滅びた町にて

 アルフレッド達の馬車が到着したのは、一目見て「滅びている」と分かる町だった。

 あちこちに焼け跡が残り、壊れた建物も無数にある……そんな場所だ。

 門は開かれたままになっており、燃えた馬車の部品と思われるものも残っていた。

 当然門兵などいるはずもなく、町には寂しく風が吹いているだけだ。


「これは酷いな」

「これは変ね」


 アルフレッドとヒルダのそんな台詞は、同時だ。

 当然、二人は顔を見合せ……その間に、シェーラが入り込む。


「変、というのはどういうことですか?」

「どういうことも何も。一目見て変じゃないの」


 言われて、アルフレッドとシェーラは町を見回す。

 焼け跡は、ドラゴンの炎だろう。時折見える溶け残りが、その強さを想像させる。

 壊れた建物は……。


「確かに変だな」


 アルフレッドも、ぽつりとそう呟く。

 そう、変だ。建物が壊れている。それはいい。

 だが、扉が壊れた家が……まるで「外から叩き壊された」かのようなものが、あまりにも多いのだ。


「人間サイズの何かが押し入った跡に見える。この破壊痕はいつ頃のものだ?」

「わっかんないわねぇ。まさかドラゴンが暴れてる最中にやったんじゃないでしょうし」


 言いながら、ヒルダは壊れた扉を調べ始める。

 明らかに蹴破るか打ち破るかをした跡だが、「いつやったものか」で事情が変わる。

 たとえばシェーラを拐った連中のように、火事場泥棒的な連中が焼け跡で何かをしていた可能性だって捨てきれない。

 アルフレッド達の脳裏に浮かぶのは、あの銅鏡だ。あんなものを持っている集団が何処かに居るとして、この破壊に無関係という可能性はあるだろうか?

 だが、関係があったとして……一体何のためにという疑問が生まれ出る。

 

「まあ、中を探ってみましょ」

「一応言っておくが……」

「盗らないわよ」

「ああ」


 流石にヒルダも火事場泥棒まではしない。しなかったはずだ。たぶん。覚えてはいないのだが。

 仁義には反してないはずだが、流石にそこまではやっていなかったと思う。

 断言できないあたりはヒルダの以前の素行が伺えるが、それはさておき。

 壊れた家の中は、ヒルダからしてみれば色々なものが足りない状態だ。


「見事に金目のものばかり無くなってるわね」

「そうなのか?」

「そうよ。一件で断定するわけにもいかないけど……」


 ひょっこりと家の中を覗き込んだシェーラは何やら祈り始めているが、とりあえず放置してヒルダは食器棚を探り始める。


「んー……やっぱりこの規模の家で銀食器はあるわけないか。でも、その辺りの目利きは出来るって事ね」


 恐らく現金の類は全て無いだろう。だが、こんな一般家庭だけではどうにも断定できない。

 もっと高そうなものがある場所を調べなければならない。


「町長の家とか調べたいわね。そういうとこなら高い物がある場所も大体分かるし」

「そうなのですか?」

「モチよ。伊達に色々やって……」


 アルフレッドとシェーラからの視線の温度が瞬時に下がったことに気付き、ヒルダは慌てて咳払いする。


「……たわけじゃないけど。高い物ってのは分かりやすいでしょ? 目利き出来るから、その辺で色々ね?」

「そうか」

「そうよ」


 アルフレッドはヒルダのそういう過去については不問にしてくれているが、会ったばかりのシェーラはそうではない。


「……何か懺悔する事があれば伺いますよ?」

「ないわよ、そんなもん。あたしは常に前向いて生きてるのよ」

「大丈夫ですよ。懺悔の秘密は守りますので」

「うっさい。しっしっ」


 シェーラを遠ざけながら、ヒルダは家を出る。

 探すべきは町長の家だが、こういうものは必ずしも中央にあるとは限らない。

 限らない、のだが。まあ大体は町の中央にある。


「んじゃ、あっちの方行きましょうか」

「当てがあるのか?」

「こういうのは広い道進めばどうにかなるのよ」


 町の中央に続く道というものは、大抵広くできている。

 それは其処が一番栄えているからであり、整備が優先されやすいからだ。

 当然、町の端から行く場合にはヒルダの言うとおりに広い道を進めばどうにかなるわけだ。

 勿論、そうではない場合もあるのだが……この場合はそれで正解だと思われた。

 アルフレッドを御者として三人は馬車で進もうとする……が。

 御者席に座るアルフレッドを真ん中に、ヒルダとシェーラも両側から詰めるようにぎゅっと座ってしまう。


「……どうした?」

「怖いじゃないの」

「私はその、もっと町を見ておかねばと」


 アッサリ本音を言うヒルダと比べるとシェーラは強がりが透けて見えるが、アルフレッドはわざわざそんな事を指摘はしない。

「そうか」と答えると、そのまま馬車を動かし始める。


「しっかし、酷い有様よね。小さい町とはいえ、戦士ギルドか魔法士ギルドくらいあったでしょうに」


 この様子では、まともに避難誘導が出来たのかどうかも分からない。

 ひょっとすると、全員焼け死んだのかもしれないが……そう考えると、ぞっとする話だ。


「それを探してみるか?」

「んー……見つかったらでいいわよ。当てもなく探すのも面倒だわ」

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