城壁山脈3
「今の……は。モンスターとは違うのですか……?」
「
シェーラの疑問に、ヴォードはなんでもなさそうな様子でそう答える。
いや、吐き捨てるといったほうが正しいだろうか。
その瞳には、形容しがたい薄暗い色が浮かんでいる。
「人間……!?」
「言っただろ。竜因子……つまり、ドラゴンの細胞を埋め込むと人間の体は耐えきれずに変異する。そうして出来るのが、ああいうのだ」
竜隷兵。人間を効率よく支配する為の使い捨ての兵士。人間を超えた喜びに突き動かされ、いいように使われる哀れな操り人形。
そう説明するヴォードに、ヒルダとシェーラの顔色が変わっていく。
「……聞いたことないわよ、そんなの。既存のドラゴンのどれとも違うじゃない。ていうか、ブラックドラゴンの方がマシってレベルよそれ……」
「この世界のドラゴン事情なんか知らねえよ」
「そりゃそうだろうけど……え、その埋め込みっての、戦いの最中で出来るようなもんなの?」
ヒルダとしてはあんな化物になるのは御免だが、たとえばの話アルフレッドがそういう化物になってしまったら手に負えない。
それを心配していたのだが……ヴォードは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「そんな簡単なもんじゃねえよ。油断していいもんでもねえけどな」
「安心できる要素が無いじゃない……」
「安心したけりゃお家に帰りな。そこが安全かは知らねえがな」
全くの正論に、ヒルダは言い返せずに黙り込む。
自分が化物になってしまう危険性。
それは単純に命が危ないということよりも恐ろしいものに思えたのだ。
「……消えた人間全員が、ああいうのになってると思う?」
「さあな」
思う、どころか確実にそうだろうというのがヴォードの答えだ。
しかし、わざわざこんな所でそんな事を言う必要を感じてもいない。
いないが……余計な希望は重要な時に足を引っ張る可能性もある。
「あまり期待はしねえ方がいい。後から空しくなる」
「……そんな……」
シェーラが悲しそうな……しかし一縷の希望を込めた瞳でアルフレッドを見上げるが、アルフレッドは首を横に振る。
「肉体的に変異しているというのであれば、第三の瞳で祓う事は出来ない」
「そ、うですか……」
化け物にされた人間は、殺すしかない。差異こそあれ、「英雄」達はほとんど皆同じ道を辿っている。
故に、それをどうにかする奇跡のような能力があるとすれば……それこそお伽噺の魔法のようなものだけだろう。
「悩んでる暇はねえみたいだぜ?」
ヴォードの視線の先。道の先から、地響きをたてて巨大な何かがやってくる。
それは全身を硬い鎧のような皮膚で覆った小山のような何か。
無理矢理動物に例えるなら、凶悪な外見のアルマジロといったところだろうか?
その周囲を飛翔するのは、鳥人間のような空飛ぶ化物達が数匹。
全員が槍や剣で武装しているところを見ると、先程の蝙蝠男とは違い戦闘部隊なのだろう。
「さあ、気張り時だぜ。俺は守ってやる程暇じゃねえ……精々死なねえようにしろ」
言うが早いか、ヴォードは身体の一部を変異させて空へと舞い上がる。
凄まじい速度で飛行部隊へと接近し、その爪を振るっていく。
その動きに迷いはなく、戦いなれている英雄の風格が見える。
……が、そんなものをゆっくり見ている暇はない。
目の前には巨大なアルマジロの怪物が迫っており、少なくともヒルダの魔導銃で止まるとも思えない。
「う、うわわ……アルフレッド!」
「ああ」
アルフレッドはヒルダ達を庇うように前に進み出るが、その手には剣を握ってすらいない。
まさか素手であれをどうにかするつもりかと、ヒルダはそんな事を思う。
「
唱えた瞬間、アルフレッドの中に異質な何かが生まれ出る。
それは人間では有り得ない巨大な力をアルフレッドへと与え……アルフレッドは、自分の身体能力が跳ね上がった事を認識する。
「潰れて死ねい!」
やはりこのアルマジロの怪物も「元人間」なのだろう。
野太い声で叫び突進してくるアルマジロの怪物を……人間など簡単に跳ね飛ばし轢き潰すであろう巨体の突進を、アルフレッドは片手で抑え込む。
ガアン、と。柱か何かにぶつかったかのようにアルマジロの怪物の巨体は無理矢理停止させられる。
驚くべき事に、反動で浮き上がったのもアルフレッドではなくアルマジロの怪物。
それは「どちらがより強いか」という単純な力の差を明確に示していたが……そんなものを、アルマジロの怪物が認められるはずもない。
「なっ……ば、バカな!? 俺の突進を……ぶげら!」
アルマジロの怪物を止めていたものとは反対の腕がアルマジロの怪物へと叩き込まれ……その巨体が大きく吹き飛ぶ。
それはアルマジロの怪物を先頭にして迫ってきていた後続の怪物達を何匹か巻き込むが……それでも、巻き込まれなかった怪物もいる。
「はははっ、油断したな!」
地中を穴を掘って迫ってきていたモグラの怪物がアルフレッドの足元から奇襲を仕掛け……しかし、次の瞬間には地面を丸ごと削り取るような豪快な蹴りで空中へと吹き飛んでいた。
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