シンフォニック・シティ・チェイス①

アンイン地方の町外れの草原に、一軒のボロ家ポツンとがたたずんでいる。

時代も国も場違いな、イギリス風の石造りの小さな民家。

ここがカレントのねぐらであり、JPPの本部だった。


「.....まったく、もっとろくな仕事はないのか?」


カレントはデスクにふんぞり返り、山積みになった書類に目を通していた。

この書類は管理センターからFAXで送られてくる事件報告書なのだが、

管理センターが些細な事件でも逐一報告書を送りつけてくるため、カレントのデスクは荒れ放題になっていた。カレントは気が向くと報告書に一枚一枚目を通し、捨てていく。少なくとも週に一回はこれを行うのが習慣になっていた。


「なになに...”子猫が脱走、捜索願います”だ?...しるかッ!自分で探せ!」


報告書を握りつぶし、紙くずの山に放り投げた。そこはゴミ箱がある場所なのだが、捨てられた報告書の山に埋もれて見えなくなっている。


「カレントさん。いったん昼飯にしましょう。」


ドアが開き、隣の部屋からトワが顔を覗かせた。


「わかった。今行く...」


カレントは書類を適当に十枚程掴み、部屋を出た。


「うわ、食事の時間もそれ見るんですか....?」

「仕方が無いだろ?まだたんまりとあるんだ。さてと、昼メシはなにかな~?」


カレントがソファーに座り、昼食を待つ。


「はい。お待たせしました。野菜炒めです。」


トワが二人分の皿をソファーの前のローテーブルに置く。

醤油ベースの香りがカレントの鼻まで伝わってきた。


「おお、うまそうだな!」


カレントは意気揚々と皿を掴み、三分の一ほどを一気に口にかき込んだ。

しかし、うまそうに頬張っていたカレントの顔からだんだんと笑顔が消えていく。


「・・・・・・おい。トワ」

「はい?」

「野菜炒めって、モヤシしか入ってなかったけか?」

「まあ、時と場合によるんじゃないですかね?例えば金欠の時とか...」

「.....この前の強盗捕縛の奨励金はどうした?」


黙々とモヤシを食べていたトワの箸が止まり、深々とため息を吐いた。


「あなたがタイヤを破壊して、横転させたバスの修理代でパアです。」

「・・・・・・・・・」


一瞬顔をしかめた後、カレントは何も聞こえなかったかの様に書類に目を通し始めた。そんなカレントの様子に呆れる訳でもなく、トワが続ける。


「と言う訳で、しばらく金欠...」


そう言いかけたトワにカレントが一枚の報告書を突きつけ、淡々と内容を読み上げる。


「”試験解放区、アニマルガールが一名行方不明。至急捜索願います。(奨励金有り)”」


内容を聞き、トワの目が輝いた。


「これは....!」

「書類には、ちゃんと目を通さないとな。思わぬお宝が眠ってたりする。」


カレントはタバコに火をつけ、ニヤリと笑った。

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