魔境海域8

「水魔星の輝きに導かれよ」

「天魔星の輝きに導かれよ」


 セレナの天水球が、アルフレッドの星斬剣が淡く輝き……そして消える。

 それはOVA「魔星伝レヴィウス」において「超次元空間を利用した瞬間転送技術」というそれっぽい理屈をつけられた召喚技法。

 科学なる技術に照らし合わせれば矛盾など山の如く生まれそうなそんなものも「そう設定されていたから」成立する。

 故に。超次元空間を通り、アルフォリアに二体の巨神が顕現する。

 空間を裂いて、この異界の理をも抜けて超技術の巨人が現れる。


「――アクエリオス!」

「レヴィウス!」


 現れる。顕れる。空間を引き裂いて、二体の鋼人が現れる。

 何処となく術士をも思わせるゆったりとした印象の青の装甲。

 描くなだらかなカーブは何処となく女性的な印象をも思わせる。

 あるいは、怪しげな魔術師だろうか?

 ローブを思わせるその装甲は頑丈な守りであり、同時に秘めたエネルギーの大きさの証明でもある。

 輝く赤い二つの瞳は正しく「巨人」……人を模したものであることを示している。

 その正面に浮遊するのは、セレナの天水球にも似た巨大な水晶球。


 そしてもう一体は、黄金の鎧騎士。

 荘厳なデザインの全身鎧に似た装甲を纏い、フルフェイスの兜のような頭部の奥からは、やはり二つの赤い瞳が輝いている。

 だが、特筆すべきはその手に持つ巨大な剣。

 先程までアルフレッドが持っていた星斬剣に似た剣が、その手の中にはある。

 ……いや、セレナに言わせればこの剣こそが「真の」星斬剣。

 星を断ち、銀河をも砕く破壊の象徴。味方に向けられることなどないように、最も誠実な者に託されたはずの超兵器。


 すなわち、青の巨神は水魔星アクエリオス。

 そして、黄金の巨神は天魔星レヴィウス。

 顕れた二つの巨神は召喚と同時に自らの主人と……そこにくっついている者をついでとばかりの自分の中へと転送する。


―……ご武運を―


 そんなヴァルツオーネの言葉が届いたかどうか。

 全ては一瞬の間の出来事であり、突然現れた巨大な敵に反応した触手の攻撃は、その全てが終わった後。

 ……それ故に。触手の反応は、遅すぎた。


「スパイラルブラスト」


 アクエリオスから放たれた竜巻の如き渦が、触手を捩じ切り弾き飛ばす。

 ヴァルツオーネを叩き潰せる大きさの触手をいとも簡単に捩じ切ったその竜巻の数は一つ、二つ、三つ……次から次へと増え、襲い来る触手を捩じ切っていく。


「な、何これ……こんな凄い魔法、聞いたこともないわよ……!」


 恐れおののくように呟くヒルダ……セレナの座るアクエリオスの操縦席の後ろに据え付けられた座席に座る彼女に、セレナは小さく笑う。


「行き過ぎた科学は魔法と区別がつかない……ですか」

「は? カガク?」

「独り言です。お気にせず」


 本来「地球」の格言であるそれを口にしながらも、セレナの中に違和感はない。

 それはセレナという存在の歪さをも示していたが……此処にそれを追及する人間はいない。


「これがアクエリオスの力です。水中にある限り、アクエリオスに負けはありません」


 言いながら、セレナはチラリとヴァルツオーネを見る。

 セレナの所属するゼロノス帝国でも、セレナの知る「地球」でも見た事のない技術で造られたロボット。

 高度な人工知能を積んでいる事は分かるが、あれ程までの性能のものとなると並の技術力ではない。

 セレナ達を降ろした事で余裕が出来たのか、ヴァルツオーネの動きは更に機敏になっている。

 先程まで使っていなかった水中でも威力が減衰しないエネルギー砲のようなものまで使用しているが……一体、アルフレッドはあのようなものを何処から呼び寄せているのか。

 そして何より、星斬剣。二本目が存在するとも思えないが、どういう理屈でこの場に存在しているのか。

 何もかもが不明な中、アルフレッドと陽子の乗っているレヴィウスが星斬剣を振るい触手を叩き切る。

 だが、目指すべきは触手の撃退ではなく本体の撃滅。

 だからこそセレナはアクエリオスを先導させるように進ませ……それに僅かに遅れながらも併走するようにレヴィウスが、そして後を追うようにヴァルツオーネが続く。


「こちらアクエリオス。レヴィウス、応答願います」


 通信装置を軌道させセレナが問いかけるが、通信用のモニターには何も映らず……やがて音声だけがガチャガチャと響き始める。


―違うわよ、きっとコレよ。私実家で似たようなの見た事あるもの―

―おい、やめろ。触るんじゃない。君の実家にこんなものがあるはずないだろう―

―いいからいいから。絶対これよ。あー、もしもーし?―

「え、何。アルフレッド達の声が聞こえてくるんだけど」

「通信装置です。こちらアクエ……セレナ。映像が届いていませんが、機器の不調ですか?」


 訝しげな顔をするヒルダにセレナは実際に体感して納得してもらおうと考え、そう問いかける。


―すまない。陽子が勝手に色々触ってな……操作方法は分かっている。今映像を出す―


 聞こえてきたアルフレッドの声……の直後。通信用のモニターにアルフレッドと陽子の姿が……アルフレッドの膝に横抱きになるように乗っている陽子と、どことなく疲れた顔をしているアルフレッドの姿が映し出される。


「え? アルフレッドが小さい箱の中に……ていうか何その状況!?」

「敵本体が近づいています。星斬剣の準備は出来ていますか?」

―いつでも可能だ。此処からでも撃てると思うが―

「それは最終手段です。このまま敵本体に接近して叩き切りましょう」

―了解した―


 モニターの向こうで陽子が手を伸ばすと画像が途切れ、再び音声だけになってしまう。


―だから触るなと……!―

―別にいいでしょ、視線が超痛いのよ!―

―何の話だ……ああ、通信を終了する―


 ブツン、と切れた音声。

 外では襲い来る触手相手にアクエリオスの放つスパイラルブラストが大活躍していたのだが……そんな状況を全く感じさせない緊張感の無さに、思わずセレナは吹き出してしまう。

 

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