魔境海域3
「……召喚、か」
確か聖レリック教国とかいう国が召喚の儀式をしていたらしいが、とアルフレッドは思い出す。
その儀式は恐らくは女神ノーザンクに阻止されたものだろうが、となるとセレナ……もしかするとドーマ達をこの世界に喚んだのも、それであるかもしれない。
「その召喚先について心当たりはあるか?」
「いいえ。それを認識する前にバッサーレに落ちましたので」
「ふむ……」
「ちょっと、よく分かんないけど結局敵なの? 味方なの?」
考え込むアルフレッドの裾をヒルダが引き、そんなヒルダにセレナが微笑みかける。
「味方ですよ、今は。私、正義を自称しておりますので」
「ええ……でもさっきの話からするとアンタ、なんか敵だったんでしょう?」
「それは立場の違いによるものです。私は私の立場では正義であり、相手側からすればそうではなかった。それだけの話なのですから」
セレナの言葉にヒルダは納得したようなそうでもないような、少しだけ微妙な顔をする。
セレナの言っている事は、つまり戦争における敵味方の理論だ。
どちらも自分が悪だと思っているわけではなく、相手こそが悪であり自分が正義であるとしている。
その「真実」は勝敗によって決定されるわけだが……まあ、それはともかく。
ドーマやデルグライファのようなものとは違う事を、アルフレッドは敏感に感じ取っていた。
「ならば聞こう。君はこの状況をどう考えている?」
「端的に言えば、この異界こそが商船、そして漁船の行方不明事件の原因かと。先程の幽霊海賊船は漁船襲撃事件の犯人でしょうね」
「海賊船の墓場については?」
「ああ、それは私です」
アッサリと答えるセレナに思わず陽子が咳込むが、アルフレッドは冷静そのものだ。
「なるほど、君か。とすると、やはり海賊に対する示威行為か?」
「ええ、理解が早くて助かります。元々この辺りは海賊が多いので掃除していたのですが、あの幽霊海賊船だけは行方が掴めませんでした。まさか、こんな異界に囚われているとまでは想像がつきませんでしたが……」
「……ふむ」
となると、これで「漁船襲撃事件」「商船行方不明」「海賊の墓場」については一応の答えが見えたことになる。
この異界をどうにかした後で同様の事件が起きなければ解決ということでいいはず、なのだが。
「ならば、この異界とやらをどうにかする手立てはないか?」
「恐らくは異界の主……あるいは起点となるモノがあるはずです。それをどうにかすれば解決するかと」
「探す方法は?」
「怪しいモノを総当たりが妥当なところかと。勿論、手立てがないわけではありませんが……」
そう言うと、セレナはアルフレッドへと微笑みかける。
「たとえば、星斬剣。天魔星の象徴たるあの剣が力を発揮すれば、この異界を切り裂く事とて可能でしょう」
「……星斬剣」
「お持ちなのでしょう? どういう訳かは存じませんが、貴方を導く星の中に天魔星の輝きが見えます。それは星斬剣の主にしか輝かぬはずの星です」
星斬剣。それは「魔星伝レヴィウス」における主人公「ソーマ」の持つ剣だ。
ロボットアクションである魔星伝レヴィウスにおける星斬剣は主人公の武器であり、巨大ロボット「レヴィウス」を呼び出す為の鍵でもあった。
「確かに、その剣を使う力を借り受けている。だが……それ程までの力があるものなのか?」
「はい。星斬剣……正確には「レヴィウス」の星斬剣は私達の基準で対星兵器と呼ばれるものに該当します。この異界がどのような力によって構成されたものであろうと、容易に切り裂くことでしょう」
「だが、それほどのものであるならば容易に使うわけにはいかない。万が一「外」に影響が出るようであれば……」
アルフレッドの当然の懸念に、セレナは頷いてみせる。
「そうですね、その通りです。ですが、問題はありません」
「何故だ?」
「この異界は恐らくは「閉じた世界」と呼ばれるものでしょう。外には繋がっておらず、内部での破壊はその範囲内で抑えられるものです。故に、この異界の破壊は外に影響せず内部で完結します」
「え……えーっと、どういうこと?」
ヒルダの疑問に、セレナは変わらぬ笑顔を向ける。
「つまり、この異界は星斬剣の一撃で崩壊します。割れた風船が内部の世界を押し潰しながら縮むように、この異界もまた爆縮するでしょう。内部に取り込まれた、無数の怪異と共に」
「え……よく分かんないけど、それってヤバくないの?」
「このヴァルツオーネ号で逃げ切れないでしょうね」
なんでもないように言うセレナに、ヒルダは真っ青になりながら掴みかかる。
「逃げ切れないって! あのね、あたしは此処で命かけていいってわけじゃないのよ!?」
「存じております」
「なら……!」
「ですが、魔星機であれば逃げ切れます」
「ませー……何?」
「魔星機、です。先程お伝えした「星斬剣」を使う天魔星レヴィウス、そして私の水魔星アクエリオス。この二機があれば脱出は容易です」
「え、なら……」
「問題は」
ヒルダを見つめながら、セレナは囁く。
「私を貴方達が信頼できるのか、です。アルフレッド様、貴方がヒルダさんを私とアクエリアスに預けてくださるのでしたら……この『水魔星』セレナ、今回の件に全力で協力致しましょう」
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