滅びた町にて3
夜。月の輝く空の下で、滅びた町に明かりが灯る。
それは、壊れた家に。あるいは、倒れた壁の下から。
そして、何もないはずの場所から。
ポウ、ポウと灯る明かりはゆらゆらと蠢きながら移動する。それの目指す場所はただ一つ。
この町で唯一暖かい炎が灯っている場所であり……そして、その場所では見張りをしていたアルフレッドの肩に頭を乗せて幸せそうな寝息を立てていたシェーラの姿があった。
私も頑張ります、と気合十分だったシェーラではあるが、やはり小さな体には相応の体力しかないのだろう。アルフレッドもそれを咎めるつもりはなくそのままにしていたのだが……そのシェーラが、突然目を覚ます。
「……何か、感じます」
「ん?」
言われてアルフレッドも周囲の気配を探り……そして、確かに奇妙なモノが近づいてきているのを察知する。
「なんだ、これは……? 気配はないのに魔力を感じるぞ」
吐息、足音、気配。そういうものがあればアルフレッドはかなりの確率で察知する。
だがそういうものはなく、アルフレッドの感覚が捉えているのは移動する魔力のみ。
そんなものを感じたのは初めてだが、シェーラは油断なく周囲を見回す。
「間違いない……ヒルダさん、起きてください!」
馬車を揺らすまでもなく、ヒルダは「んあー?」と言いながら目を覚ます。
「何よ。もう交代?」
「違います! ゴーストが来ます!」
「げっ!」
その言葉に、ヒルダは意識を一気に覚醒させる。
ゴースト。恨みを持つ魂がどうのとか言われているモンスターだが、とりあえず「物理攻撃が全然効かない」という特徴で恐れられているモンスターでもある。
倒すには魔力の込められた武器か魔法が対抗策であり、ヒルダはそういうものは……今は持っているが、それでもあまり相手したいモンスターではない。
「アンタの獣避けはどうしたのよ! あれ、モンスターも避けるんでしょ!?」
「避けます! ですがゴーストはその性質上、魔力を察知すると逆に寄ってきます!」
気づけば、輝く光の円の周りにはゆらゆらと揺れる炎の群れが集まってきていた。
まるで松明の炎だけが揺れているようなその光景にヒルダは思わずゴクリと喉を鳴らすが……ゴーストと思われる炎達は、そこから近づいてこない。
「……どうしたのよ、アレ」
「寄ってくるとはいっても、結界がモンスターの嫌がるものであることは変わらないんです。この光が輝く間は、入ってこれないはず……ですが」
言いながらもシェーラは杖を油断なく構え、アルフレッドはすでに剣を引き抜いている。
ヒルダも魔導銃をホルスターから抜くが、まだ撃つような真似はしない。
「ですが、何よ」
「無理矢理入ってこようとする場合は……破られる可能性もあります」
そうシェーラが言ったその瞬間。無数の炎達が突如燃え上がるように広がり、人に似た姿を取り始める。
それは火を噴きだし燃える骸骨の姿にも似ていて、シェーラはすぐにその正体を看破する。
「カースフレイム……!? 通常のゴーストよりも上位の個体です! これでは……!」
光り輝く円が薄くなり、やがて消えていく。
その瞬間にカースフレイム達は一気に馬車へと……いや、生きているもの全てへと襲い掛かり、まずは馬が狙われる。
抵抗する術を持たない馬はそのまま殺され……は、しない。馬に襲い掛かったカースフレイムの前に見えない壁が現れ、襲い掛かったカースフレイム達を尽く弾く。
それだけではない。アルフレッド達をも囲む大きな半円状の壁が輝き、カースフレイム達の全てを弾いているのだ。
「……あー、もう。ほんとに出番があるとは思わなかったわよ」
「すまないな。助かっている」
「別にいいわよ」
「え。だ、誰ですか!?」
「あ、アンタ!」
異なる反応を見せるシェーラとヒルダだが、ヒルダは確かにそのセーラー服姿の少女に見覚えがあった。
アルフレッドも何度か使っている、その特異な形状を持った剣を振るい謎の札も使いこなすその少女は。
「
そして、アルフレッドの剣もその少女と同じものへと変わっていく。
そう、その少女の名は立花明日香。
二人が寝ている間にアルフレッドが呼び出した、英雄の一人である。
「私は立花明日香。短い間だけどよろしく!」
そう叫ぶと同時に、明日香は自分のポケットから複数の符を掴み出す。
「いけ、霊撃符!」
明日香の投げた符は生き物であるかのように飛翔し、紙であるにも関わらずカースフレイムへと貼り付く。
「散!」
その言葉と同時に破裂した符はフレイムゴースト達をも爆散させ、その間にアルフレッドは明日香の張った結界を越えカースフレイムへと斬りかかっている。
元より霊的なものに対する攻撃力に特化した七支刀はゴーストの仲間であるカースフレイムにも高い攻撃力を発揮し、アルフレッドが剣を振るう度にその数を減らしていく。
「オ、オオオオオオオ……!」
カースフレイム達の放つ炎も、アルフレッドの振るう七支刀に掻き消されていく。
一対多の状況もアルフレッドは全く苦にしておらず……この場で一番落ち着きがないのは怯える馬くらいのものだ。
それすらも明日香に何か符を貼られると落ち着いてしまい、余裕の出たシェーラがハッとしたように「私も!」と叫んで。
「いいから。その場でじっとしてなさいよ。たぶん、それが一番よ?」
そんな明日香の言葉と獅子奮迅の活躍をするアルフレッドに……シェーラは、反論する術を持ってはいなかった。
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