捕まっていた少女

「聖騎士……? 君は何を」

「ていうか、このガキ! 聖騎士って、やっぱり教国の!」


 少女を引き剥がそうとヒルダは引っ張るが、アルフレッドに抱き着いた少女はしっかりとアルフレッドをホールドして離さない。


「ようやく見つけました……! もうバリバリに運命を感じます! 貴方もそう思いますよね!?」

「そんな事を言われてもな……」


 どうやら「黄昏の聖騎士伝」を知る何者かではないと知って、アルフレッドは心の中で安堵の息を吐く。

 確か教国というのは、ヒルダが話していた勇者召喚の国……聖レリック教国とかいう国の事だったはずだ。


「君は聖レリック教国という国の関係者なのか?」

「はい! 私は聖レリック教国の放浪神官、シェーラと申します! 貴方のお名前はなんですか!?」

「俺はアルフレッドだ。とりあえず、離れてくれないか。話しにくい」

「分かりました!」


 アルフレッドの言葉にあっさりと離れたシェーラは「あ!」と叫ぶと先程捕らえられていた馬車の中へと駆け込んでいく。


「……ねえ、アルフレッド。今のうちに行かない?」

「何故だ。助けて放置というのは非道に思えるが」

「だってアレ、関わりたくない類の面倒ごとよ? 教国よ?」


 ヒルダがそんな事を言っている間にも、シェーラは馬車の中からマントと杖をとってくる。


「本当に助かりました……ありがとうございます。あの悪漢達に捕まっていたんです」

「それは分かるが……一体どうしてそんな事になったんだ?」

「はい。お恥ずかしながら、木陰で夜を過ごしているうちに攫われてしまったようでして」

「本気で恥ずかしい話じゃないの……」


 ボソリと呟くヒルダを、シェーラはキッと睨む。


「何を仰るんですか! 寝ている者を襲うのは人の道に外れた行為です! それも神に仕える者を狙うなど……!」

「あー、はいはい。そういうのいいから。ていうか獣避けくらいはしてたんでしょうね?」

「当たり前です。その手の結界術は私達神官の得意分野ですから」


 そう言ってシェーラはヒルダから視線を外すと、満面の笑みをアルフレッドへと向ける。


「それでですね、アルフレッドさん。貴方、私の聖騎士になってくれませんか?」

「……すまないが、何を言っているのか分からない。まず君の言う「聖騎士」とやらについて説明してくれないか」

「あ、はい! そうですね……言ってみれば、神官のパートナーでしょうか? 公私共に支え合う、そんな関係です!」

「……なるほど?」


 何故そんなものが必要なのかは分からないが、なんとなく理解は出来た。

 つまり、旅の仲間なのだろう……とアルフレッドは理解する。


「こういう事か。君は一人旅に限界を感じていて、その聖騎士という制度を利用し俺を召し抱えたい、と」

「召し抱えるだなんて。神官と聖騎士は同格ですよ? パートナーなんですから」

「相棒か」

「夫婦にも似ているかもしれませんね」


 そんな会話をするアルフレッドとシェーラの間に入ると、ヒルダは腕を伸ばして二人を引き剥がす。


「ズレた会話してんじゃないわよ。聖騎士探しだったら他当たりなさい。こいつは私の相棒よ」

「そういえば、貴女のお名前を伺ってませんでしたが」

「……ヒルダよ。覚えなくていいわよ」

「ヒルダさん。貴女にもお礼を。貴女の持つアーティファクト無くば、私は無様に人質にとられていたでしょうから」


 そう言って頭を下げるシェーラに、ヒルダは「む……」と言葉に詰まる。

 こうも素直にお礼を言われると文句もつけ辛いが、アルフレッドの件は話が別だ。


「……アルフレッドは渡さないわよ」

「ひょっとして、ご夫婦なのですか?」

「なっ!」

「いや、違うが」


 絶句するヒルダとは対照的に、アルフレッドはアッサリとそう答える。


「そうですか、安心しました! それで、聖騎士になりませんか? もう貴方の二つ名も考えているんです! その赤い鎧と髪からとって、黄昏の聖騎士と……」


 黄昏の聖騎士。その言葉が出た瞬間にアルフレッドは真顔になる。


「あ、あれ? どうしました? 気に入りませんでしたか?」

「……いや。そういう風に呼ばれていた事もあったと思い出してな」

「ひょっとして、過去にどなたかの聖騎士をされていたことが……?」

「いや、そんな事はしていないな」


 まさか、この世界でそう呼ばれる機会があるとは思わなかった。

 だから反応してしまったというだけの、それだけの話だ。


「……君はこの先のバッサーレに行くつもりなんだろう?」

「ええ、まあ」

「俺達は、君が来た方向……城壁山脈と呼ばれる場所へ向かうつもりでな。君が望むならバッサーレまでの護衛をすることはやぶさかではないが……」


 そんな事を言い出したアルフレッドをヒルダが突くが、アルフレッドには全く効いていない。

 まあ、襲われた少女を助けてそのまま放り出す男ではないのは分かり切っているので、ヒルダとしても本気で見捨てるべきだと思っているわけではないのだが。


「城壁山脈に……? 失礼ですが、目的を伺っても?」

「ああ。「希望を求め彷徨う灯火」を探しに行く。どんなものかは……」

「やっぱり! 貴方が私の聖騎士ですアルフレッドさん!」

「あ、こら!」


 素早い動きでアルフレッドに再度抱き着くシェーラをヒルダが引き剥がそうとして、しかし剥がれずにグイグイと引っ張るが……それでもシェーラは離れない。


「探しに行くつもりがまさか、探しに来てくれていたなんて! ああ、神よ! この出会いに感謝します!」

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