滅びた町にて4
この場では、シェーラは確かに足手纏いだ。それはシェーラ自身がよく分かっている。
だからといって。いや、だからこそ。アルフレッド達にカースフレイムの注意がいっているからこそ、シェーラにも出来る事がある。
「……やはり、黙っているなど出来ません」
「ちょっと」
「こうするのが一番と割り切れるなら……私が旅を続ける理由など何一つとしてありません!」
シェーラの杖が、地面を叩く。
そうして地面に突き立てた杖を両手で握り、シェーラは呪文を唱え始める。
「神よ、我らが主よ! 理に逆らいし者、穢れしこの地に立つ我等をご照覧あれ!」
シェーラの杖から地面に青い光が広がっていき、カースフレイム達がピクリと反応する。
アルフレッド達には何も反応しない……しかし、カースフレイムのようなアンデッドにはピリッとした痛みを感じるソレを感知したのだ。
「ちょ、ちょっと何を……!」
「守れとは言いません! 離れていても構いませんよ!」
そう叫ぶシェーラの身体からは杖を通して魔力が流れ続け、明らかに何かデカいことをしようとしているのだとヒルダにも理解できる。
そのシェーラを狙おうとするカースフレイムに明日香の符が飛び、あるいはアルフレッドが優先的に斬っている。
それでも尽きぬカースフレイム達の群れを見て……ヒルダは覚悟を決めたように魔導銃を構え直す。
「ああ、もう! どうしようもないの拾っちゃったわよ!」
地を這うように飛んできたカースフレイムをヒルダの魔導銃が撃ちぬき、四散させる。
魔力弾を放つ魔導銃が通じる事にヒルダは心の中でガッツポーズをとるが、そう楽観できる状況でもない。
「この地に祝福を。全てを見通すその瞳と、全てを癒すその御力がこの地に届く事を、我等は疑わず。あらゆる全ては元より、貴方の暖かき手の内なれば」
町全体に広がっていくかのような青い光が、一際強くなる。
魔力を放出し続けるシェーラの腕は震え、杖がガクガクと揺れる。
当然だ。町全てを覆うような規模の魔法など、本来は一人の人間が発動するものではない。
だがそれでも、シェーラの瞳から意志の光は消えない。
「ならば、この地の呪いが疾く消える事は定められし事。故に……あらゆる穢れよ、迷いし魂よ。光に導かれ、あるべき場所へ戻れ……!」
シェーラの杖を起点に、更に大量の魔力が大地へと流れ込む。
「ターン……アンデッド!」
町全体を包む青い光が地上から天へと昇る。
輝く光の柱はカースフレイム達を呑み込み、悲鳴をあげさせる。
「ギ、ギアアアアアアアアア!」
「ギャアアアアアアアアアア!」
「ゲアアアアアアアアアアア!」
「ア、アアアアァォアアアア!」
青い光の中でカースフレイム達は溶けるように消えていき、青い光の柱が天へと消えた後には一体すらも残ってはいない。
追加のカースフレイムが出てくる様子もなく……静けさの戻った町の中で、カランという音が響いてシェーラが倒れ込む。
ヒルダが手を伸ばすその前に、やってきたアルフレッドがその腕の中にシェーラを迎え入れて。
やはり戻ってきていた明日香がシェーラの背中をポンポンと優しく叩く。
「凄いわね、今の。この世界独自の退魔の技だと思うけど、凄い規模だったわ」
「町全体を包んでいたように見えた」
「対霊の必殺技ってとこね。ターンアンデッドなんて言ってたけどたぶんアレ、悪魔みたいなのにも効くわよ?」
感心したように明日香は言った後、ヒルダへと笑顔を向ける。
「や、久しぶり……って程でもない? 私からすると、その辺りの感覚ってないんだけど」
「あー……えっと、どうかしらね……」
折角貰った符も使っていないが、ヒルダは何となくそれも言い難くて目を逸らす。
「何よ、その態度。冷たいわね」
「え? そ、そうかしら」
「そうよ。あの時の私に教えを請うた時のしおらしさはどこ行ったのよ」
「教え……?」
「わー!」
訝しげな顔をしたアルフレッドを誤魔化すようにヒルダが叫ぶが、その反応を予想済みだったのか明日香はカラカラと笑う。
「ま、いいわ。面白いモノも手に入れてるみたいだし」
「え? あー……」
魔導銃をサッと後ろに隠すヒルダの背後に素早く回り込んで、明日香は魔導銃を眺めまわす。
「大体のところは知ってるけど、やっぱり直接見ると面白いわね。威力はそんなに……あ、いや。そうでもないのかしら……」
「な、なによ」
じーっと見ている明日香から隠すようにヒルダが魔導銃を抱きかかえると、明日香は「うーん」と唸って首を傾げる。
「それたぶん、威力調整できるわよ?」
「え? そうなの?」
ノエルからも聞いていなかった事実にヒルダが反応すると、明日香は「うん」と頷く。
「その分魔力消費も激しくなるとは思うけど、どっかにスイッチあるんじゃないの?」
「え、聞いてないわよそんなの……」
「見せてよ。ファンタジー銃は専門外だけど、リボルバーくらいなら見たことあるし」
「りぼるばーって何よ」
「地球の銃」
顔を突き合わせて魔導銃を見始めたヒルダと明日香をそのままに、アルフレッドはシェーラを抱えて馬車へと運んでいく。
やりきったような顔で気絶しているシェーラの顔を眺め、アルフレッドは微かに笑う。
「……そうだな。君なりに成すべき事があるというのであれば、守られるだけを良しとはしないだろうな」
その瞳は守るべき者ではなく、共に戦う戦友を見るような目で。
そんな目で見られているとは知らないシェーラは、安らかに寝息をたてていた。
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