再び海へ
青い海を、ヴァルツオーネ号が進む。
セレナによってスムーズに操縦されるヴァルツオーネ号は順調に進んでいる……が、その中を物珍しげに陽子が歩き回る。
「へえー、へえ! 面白いわね、これ!」
「ヨーコの世界にはこういうの無かったの?」
2度目のせいか慣れてしまったヒルダがそう聞けば、陽子は振り返らないままに「ないわねー」と答える。
「こんなの未来の船そのものじゃない! あ、でも魔力で動いてるんだっけ?」
「魔導船、というらしいな。まあ、この世界に合わせた顕現の仕方をしている部分もあるんだろうが」
「そんなものなのかしら……」
言っている間にも、やがてヴァルツオーネ号は船の墓場へと到着する。
海が荒れていた……という割には船の墓場には特に問題はなく、その「荒れていた」現場が此処ではないのは確実なようだった。
「海が荒れてたのに、ここは問題なし……か」
「そのようだな」
何処かに崩れた様子もなく、昨日同様の光景だ。
そう判断して、ヒルダは視線を外して。しかし、アルフレッドは其処にあったモノに気付く。
「あれは……」
「え?」
アルフレッドの向けた視線の先をヒルダも確認して、ようやくそれに気づく。
「え!? あれってまさか……バッカス号の海賊旗!?」
そう、その船の墓場の中に昨日ヒルダが降ろさせたはずのバッカス号の海賊旗、そしてマストの一部が突き刺さっていたのが見えたのだ。
あのシンプルすぎる海賊旗は、見間違えるはずもない。
そして、そんなものがあるということは。
「……バッカス号は沈められたってことね」
「そのようだ」
ついでに言えば、何らかの手段でバッカス号を動かして海賊稼業を始めるつもりだったのも間違いないだろう。
「でも……これで海竜ってセンは消えたかしら」
「なんで? ドラゴンでしょ? このくらいやるんじゃない?」
「そっちで海竜がどのくらい頭いいか知らないけど」
陽子にそう返すと、ヒルダはバッカス号のマストの突き刺さった船の墓場を指し示す。
「海竜にやられたんなら、あんなオブジェは残らないのよ。破壊の化身よ、海竜は」
「そうなの?」
「あくまで噂では、だけどね」
しかし海竜が船の墓場のようなものを作るのであれば、当然それが噂なり情報なりという形で残るはずだ。
守るべき宝だというなら秘匿されるべきだが、オブジェというものは見てもらわなければ意味がない。
そしてこの船の墓場が海竜の宝のようなものであるとは、ヒルダには思えなかったのだ。
「……となると、これを造った本人が今どこにいるか、だが……」
アルフレッドも身を乗り出すようにして、船の墓場を眺める。
ちなみにヴァルツオーネ号は船の墓場をよく見られる位置で停止しているが、セレナはいつでも発進できるように操縦席に座っている。
「少なくとも、この近辺には居ないだろうな」
「え、そう?」
「ああ」
ヒルダにアルフレッドは、そう断言する。
「これが誰かに見せるオブジェだというのであれば、この近辺で見つかって戦闘になるようなヘマはしないだろう」
「どうかしら。これを見て反応する奴を眺めて楽しんでるって可能性もあるわよ?」
「もし、そうだというのであれば」
反対側の窓から見える風景にも視線を向けながら、アルフレッドは呟く。
「俺達に攻撃を仕掛けてこない理由が不明だ」
「む……」
「あー、なるほど」
ヒルダが黙り込み、陽子が頷き指を鳴らす。
「来る船全部を壊してるっていうなら、私達の船も壊しにこないと説明がつかない」
「そうだ。これをやった奴は船としては強力であるはずのバッカス号にも手を出した。ならば船の強さは「襲わない理由」にはなりえない」
サンバカーズはともかく、バッカス号自体はまともに戦えば戦士ギルドの船をも退けた強力な船だ。
この世界の船でどの程度対抗できるかは不明だが、襲う側にだって相当なリスクを背負う必要があったはずだ。
それを構わず襲うということは、見た目でバッカス号より弱そうなヴァルツオーネ号を襲わない理由が無いのだ。
「船を選んでいるって可能性は……」
「そうであれば、商船が来ない理由が不明になる」
「そうよね……」
「……だが、調べてみる必要性はあるな」
そう言うと、アルフレッドは船から出ていきヒラリと船の墓場の方へと跳んでいく。
「あ、もう! なんで思いついたらすぐ行動すんのよアイツは!」
「あはは……なんかクルシャンテ思い出すわ」
「やっぱりあーいうの居たの?」
船の墓場の上で早速調べ始めているアルフレッドをヒルダが指差すと、陽子は頷く。
「居たわよ。でも考えるより先に行動するから、アルフレッドの方がまだマシかも?」
「考えるより先に動くアルフレッドか……悪夢ね」
「強いとどうしてもね。でも、アルフレッドは無茶してるわけじゃないでしょ?」
実力を考えずに突っ込むのであれば問題だが、アルフレッドは充分以上に実力を備えている。
だが、それでもヒルダの表情は渋い。
「充分無茶よ。だってあいつ、「理想の英雄」のままだもの」
その言葉に、陽子は何も答えず。
セレナが、無言で2人を……そして、その先のアルフレッドを見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます