城壁門の町ラグレット7

「天牙忍術……雷電!」

「がっ!」

「ぎゃああああ!?」


 床についた空也の手から電撃が走り、部屋の中に突っ込んでくる襲撃者達を感電させていく。

 殺さない程度の威力で放たれた電撃は襲撃者達を気絶させ倒すが、その身体を踏み越え襲撃者達が続々と部屋になだれ込んでくる。


「あー……ったく! 普通は怯むもんなんだがなあ!」

「恐れを知らないように見えるな」


 アルフレッドのスパークランスで直接殴られた男が壁を破壊して隣の部屋に倒れ込めば、その穴から別の襲撃者達が湧き出てくる。

 それをもアルフレッドが殴り飛ばし、正面の入り口から来る襲撃者達を空也が残像を伴うほどの連打で弾き飛ばす。


「だとしても、こいつぁおかしいぜ! 恐れを知らないってのは限度がある……麻痺してやがるぞ!」

「……麻痺、か」

「ああ。この町ってな、普通の町のはずなんだろ!? どういうこったよ!」


 分からない。だが、それがこの事態をどうにかする鍵なのだろう。

 普通の人間の「恐れ」が麻痺している。

 それはつまり、思考に何かの問題が発生しているということだろうとアルフレッドは考える。

 ならばどうすればいいのか?

 アルフレッドの剣でもスパークランスでも、思考などという見えないものは切り裂けない。

 見えざるものを切り裂くもの。そんな、ものは。


「……やってみるか」

「なんかあるのか!?」

「分からんが……やってみる価値はある。伝説解放オープン。『幻夢ハンター』・第三の目!」


 アルフレッドの額に赤く大きな「目」を思わせる宝石がついたサークレットが現れ、空也が襲撃者を弾き飛ばしながら「おお!?」と声をあげる。


「なんか凄そうだな。それでどうすんだ!?」


 言いながらも空也の手と足は止まらず襲撃者を弾き……アルフレッドは第三の目に魔力を込めていく。

 この第三の目の一つ目の能力は透視。しかし、真の能力は其処にはない。

 第三の目は、見えざるものを見通し届かぬ場所へ届く力を持つ道具。

 そして、それは。


「第三の目よ……見えざる悪意を、祓え!」


 その叫びと同時に第三の目が輝き、部屋を包む。


「うおっ!?」


 その光は、空也のような「普通」の人間には眩しいだけの光だ。

 だが、心が何かに巣食われている者には……覿面に効く。


「あ、あ……ぎゃあああああ!」

「うぐ、やめ……あああああ!」

「ひ、あ、きゃああああああ!」


 襲撃者達の悲鳴が響き、その身体から黒い影のような何かが抜け……ボロボロと崩れるようにして光の中に消えていく。


「なんだあ!? 何かが……」


 光の消えた後には襲撃者達がバタバタと倒れ、しかし光を受けていなかった場所から別の襲撃者達が現れる。


「お前等、何をした!」

「祝福が消える気配がしたぞ……捕らえろ! 捕らえて吐かせるんだ!」

「げっ……ま、そりゃそうだな!」


 部屋いっぱいの光であっても、光の届かない場所に居た者に通じないのは道理だ。

 手近な襲撃者達を弾き飛ばすと、空也は壁の穴をチラリと見る。


「……どうする?」

「当然、跳ぶ」

「だよな!」


 尋常ではない身体能力を持つ者同士、考えることは同じだ。

 アルフレッドと空也はバックステップで壁の穴から飛び出し、宙を舞う。

 そしてアルフレッドはそのまま地面を見下ろし……そこに出てきた武器を構える襲撃者達へと第三の目を向ける。


「第三の目よ! 見えざる悪意を祓え!」


 叫ぶと同時に、第三の目が地上を照らすかのように光を放つ。

 その光の中で、やはり黒い影のようなものが襲撃者達から抜けていく。


「よ……っと!」


 そして、そのまま落下するかに思えたアルフレッドを、ハンググライダーのようなものに乗った空也がヒョイと回収していく。


「む」

「む、じゃねえよ。着地する気だったんかよ」

「そのつもりだったが……」

「世界観違い過ぎるわー……」


 言いながら空也はアルフレッドを隣の建物の屋上まで運び、ハンググライダーを何処かへと仕舞い込む。

 

「どういう理屈で仕舞われてるんだ……?」

「忍法」

「……そうか」


 アルフレッドは追及を諦めると、壁の穴から顔を出して騒いでいる襲撃者達へと第三の目の光を放つ。


「この調子でいけば、打ち止めも早いかあ?」

「さあな」


 要は室内でやっているから第三の目の光の範囲も限定されるのであって、屋外であれば遠く、広く届く……という単純な話だ。

 しかし効果は絶大で、アルフレッドと空也を追うべく外へと出てきた襲撃者達は第三の目の光によってバタバタと倒れていく。

 襲撃者達が全員動かなくなるまでは然程の時間もかからず……再び宿の中へと移動したアルフレッドと空也は、すでに普通に倒したのか第三の目で倒したのか分からない襲撃者達へと第三の目の光を浴びせていく。


「……これで全部か?」

「そのはずだがな」

「試しに一人起こしてみっか……」


 空也が一人の男の背中に掛け声と共に膝を入れると、その男はグハッと声をあげて咳込む。


「ぐ、は、げほっ……なんだこの布!?」


 目覚めた男は覆面を脱ぎ捨て、周囲の光景に「うわっ!?」と驚いたような声をあげる。


「な、ななな……なんだあこりゃ!」

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