シンフォニック・シティ・チェイス②
高層ビルに囲まれた裏路地に足音が響き渡る。
「こっちに来たはずだ!探せ!」
息を切らした五人程の男達は辺りを見回し、何かを探し回っていた。
服装はバラバラで、共通しているのは大きなサングラスを掛けていると言う事ぐらいだろうか。
「くそッ!どこに行きやがった!」
男の一人がゴミ箱を蹴とばし、中身が散らばった。
「もう一度よく探すんだ!」
その言葉を皮切りに、男達は走り去っていく。
彼女は、物陰からその様子を確認して胸を撫で下ろした。
「行ったみたいね....」
───三日前の夕方、彼女はいつもの様に歌の練習を終えて帰路に着いていた。
沈んで行く夕日を眺めながら河川敷をゆっくりと歩く。いつもと変わらない帰り道。突然、後ろからやって来た黒いワゴン車が彼女の横に止まり、中から一人の男が出てきて道を訪ねられた。この辺りに観光客が来ることなど滅多に無いが、彼女はそんなことは気にも止めず親切に道を教える。しかし、黙って道案内を聞いていた男がいきなり彼女の腕を捕み、車に引き込もうとした。彼女は驚き、腕を振り払って逃げ出した────
「・・・・・あれから三日も何も食べてない....もう飛ぶこともできないわね....」
彼女はその場にへたれ込み、目を瞑った。
旅をしていた頃はどんなピンチの時も、友達と"彼"がいた。だが今はたった一人。
「・・・・でも、逃げないと。いつまでもここにいたら見つかる...」
彼女、トキは立ち上がり、フラフラと歩き始めた。
────
「かっ!カレントさん!この子.....!」
書類に目を通していたトワが突然叫んだ。
「ん?あぁ...行方不明になったアニマルガールか?彼女はトキ。トキ科トキ属の...」
「この子...俺の知り合いなんです....!」
ふーん。とカレントが興味なさそうに呟き、コーヒーカップを手に取る。
しかし、カレントは飲もうとしていたコーヒーを吹き出した。
「な、なんだとッ!?」
「奨励金がどうこう言ってる場合じゃないですよこれは....!探しに行かないと....!」
トワは勢いよくソファーから立ち上がった。
「お、おい。だが情報が不十分...」
カレントがそう言いかけたが、トワは部屋を飛び出していってしまった。
直後、外でエンジン音がなり響いた。
「あの野郎.....」
カレントは渋々立ち上がり、コートハンガーに掛けたライダースジャケットを羽織り、胸ポケットのパイロットサングラスをかけて外に出た。
バイクカバーをひっぺがして愛車の真っ黒なクラシックバイクにエンジンをかける。
「やれやれ・・・こっちは情報収集といきますか...」
カレントはタバコに火をつけ、バイクを発進させた。
穏やかなそよ風が心地よい。
しばらく走り、アンイン地方の都市部に着いた。歩道にバイクを止めてここからは歩く。まずは数百メートル先の手近な露天に立ち寄った。
新聞を読みながら店番をしていた老人に声をかける。
「よお、親父さん。コーヒー1杯もらえるか?コスタリカ。」
「カレントか。仕事かい?」
「まぁそんなところだ。この子を見かけなかったか?」
カレントはふところを漁り、書類に付いていたトキの写真を店主に見せた。
「ちょっとまってくれ...歳を取るとどうも近くのもんがな...」
そう言って店主は老眼鏡をかけた。
「おぉ!この子か!」
「見かけたのか!?」
「いや。ワシは見とらんが、あそこのお客にも同じ事を聞かれたのう」
店主が指したガーデンテーブルには、サングラスをかけた二人の男が座っていた。
カレントは訝しげに店主に訪ねる。
「聞かれた?この子の事をか?」
「そうじゃよ。どうかしたかの?」
「・・・・・いや、なんでもない。ありがとう親父さん。」
カレントはその場を立ち去ろうとしたが店主に呼び止められた。
「コーヒーを忘れとるぞ!」
「おっと、そうだった!」
カレントはコーヒーを受け取り、二人組の席へ向かった。
「向かいの席、いいかい?」
「・・・・・・」
カレントは答えを待たずに向かいの席に腰かける。
「ちょっと聞きたいんだが......あんたら、この子を見かけなかったか?」
カレントは二人にトキの写真を差し出した。
「........!!」
男の一人が反応したのがカレントには分かった。チョロい。こっちがしたっぱだろう。
もう一人が口を開く。こっちの男は一見冷静そうだが殺気立ってるな。と思った
「いや、そんな人は知らない.....なッ!!」
不意に男がカレントに拳を振るった。だが、その拳はカレントの頬の当たる寸前でピタリと止まる。男がサングラス越しでも分かる程、目を見開いた。
「な......ッ!!」
カレントがガッシリと男の手首を掴んでいたのだ。必死に振りほどこうとするが、腕はピクリとも動かない。
「なんだよ.....?」
カレントはニヤリと笑って呟いた。だが、目はまったく笑っていなかった。
男がカレントに気圧され、冷汗をかく。
「くそッ.....!」
次の瞬間。カレントは男の手を放し、テーブルを蹴りあげた。
コーヒーが宙を舞い、テーブルの天板が男達の顔面に直撃する。
したっぱが小さく呻き声を上げた。
「グェ...ッ!」
「このッ!!」
テーブルを振り払い、腕を振り回して突っ込んできた。
カレントは二人のパンチをひらひらと踊るようにかわす。
突然はじまった乱闘に、店主はため息を吐いた。
「やれやれ....また始めよったわい。」
ひらひらパンチを避けながら、カレントが突然叫んだ。
「パンチの基本を教えてやろうか!?」
「なにッ!?」
カレントは腰をひねり、したっぱの顎におもいっきりストレートをかました。
きれいにヒットし、したっぱの体は音もなく崩れ落ちた。
「パンチは腰から打つ。これが基本だ。」
仲間が一瞬でやられた事に驚いた男が後ずさりし、歯軋りをした。
「よ、よくもやりやがったなッ!」
ヤケになり突っ込んできた男の股にカレントはすかさず蹴りを入れた。
男は悲痛な悲鳴を上げてうずくまるが、カレントは容赦なく胸ぐらを掴み上げた。
「お前らの目的は何だ?なぜトキを探している?」
「ほ、捕獲して売りさばくんだよ。わ、わかるだろ?へへ....」
どうやらこの男。カレントを同業者だと思ったらしい。
「売りさばくだと!?」
カレントはさらにキツく胸ぐらを掴む。
「ど、動物に戻して、ブラックマーケットで毛を売るんだよ」
男はそんな事を言ってヘラヘラと笑っている。
カレントはすぐにでもコイツを殴り倒したかったが、まだ聞くことがある。
「仲間は?」
「し、知るかよ....」
男が目をそらした。とぼけるつもりらしい。カレントが胸ぐらを締め上げたとき、男の無線に通信が入った。
『ザザッ....おい...聞こえるか....見つけたぞ。三番地の交差点だ!....すぐに来い!...』
「くそッ!やっぱり仲間がいやがったか!」
カレントは無線を聞き終えると、男を胸ぐらを掴んだまま地面に叩きつけた。
呻き声が上がり、気絶する。
「親父さん!コーヒーはコイツらにつけといてくれッ!」
カレントはそう言い残し、三番地に向かって走り出した。
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