城壁門の町ラグレット6
複数の何かが地面を踏みしめる音。
金属がこすれ合う音。
武装する者特有の、カチャリという音。
宿のドアが静かに開けられる音。
その全てを、空也は「聞いて」いた。
「……」
何かがやってきた。それを察すると、空也はアルフレッドに伝えようとし……その目がすでに開かれているのに気づき、苦笑する。
「すげえ勘だな……ほんとに寝てんのかよオッサン」
「俺はそんな年じゃない」
「どうだかな。年齢設定ないんだろ?」
そんな軽口をたたき合うと、空也はヒルダとシェーラの肩を素早く叩いて回る。
アルフレッドには譲らんと言わんばかりの忍者スキルをフルに使った動きである。
「な、なに?」
「ふえ?」
「悪いけどさ、来たぜ」
その言葉に2人はベッドから勢いよく起き上がり、それぞれの武器を構える。
二人が次にした動作はアルフレッドを探す事だが……そのアルフレッド本人はすでにドアの近くに立ち剣を抜き放っている。
「おいおい、殺すなよ?」
「分かっている。
アルフレッドの剣はスパークランスへと変化し、僅かに電撃を空へと放つ。
そんな二人の様子を見ていたヒルダは落ち着かないのか「ね、ねえ」と話しかける。
「状況はどうなってるのよ」
「んー、とりあえず囲まれてるな。武装してるから、歓迎パーティーってわけじゃなさそうだ」
気楽な調子でそう言う空也は剣を抜いてはおらず、それで充分と言わんばかりの自然体だ。
「人数は……40か50か……もっといるか? こんだけ多い数だと掴みきれねえなあ……」
「げ、何それ。町の中に潜んでたってレベルじゃないわよ?」
「この町の自警団は何を……いえ、まさか自警団そのものが……?」
「さあなあ」
空也は笑うと、両手の親指と人差し指で四角い窓のようなものを作って床をじっと見つめ始める。
「んー……鎧着てるのもいるけど、ふっつーのおっちゃんとかおばちゃんぽいのもいるな。町の人っぽいいぜ? つーか何だアレ。笑えるんだけど」
ふむふむ、と言いながら視線を移動させていく空也にヒルダは「え?」と声をあげる。
「まるで見えてるみたいに言うわね……?」
「見えてんだよ。透視の術……まあ、一枚透かす技なんだけどさ。お、ヒルダちゃんてば意外と」
ヒルダが気付き身体を布団で隠すと同時に近づいてきたアルフレッドに殴られ、空也はチッと舌打ちする。
「もう少し後で言うべきだったか……つーか異世界でも下着とかあんのな」
「反省しろ。真面目にやれ」
「これ以上なく真面目だっつーの……ほら、来るぜ」
部屋の鍵をガチャリと開ける音が響き、ドアが静かに開かれる。
その向こうに居たのは、武装した男女がずらりと並んでいる。
空也の言うとおりに鎧を着ている者も居ればそうでない者もいるが……奇妙なのは、その全員が三角錐にも似た奇妙な形の覆面を被っていることだろう。
そしてその奇妙な者達は、戦闘態勢のアルフレッド達を見て「くっ」と唸る。
「バレてるぞ! かかれ!」
「ハッ、返り討ちだぜ!」
手に武器を構え部屋になだれ込んでくる襲撃者達を、まずはアルフレッドの「ランススパーク!」という叫びと共に放たれる電撃が迎え撃つ。
「ぐあっ!」
「ぎゃあああ!」
「ああああ!」
ドアに殺到していた襲撃者達は一気に電撃を受けて重なるように倒れ、同時に壁を突き破り突入してきた男達の眼前に空也が迫る。
「邪魔だあああ!」
「お前がな」
金属製の鎧に空也が手を触れると、次の瞬間にはその金属鎧の男は他の男達を巻き込んで吹っ飛んでいく。
「怯むな! あの方の為に背信者共を捕えるのだ!」
「おお!」
「超竜王様の名にかけて!」
アルフレッドの放つ電撃、、空也の体術。派手に、そして地味に襲撃者達を打ち倒していくが……諦める様子が全くない。
「どうするかねえ……なんか危なそうっつーか笑えそうっつーか……何かにハマってるってのは分かったけどよ」
諦める様子がない。それどころか、空也の耳はさらに町中から集まってくる気配を捉えていた。
「こりゃ……町中が敵だぜ、どうするよアルフレッド!」
「やるしかないだろうな」
「そうじゃねえよ! ヒルダちゃん達をいつまでも守り切れるもんでもねえだろっつってんの!」
外では梯子をかけて窓から入ってこようとするような気配もある。
如何にアルフレッドと空也が強いといえど、殺さないという縛りの中では完全に守り切れるとは言えない。
「どっかに避難させる必要がある! 何かあるなら出せ! 時間稼ぐからよ!」
「……分かった」
アルフレッドは頷くと、ランススパークで外へと繋がる壁を破壊する。
外から悲鳴や怒号が聞こえ始めるが、たいしたことではない。
避難場所。つまり梯子があろうとなんだろうと、やってこれないような安全なもの。
「
唱えると同時に、破られた壁の外に巨大な船が姿を現す。
それは、帆もないのに空を飛ぶ不可思議な船。甲板を晒したその「船」を見て、ヒルダは即座にシェーラを抱えて甲板へと飛び移る。
「飛べ、ガルハート!」
その言葉に応えるかのように飛空艇ガルハートは上空へと舞い上がり……それを戦いながら見送っていた空也はヒュウと口笛を吹く。
「やるねえ。で? この後はどうするよ」
「決まっている……安全の確保だ!」
「ハッ、とんだ無茶を言いやがる!」
もはや梯子をかけられようと何をされようと関係はない。
アルフレッドと空也は、枷を外された獣の如く襲撃者の群れへと突っ込んでいく。
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