第5話 ヒカリヤ学院

園長先生を呼んでくると言って、女の子は小走りで廊下の奥へ消えていった。

しばらく待っていると、2階の方からドスン、と何かの倒れた音がした。音からしてけっこう大きな物の気がするが、大丈夫だろうか。

そしてもう9時半。本当だったら今から何かしらの手伝いをしているはずだったんだが。違うところに来てしまったのは確かっぽいし、家にサボってるなんて連絡が入っていたらどうしよう。ああ、引きこもりたい。


「すみません。お待たせしました。」


今度はレベル1の村に出てくる村長みたいな、中肉中背中年のおっさんが出てきた。


「あの、すみません。俺、老人ホームのヒカリヤにボランティアで来たんですけど、なんか、その、間違ってここに来てしまったみたいで…」

「ああ、それでここに来ちゃったのか。老人施設の方は、ここから歩けば10分くらいで行けるんじゃないかな。どれ、外出て説明するから早くおいで。」

「ありがとうございます!」


面倒見の良さも村長っぽい。ありがとう、村長、いや、園長。

どうやら俺は、林に入ったあたりで道を1本間違えたらしい。ちょっと引返さなければならないが、意外と近かったようで安心した。


「すみません。本当にありがとうございました。」

「いやいや、頑張って働いておいで。」

「はい。あの、あの子にもお礼を言いたいんですけど」

「……あの子?」


ぴくり、と園長の右眉の先が上がり、笑顔を作っていた口もとが、少し真顔になった。


「はい、あの、園長を呼んで来てくれた、銀髪の女の子なんですけど。」

「ああ、あの子ね。私からきちんと伝えておくよ。……ところで、彼女とはなんか話をしたのかね?」

「いいえ、特に何も。そういえばあの子はここを学校って言っていましたけど、ここって一体、」

「それよりも、ボランティアの時間はまだ大丈夫かな?早く行かないと駄目なんじゃないかね?」


少しトーンの低くなった声で静かに言われ、ハッとする。


「やっば!もう遅刻だから早く行かないと!すみません、俺、行きます。」


玄関まで出て笑顔で見送ってくれた園長に礼を言い、俺は久々に全力でダッシュした。まったく、なんて土曜日だ!




「チッ。間抜け面の凡人が。」


園長が俺の背に向けて忌々しげに呟いていたことなんて、俺には知る由もなかった。




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