魔境海域10
それは、此処ではない世界からやってきた。
此処ではない場所、此処ではない海。
それと同じようなモノが溢れる世界において、それは自分を強いと信じていた。
それを此処に呼んだ何かに逆らい、それは海の中に異界という城を築いた。
今度こそ脅かされない。そのはずだったのに。
今、それの前には不可思議な巨人達が迫っている。
一体は不可思議な渦を出して、触手を払う。
一体はちまちまとうざったい攻撃を仕掛けてくる。
そして、残りの一体は。黄金の巨人は。
分からない。分からないが、何か……とてつもなく恐ろしいものを持っている。
寄るなと叫び触手を放っても、青い巨人の放つ渦がそれを許さない。
来るな、寄るな、来るな。
叫び、けれど……黄金の巨人は迫る。
「お前がこの異界の主か」
レヴィウスの瞳を通し、アルフレッドは異界の主を見据える。
ドーマの造った巨人よりも更に大きなレヴィウスの巨体をもってしても、更に巨大と思わせる巨体。
無数の触手と、巨大な口。ズラリと並んだ牙は、触手に頼らずとも如何なるものをも砕くだろう。
この海底においては、恐らく並ぶものすらないであろう強大な魔力と合わせ……通常の手段では、対抗する事すら出来ないだろう。
だが、今は違う。
水魔星アクエリオス。およそ水中戦闘では負けなしの異界の巨人が、この場所までの道を拓いた。
そして今。天魔星レヴィウスが、此処にいる。
「恨みはない。だが……この海の平和の為、お前を倒す」
アルフレッドの手がコンソールを動き、最強の武装を発動する為のコマンドを入力していく。
動かした事も……見た事すらもないレヴィウスの全てが、アルフレッドには分かる。
「オ、オオオオオオオオオ……!」
唸る。叫ぶ。目の前で剣を輝かせるレヴィウスに向けて、異界の主が吼える。
この海底は、自分の城。
元の世界でも負けたことなど無かった。
この世界でも負けるつもりなど無い。
なのに、なのに。
触手を動かし、その巨体をも動かす。
自分を妨害する竜巻とて、自分自身をどうにかするなど出来まい。
ならば、直接食ってやると。そう叫んで、異界の主は巨体を動かして。
「プラネットホールド」
レヴィウスの胸部から発射された光球が、その触手ごと異界の主を捕らえ球体に圧縮する。
「……!?」
自分の巨体が謎の光る球に抑えつけられ、固められる。
有り得ないその事態に異界の主は暴れるが、光球はビクともしない。
バチバチと唸る光球は異界の主を抑え続け、ふわりとレヴィウスの前方へと浮かび上がる。
そう、それは天魔星レヴィウスの必殺技。
星をも断つエネルギーをその球体の中で完結させる為の結界であり、余さず叩き込むための牢。
かつて水魔星アクエリオスがそうであったように……そこからは、異界の主とて逃げられはしない。
「……星斬剣、起動」
アルフレッドの発した言葉を鍵として、星斬剣が起動する。
発する魔力が周囲の景色を歪め、異界の景色を異なる異界へと染めていく。
この海底にあってもバチバチと唸る魔力はまともに放たれれば、文字通りにこの星をも砕くだろう。
そう設定されているからには、必ずそうなる。
だがそうはならない。星斬剣が英雄の武器であり「プラネットホールド」という安全策が用意されている限り、その安全策は完全に機能する。
故に。アルフレッドは何の憂いもなく、その巨大な力を振るう。
星斬剣を構え、目の前の異界の主という「星」を見据える。
レヴィウスのバーニアが全開となり、海中を己の魔力で染めながらレヴィウスは跳ぶ。
「コズミック……エンドォォォォォ!!」
一閃。星斬剣の一撃が異界の主を捕らえる光球へと叩き込まれ、そのエネルギーの全てが光球の中で炸裂する。
「ア、アアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
弾ける、爆発する、燃え尽きる。
ありとあらゆる破壊が光球の中で荒れ狂い、光球の中で完結する。
そして……その余波が、単なる「残りカス」のエネルギーが、その場で光の柱として屹立する。
「……くっ……!」
―強大なエネルギーを確認……! レジスト開始……!―
アクエリオスとヴァルツオーネにもその余波の一部が届き、その激しさが伝わってくる。
恐らくは近寄れば甚大な被害は免れないであろう光の柱を見て、ヒルダは絶句する。
アルフレッドが凄まじいのは分かっていた。
本物の英雄であることも知っていた。
けれど、あの巨人は格が違う。
星斬剣。あの剣があれば、本当に天の星だって切り裂くかもしれない。
そんなものをアルフレッドは使えるし、そんな力がアルフレッドの中にはまだ隠されている。
ならば、ならばだ。
それ程の力を必要とするアルフレッドの「敵」とは、いったい何なのか。
いったいこの世界に、何が起ころうと……いや、何が起こっているのか?
「アルフレッドの「敵」って……いったい何なのよ……?」
「私にも分かりません。ですがあの方の前には、英雄としての宿命がある……ならば、それに相応しいものが立ち塞がっているのでしょう」
ヒルダにセレナはそう答え、アクエリオスを操作する。
「……どうやら異界が崩れるようですね。退避しましょう」
地響きと共に崩壊し始める異界。
そこから逃げるように、三体の巨人は海上へと向かっていった。
その先にあるのは、元の海。
あらゆる船も生き物も呑み込んでいた異界とその主は……こうして、消滅したのだ。
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名称:異界の主(本名不明)
出身:OVA「深海2036」
詳細:OVA「深海2036」において登場した悪役……もとい、謎の生物。
作中において登場人物に「神」とも称されたその生物は制作陣が「とある神話」を元にしたともされる。
が、一作で終わってしまった為詳しい設定が明かされることはなかった。
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