滅びた町にて2
町長宅は、意外と簡単に見つかった。というよりも、他の家と比べて明らかに豪華な家が一軒だけあったのだ。
勿論、ボロボロに焼けてはいるのだが……なんとか一階部分の形が残ってはいる。
鉄の柵のような門は硬く締められてはいるが、空から焼かれてしまっては何の意味もなかっただろう。
壁も崩れ、何処からでも入り放題だ。
「んー……やっぱり扉は壊されてるわね」
明らかに何か武器で打ち壊されたような跡を見れば、人間が此処を荒らしに来たのは確実だ。
「確定か?」
「誰かがこの町で儲けたのは確実みたいね。問題はそれが「誰か」なんだけど」
シェーラを攫った連中の馬車にはロクなものはなかった。
何度か運んで売り払って、を繰り返していた可能性もあるが……どちらにせよあれは下っ端だろう。
持っていた銅鏡も、あいつ等のものかどうか分かったものではない。
「んー……ん?」
視界の隅に何かを見つけて、ヒルダはそれを拾い上げる。
「どうされました……って、それ。なんですか?」
「干し肉の欠片ね。んー……」
「わ、ちょっと何してるんですか。お腹すいたんですか!?」
鼻先干し肉の欠片をもっていくヒルダをシェーラは慌てて止めようとするが、ヒルダはそんなシェーラを軽く叩く。
「あたしを何だと思ってんのよ! んー……そんな古いものじゃなさそーね。焦げた感じもない、ってことは」
「誰かがこの近辺で食事をした、ということか」
「そうね。案外、あの人攫い連中かもしれないけど」
恐らくは、この町が滅ぼされた後に誰かが来て食事をしている。つまりは、そういうことだ。
「ま、こんなもんじゃ何も分からないわね」
言いながらヒルダは干し肉の欠片を捨てる。仮に盗賊連中がこの辺りで略奪を行ったとしても、もう奪いつくした後だろう。わざわざ戻ってくるとも思えない。
「それに、この家もこれじゃ調べる価値ないわ。武具店でも調べた方が余程マシだけど……あるかどうか分かんないわね」
こんな町をずっと探しているわけにもいかないだろう。さっさと出て次に向かった方がマシに思える。
思える、のだが。すでに時間的には夜も近づいている。
「ったく……当てが外れたわね。町長の家だったら多少ブッ壊れてても良い宿になると思ったんだけど」
「お前は……」
「ヒルダさん……」
アルフレッドとシェーラに冷たい目で見られ、ヒルダはぷいと顔を逸らす。
「何よ。そんな悪くない案だと思うけど?」
「馬車があるだろう」
「それに不謹慎ですよ。何人もお亡くなりになったかもしれない場所なんですよ?」
「そんなもん恐れてて罠士なんかできるかっつーの」
実際、人死にを恐れていては罠士どころか戦士ギルドの一員も務まらない。
昨日殺し合った奴と酒を飲むのも普通だし、廃墟は良い宿くらいにしか思わない。
スレていないアルフレッドとシェーラが特殊なのだ。
「どっちにしろ、夜を徹して進もうってわけでもないでしょ? もしかしたら変な連中来るかもしれないし、今回の事件解決するつもりなら」
「確かに、それならこの町で一晩を過ごす価値はあるな」
「ええっ……」
シェーラは嫌そうだが、アルフレッドが賛成した以上は確定だ。
「んじゃ、早速使えそうな家を……」
「いや。馬車を寝床にしよう。その方が俺も見張りやすい」
そんな事を言うアルフレッドをどう説得するかがヒルダの腕の見せ所だが、次のアルフレッドの言葉でそんなヒルダの意思も萎んでしまう。
「何か来るなら、狙われるのは馬だろう。万が一馬車の馬を失うような事態になれば、俺はスレイプニルを出さざるを得んが……君はそれでいいんだな?」
人知を超えた速度で走る馬の事を思い出し、ヒルダは「うげっ」と唸る。
あんなもんに牽かれては、馬車自体が壊れかねない。
流石にそれはヒルダも遠慮したい。
「分かったわよ……。で、今日の見張りはどうすんの?」
「そうだな……基本的には俺が請け負うつもりだが」
「はいはい、いつものね。つーかあたしとしてはアンタにはしっかり寝て体力確保してほしいんだけどね」
ヒルダもシェーラも同じあるせいか、それともアルフレッドがそういう性格であるせいかは分からないが野営の際にはアルフレッドは積極的に見張りを請け負おうとする。
勿論ヒルダとてそういうアルフレッドを説き伏せて見張りを変わっているのだが、それでもアルフレッドの担当が多いのは変わらない。
「獣避けの結界は張りますので、野犬の類は寄ってこないと思いますよ」
「人攫い避けの結界もあればいいのにねえ」
そんな事を言うヒルダにシェーラはむう、と唸るがすぐに杖で地面を突くと呪文を唱え始める。
「聖なる加護を此処に。弱き我等の一夜の宿を、敏き鼻と鋭き爪より逃れうる聖なる壁を与えたまえ」
ぽう、と暖かい光が馬車の周囲に円状に広がっていき、その小さな輝きを地面に残す。
これが光っている間は獣が寄ってこないという魔法だが……まあ、こんなものを使っていれば獣は寄らずとも人は寄ってくるだろう。
といってもモンスター避けの効能もあるらしいので、重宝するのは事実だろう。
「とりあえず食事にしましょ。ちょっとシェーラ、火出してよ」
「セイクリッドファイアは焚火じゃありませんよ!?」
「はいはい、神様に感謝するから火よ、火。迷える旅人に火を与えなさいよ」
バシバシと地面を叩くヒルダを軽く睨むと、シェーラはブツブツ言いながらもヒルダの用意した薪に火の魔法で火をつけるのだった。
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