…。」


「スマン。…だがな。昔はこんな風にシュミレーションしたものだ。グレイブくんをどうやって嬲(なぶ)ってやるか…。苦痛を与えて殺してやるかを…。」


うげ…悪趣味なやつ…。

…まぁ、オレも魔王バドガスは打ち倒す…っていうか殺さなきゃならないと思っていたけどさ…。


「しかしなぁ…。」


「え?」


「大魔王と勇者の究極魔法…。」


「うん。」


「なかなかいいものだな。」


といってニコリと笑った。


か、かわいい…。


「どれ。余は先に休む。マジックパワーを回復せねばな。」


「そーだね。オレももう、火球の魔法すら使えないや。」


「はは。全くだ。」


といって、彼女はオレが用意した石の枕に頭を乗せ、スヤスヤと寝てしまった。

よっぽど疲れたんだろう。

たしかにマジックパワー使いまくったもんな…。


でもさ…。

エビネス…。

オレ、気付いちゃったんだ…。


究極魔法…。


手を繋ぐ…。

腕を組む…。


男女の恋の段階が魔法になるっていうの?


これ、もっとグレードアップしたらどんな魔法使えるんだろ??


たしか、後継者がなくて失われた究極魔法は…4つ?5つ?


手を繋ぐ→クリガラ

腕を組む→チタクック


つまりその…。

上?男女の進展…。


た、例えば…。


例えばさ…。


タラーーー…。


「わ!鼻血!」


雑念だ。雑念のせいだ!

ソッコー、ボロキレで鼻血を吹いて寝た。

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