船の墓場の調査

 船の墓場。そう勝手に呼んでいるだけではあるが、実際ピッタリであるとアルフレッドは思う。

 沈んだ……いや、沈めた船を組み合わせて造った、悪趣味なオブジェ。

 どの船もまともな沈み方はしておらず、圧倒的な何かに倒されたのであろう事は確実だった。

 それを考えると海竜という可能性も浮かんではくるのだろうが……。


「ふむ……」


 バッカス号のマストの刺さった辺りまで来て、アルフレッドはマストを見上げる。

 風に吹かれる海賊旗はなんとも無常を感じるが、何故このマストを持ってきたのか?

 見たところ、バッカス号に搭載されていたはずの大量の大砲は何処にもない。


「……このマストに意味があったということか?」


 言いながら、アルフレッドは再度周囲を見回す。

 このマストと他の船に共通する部分は何処か。それを探して……アルフレッドは、ふと気づく。


「ん?」


 目に入ったのは、バッカス号のものではない海賊旗。髑髏マークの入ったそれはバッカス号のものほど単純なデザインではないが、間違いなく海賊旗だ。

 そしてよく見てみれば、同じような海賊旗は他にもいくつかある。

 

「……まさか。此処に沈んでいるのは海賊船だけ、ということか?」


 だとすると、このオブジェの意味も見えてくる。

 バッカス号もアルフレッド達が止めなければ……いや、止めても海賊行為をすることを選んだのだろう。

 だとすると、これは「船の墓場」ではなく「海賊船の墓場」だ。

 もしこのオブジェがそうであるのならば、その意味は恐らくは警告だ。

 海賊は全てこうなるぞ、という警告であるのならばヴァルツオーネ号が襲われない理由には納得がいく。

 しかし同時に、新しい疑問も出てきてしまう。

 此処に沈んでいる船に商船や交易船、そして居なくなった漁船がないのであれば、それらは何処へ行ったのか?

 バッサーレの港に商船が入港していないのは知っている。

 このオブジェを見て他の港へ行った?

 そうであれば、情報が入ってきてもいいはずだ。

 まだ情報が届いていないだけ?

 だとすると、このまま放置していても「商船の問題」は解決したことになる。

 だが、本当にそうなのだろうか? そもそも、商船はそれでいいとしても漁船はどうなったのか。

 此処に居る海賊の船のどれかにやられて、何処かに沈んでいるとでもいうのだろうか?


「……船に戻るか」


 呟き、アルフレッドはヴァルツオーネ号へと跳んでいく。

 そうしてヴァルツオーネ号へと戻れば、ヒルダが走ってくる。


「どう? アルフレッド。何か収穫は?」

「ああ。恐らくだが、あの場所にあるのは海賊船だけだ」

「えっ」


 言われて、ヒルダもアルフレッドとほぼ同じ推測を導き出す。

 そして、同じような疑問を抱く。


「……商船と漁船は何処に行ったのかしら」

「俺もそれを考えていた」


 海賊船は此処で潰されている。

 海賊船を狙っている何者かの造ったオブジェの中に商船はない。

 サンバカーズも犯人ではなく、このオブジェを造った者は恐らく海竜ではない。


「……一番納得いくのは商船は実は迂回してましたってセンだけど」

「だとすると、迂回している商船を見つけなければ誰も納得はしないだろうな」

「そうよね」


 アルフレッドとヒルダは顔を見合せ、唸る。

 おそらく此処に居ても、これ以上の状況の進展はないだろう。

 となると、新たな方針を定める必要がある。そして、やはりそれは。


「……商船を探すか」

「それしかないでしょうね。ま、見つけたら見つけたでモメそうだけど、そこはあたし達の仕事じゃないわ」


 もし商船が他のルートを開拓していたというのであれば、そこはバッサーレの町の問題だ。

 そちらが解決すれば、あとは漁船になるが……。


「確かギルドマスターは「漁船は海賊船に襲われた」と言っていたはずだが」

「見間違いでしょ? あるいはサンバカーズがこっそりやってたって可能性もあるわよ」

「……確かにな」


 あの3人であれば、漁船と他の船の見分けがつかずとりあえず砲撃していてもおかしくはない。

 勿論、それで全て解決というわけではないが……可能性の一つとしては考えておくべきだ。


「大体、そんな狂った海賊がいるならとっくに海賊船沈めてる奴にやられてるわよ。絶好の餌じゃないの」

「……確かに、な」


 この船の墓場を見る限りでは、確かにその可能性が高そうにアルフレッドにも思えた。

 だとすると、まずは商船を最優先で探すということでやはり問題は無さそうだった。


「決まった?」

「ああ、商船を探す。無事な商船がいるならば、話を聞くことで今回の解決の糸口も見えてくるだろう」


 それによってはバッサーレの町には少々辛いことになるかもしれないが、少なくとも漁船は出せるようになるのだ。それでも充分だろう。

 陽子にアルフレッドがそう答えると、セレナもそれに頷きヴァルツオーネ号を動かし始める。


「とすると、もう少し沖に出た方が良いかもしれませんね」

「そうだな、頼めるか?」

「お任せください、アルフレッド様」


 そうして再びヴァルツオーネ号は動き出し、更に沖へと向けて走り始める。

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