城壁山脈4
「な、なんだ!? この人間は!」
化け鼠男といった表現が適当であろう男がアルフレッドへと剣を振るうが、即座に抜剣したアルフレッドによって両断され地面に転がる。
その隙を狙うべく斧を振るった猪男はアルフレッドの蹴りで文字通りに爆散する。
ティタンシステムによって「巨獣と戦う巨大人型兵器の力」そのものを得てしまったアルフレッド相手では、「人を超えた」程度の力自慢では話にもならない。
空を飛んでいた襲撃部隊の方もヴォードに次々と蹴散らされていく。
残るはワシ男ただ一人。片手剣と盾を構えていたワシ男ではあるが……仲間を簡単に引き裂くヴォードの爪の前に、明らかに脅えている。
「ヴォード……! おのれ忌々しい裏切り者め!」
「ハッ、分かったような口をきくんじゃねえよ。お前に俺の何が分かる!」
「うるさい、死ね!」
ワシ男の振るった剣はしかし、ヴォードの爪にあっさりと受け止められる。
動かそうとしても動かない。
斬ろうとしても斬れない。
竜鱗に覆われた手はワシ男の剣を握っても傷一つ付きはしない。
力でも、敵わない。
「あ、あ……」
「くだらねえ時間稼ぎをしやがって……」
ワシ男の剣をヴォードは握り砕く。
ガラスか何かのように砕け散った剣の残骸を見て、ワシ男は嘴をぽかんを開き……「ヒッ」と叫んで逃げようとしたその瞬間、ヴォードに頭を鷲掴みにされる。
「ま、待て! 俺を殺したら何も分からなくなるぞ!」
「いらねえよ。「共鳴」の事すら知らねえ雑魚の持ってる情報なんて知れたものだ」
「そ、それならぎゃぷっ」
ワシ男の頭を砕き、その身体を遠くへと投げ捨てる。
その表情には嫌悪しか浮かんではいないが……地上で暴れているアルフレッドを見て、ヴォードの顔は僅かに笑みの形になる。
あまりにも分かりやすい「正義」の形。そんなものをアルフレッドに感じたのだ。
自分ではなり得ない英雄としての姿が眩しいが……それだけではダメな事も多々あるだろう。
そんな事を考えながら、ヴォードは地上へと降りていく。
「俺も化物だって自覚はあったが……お前も大概だな」
「化物?」
「化物だろ? こんな力、人間離れし過ぎてる」
そう、OVA『超竜戦記ヴォード』はそういう物語だった。
ヴォードはその人間では有り得ない姿を見せる事で、友人から化物扱いされる。
そのあたりが解決したであろう2巻以降は諸事情により出なかったのだが……それ故に、ヴォードは人間離れした力や姿を見せれば恐れられるということを良く知っていた。
「見栄えのいい英雄の力を使えば問題ないかもしれないが……俺みたいな英雄の力を使ってみろ。きっと誰もが化物と呼ぶぜ」
そもそも英雄と化物の違いは何処か。
人の為に戦おうとも化物と呼ばれたヴォードには、それは単純に姿形の問題として認識されていた。
「……姿形は問題じゃない」
「誰もがそう言う。実際に見る、その直前まではな」
言いながら、ヴォードは変異部分を戻し歩き出す。
「行こうぜ。妙な時間稼ぎをされてる可能性がある」
「ああ」
言いながら、アルフレッドは足を速めヴォードの隣に立つ。
「……なんだよ」
「あの二人はお前を化物扱いしていない。それでは答えにならないか?」
そんなアルフレッドの言葉に、ヴォードはちらりと後ろのシェーラやヒルダを見る。
確かに、化物を見る目ではない。
恐れているようではあるが……化物を見る目であれば隠してもヴォードには分かる。
「それ」では、ない。
「……」
「どうだ?」
「どうかな。あいつ等が最初に会ったのがお前じゃなくて俺だったなら、そうはなっていなかったかもしれねえ」
そんな事を言って、ヴォードは足を速める。
もしかしたら。そんなIFの可能性を今論じる程、ヴォードは夢見がちではない。
所詮自分もまた虚構の住人。それが分かっているから、空しさも際立つ。
「行くぞ、無駄話はもう終わりだ」
共鳴。ヴォードの中にある竜の力が、この先にある別の竜の力と反応している。
近づけば近づくほど強くなる共鳴は、ヴォードの中で鳴り響く。
それは敵対の証であり、決着をつけねば終わらないもの。
言ってみれば仲間殺し。
守ろうとした人間に嫌われ、理解し合える仲間と、その価値観の違い故に殺し合う。
それがヴォードが与えられた物語。
ヴォードが、救えなかった世界の物語。
「近いのか」
「ああ、近いさ。共鳴が強くなってきてる」
きっとコソコソ隠れていることなんてしないだろう。
竜神官グラートはいつでも自信満々だった。一番の部下……いや、いずれ竜王となるのは自分だとすら嘯いていた。
あの物語ではそうはならなかった。
だが、今は違う。いつからやっているかは分からないが、すでにグラートの計画はそれなりの段階まで進んでいると考えていい。
ならば、今の様子見などではなく……もっと戦力を整えていると考えていいだろうとヴォードは判断する。
ひょっとすると、あの世界ではなかった何かさえも作り出しているかもしれない。
そう考え進んだ先に……1人の男が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます