シンフォニック・シティ・チェイス③

三番地に向かいながらカレントはトワに電話をかけた。時代遅れのガラケーだ。


「トワ!聞こえるか?」

『カレントさん?どうしました?』

「トキの居場所が分かった。三番地の交差点だ!急げ!」

『分かりました!...でもどうして居場所が分かったんです?』

「話せば長くなる。この事件、結構裏がありそうだ!とにかく急いでくれ」

『わかりました!』


曲がり角を曲がって、ようやく三番地の交差点についたが、信号待ちでかなり人が多い。カレントは辺りを見回すがそれらしい人物は見当たらない。


「くそうッ!とこだ!?」


信号が青に変わって視界が一気にひらけ、グラサンの三人組が裏路地に入って行くのが見えた。


「いやがった!」


カレントは人混みの中、横断歩道を駆け抜けて裏路地に入った。

男達は誰かを追いかけていた。男の一人が叫ぶ。


「あの二人はまだ来ねぇのか!?」


やはりコイツらがあの二人の仲間ようだ


「どけッ!」


カレントが三人を突き飛ばすと、逃げていく一人の少女の後ろ姿が見えた。

間違いない。トキだ。


「おい!待ってくれ!」


そう声をかけるとトキは一瞬こちらを振り返り、焦ったように逃げ足を早めた。


「くそぅ!なんで!?」


カレントも三十代の足腰にムチを打って加速する。トキが弱っていた事もあってか、なんとかトキに追い付いて彼女の腕を掴んだ。

カレントが息を切らしながら笑った。客観的に見れば完全に不審者のそれだ。


「よ、ようやく捕まえたぜ...」


トキは腕を振りほどこうとしながら叫んだ。


「はなして!その大きなサングラス!さっきの奴等の仲間ね!?」

「......なにぃ!?」


カレントが意表を突かれたかの様にすっとんきょうな声を上げた。

確かにカレントもあいつらと同じ様にサングラスをかけている。


「ちくしょう!トワがいれば話が早かったのに!なんでアイツいないんだよ!」


その言葉にトキが反応した。


「トワ...?トワを知って....」


しかし、彼女の言葉はカレントに届く前にさえぎられた。


「待ちやがれ!」


カレントに突き飛ばされ倒れこんでいた三人組が復活したようだ。


「くそッ!話しは後だ!行くぞ!」

「え...!ちょっと...!」


カレントはトキの手をひいて走り出した。

トキは、あの男達に引っ張られた時の様な恐怖は不思議と感じなかった。

路地を抜け、大通りに出る。


「はぁ...はぁ....ちょっと...まって....」


トキが息を切らして立ち止まる。

もう三日もなにも口にしていないトキの体力は限界だった。


「しょうがないな!」


カレントがため息を吐き、トキをおぶさって走る。


「ちょ、ちょと!?」

「しゃべると舌を噛むぜ。しっかりつかまってるんだな!」


カレントは車道に飛び出した。

突然飛び出してきた人に、車は急ブレーキをかけ玉突き事故が発生する。

道路が騒然となり、いたるところからクラクションが鳴り響く。

三人組も事故した車を飛び越え、負けじと追いかけてくる。カレントは後ろを振り返って叫ぶ。


「しつこい男共だ!レディに嫌われるぜ?」


すると、背中でトキがボソリと呟く。


「強引な男もだとを思うけど?」

「やかましいわ!」


───


突然発生した事故に、行方不明になった友人を探していた二人のアニマルガール、サーバルとカラカルは驚いた。


「うわっ!なにごと!?」

「誰かが車道に飛び出したみたい。まったく危ないことするわね....」


そんな事を言いながら事件現場を見物していると、車の影から走る人影が一瞬だけ確認できた。だが、ネコ科の動体視力では個人を判別するのにその一瞬で十分だった。


「ちょっと待って...!あれトキじゃない!」

「サングラスの男の人におんぶされてたよ!...誘拐!?」

「いくわよ!サーバル!」


二人は車道に飛び出した。


───


カレントは追っ手から逃げつつ、トワに電話をかける。


「トワ!今どこだ!」

『三番地に着いたところですけど.....何事ですかこれは!交通規制が張られてて交差点に行けません!』

「ちょっとしたトラブルだ!予定を変更する!五番地に向かってくれ。そこで落ち合おう!」

『分かりました!ところでトキは見つかったんです!?』

「あぁ!いま背負ってる!」

『背負ってるぅ!?』

「後で詳しく説明してやる!切るぞ!」


電話でのやり取りを聞いていたトキが呟く。


「・・・・・あなた、やっぱりトワの....」


電話を切ってポケットにしまった瞬間、何者かに飛びかかられた。


「とりゃーッ!」


カレントは間一髪攻撃をかわした。


「何しやがるッ!?」

「わたしの攻撃をかわすなんて、オジサンなかなかのやり手だね!」


そんな風に、どや顔でよく知った声が叫んだ。カレントもトキも、よく知った声だった。


「サーバル!何してんだこんな所で!?」


後ろに背負ったトキも驚きの声を上げた。


「サーバル...!カラカルも...!」


するとサーバルが驚く。


「オジサンなんでわたしの事知ってるの!」

「サーバル!コイツきっとストーカーだわ!」


カレントはなぜか無実の罪で軽蔑の目を投げかけられた。


「ふざけるなッ!カレントだよ!ジャック・カレントぉ!」


すると、なぜかサーバルが怒りだした。


「カレント隊長はそんなサングラスかけてないよ!隊長の名前を使って騙そうなんて!」

「そうよ!ニセモノにはセーバルで慣れてるのよ!観念してトキを返しなさい!」

「ちくしょう!個人を識別する能力が死んでんのか!」


再び飛びかかって来たサーバルの腕を掴んでヒラリと右にかわし、腕を放した。

サーバルは自分の攻撃の勢いで転ぶ。


「ぎにゃーッ!?」

「お前らと遊んでるヒマは無いんだ!じゃあな!」


カレントは再び走り出した。


「ま、待ちなさい!」


後を追いかけようとしたカラカルの横をグラサンの三人組が走り抜けて行った。


「待ちやがれコラッ!」


どうやら彼らもニセ隊長とトキを追っているらしい。


「どうなってるのよ!?」


カラカルは膝を擦りむいて転げ回っているサーバルを引っ張り起こし、三人組の後を追った。


───


カレントは走りながら背中に背負ったトキに問いかけた。


「さっきのサーバルとカラカル、君の友達なのか?」

「ええ...そうよ。二人を知っているの?」

「あぁ...知ってるとも。もちろんだ。何度あいつらのせいでトラブルに巻き込まれたか....」


カレントが過去の嫌な思い出を思いだし、苦い顔をした時だった。


「待つのだァーーーーーッッ!!」


人混みの中から誰かが目の前に飛び出してきた。


「アライグマ...!」


カレントがトキに苦々しく叫んだ。


「また君のお友達か!?みんな友達想いで結構なことだ!」


「さあ!観念するだ誘拐犯め!トキを放してお縄につくのだ!」


カレントの後ろから三人組が追い付いてきた。


「追い付いたぞッ!」


その後ろからはサーバルとカラカルも走って来ている。


「待ちなさーい!」


前にはアライグマ、後ろから三人組とサーバル&カラカル。完全に追い詰められた。


「ちくしょう!どうなってんだこりゃ!?」

「右よ!」


トキが指した方向には裏路地があった。


「よしッ!」


カレントは野次馬をはね除け、裏路地に入った。


「待つのだーーッ!!」

「待ってよー。アライさーん」


裏路地に飛び込んだカレント達に、アライグマと人混みから出てきたフェネックが続く。


「待ちやがれコラッ!」

「待てーー!!」


三人組とサーバル達も裏路地に突入した。



足音と飛び交う声が、クラクションが、響き合い、重なり合って一つのメロディになる。まるで交響曲の様に──

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