神姫ヴェガ・空野陽子
神姫伝承ヴェガ。
それは異世界召喚系というジャンルに分類されるOVAである。
多次元世界「クルシャンテ」に迷い込んでしまった主人公「空野陽子」が世界を支配しようとする敵との戦いに巻き込まれる中で、「神姫ヴェガ」としての力に目覚めていく……というのがストーリーの主軸であるのだが、制作会社の倒産というまあ、諸事情によって続きが予定されていながらも制作されなかったという曰く付きの作品でもあった。
そして、この「神姫伝承ヴェガ」にはこの作品が作られた時期に共通する主人公の大きな特徴があった。
「え……」
「まあ」
ヒルダとセレナがそんな声をあげたのも当然だろう。
現れた主人公……空野陽子の姿は、実に特徴的だったからだ。
ポニーテールに纏めた緑色の髪、そして同系色の目。
活動的な印象がありながらも、可愛さと幼さの残る顔。
そして、水着と見間違うような……しかし、確実に金属製であることを主張する部分鎧。
元の世界で俗にビキニアーマーと呼ばれるそれを纏い腰に剣を提げたその姿は、「かなり趣味的な格好をした女戦士」という印象であった。
「……そっか。私を呼んだのね」
「ああ。事情は分かっているか?」
「勿論よ。海で戦ったことはないけど、水中戦くらいなら経験あるし。よろしく、アルフレッド」
「ああ、こちらこそ頼む……あー……」
「陽子、でいいわよ」
「そうか、では頼む陽子」
「おっけー、任されたわ」
アルフレッドと握手をすると、陽子はヒルダとセレナへ振り返る。
「えーと、初めまして。私は空野陽子。ヨーコ・ソラノって言えばいいんだっけ? 気軽に呼んでくれると嬉しいわ」
「あ、うん。あたしはヒルダよ」
「私はセレナと申します」
快活に笑う陽子にヒルダとセレナは頷くが、微笑を浮かべているセレナと違い真顔のヒルダに陽子は首を傾げる。
「……どうしたの?」
「いや、その……」
「戦闘なら心配いらないわよ? 仲間を抱えて飛び回るくらいならやったことあるし」
「そうじゃなくて……」
陽子はイマイチ煮え切らない風のヒルダの様子に首を傾げるが、その視線が自分の身体をジロジロと見ている事に気付いて思わずサッと身体を隠す。
「え? な、なに? ヒルダってもしかして、そっち系の人?」
「そっち系って……違うわよ! その服よ、その服! ていうか鎧!? そんなもん痴女でも着ないわよ!?」
「ち……って、ちょ! わ、私の趣味じゃないわよ! 向こうだとこういうのが普通っていうか、ああもう! すっかり慣れちゃったけどやっぱりそうよね!? これ変よね!」
そう叫ぶと陽子はヒルダの視線から逃れるようにアルフレッドの陰に隠れてしまう。
「でもね、何度でも言うけど私の趣味じゃないから! クルシャンテじゃ皆こんな感じだったし、そもそも伝説の装備だからどうにもならないのよ!」
陽子の名誉の為に……というより「神姫伝承ヴェガ」の名誉の為に言うのであれば、陽子がビキニアーマーという特殊な鎧を身に着けているのは別に特殊な趣味の客層を対象にしているからではない。
OVA全盛期の時代の、更に一時期。どこが原点であるかは当時の時代を知る者にとっては諸説あるだろうが「ビキニアーマー」と呼ばれる特殊な鎧が主人公の装備として流行った時代があったのだ。
その如何にも非現実的な格好がファンタジー感を煽ったが故……かどうかは分からないが。
ともかく、「神姫伝承ヴェガ」においてビキニアーマーは主人公「空野陽子」の装備として採用されていたのである。
……しかしながら、ここはアルフォリアであってクルシャンテではない。
動きやすく分厚い服に革鎧を身に着けた「常識的な格好」のヒルダやローブを纏い露出度が極めて低いセレナといった面々を見ていれば、陽子の感覚は当然そちらへと傾く。
「ちょっとアルフレッド、そのマント貸してよ!」
「おい、引っ張るな」
「一応言うけどね、コレ防具としては物凄いのよ!? 全身に加護が効いてるから攻撃受けても傷とか出来ないし! 変に全身覆うよりもずっと……!」
「俺は何も言っていない」
「言ってないだけでしょ! 直視できる!?」
「ふむ?」
言われてアルフレッドは振り向き、正面から陽子を直視する。
頭の上から足の先までしっかりと眺め、その目を正面から見つめる。
全く含むものの無い純粋な視線だが……そんなアルフレッドの視線に、今度は陽子が耐えきれなくなる。
「……うっ、ごめん。無理。私が無理。なんかこう、見ないで」
「何故だ」
「ごめんってば! いいから、その目でこっち見ないで! なんか私が汚れてる気がする!」
「汚れてなどいないぞ? どちらかといえば」
「ぎゃー、何なのこの人!」
「こらアルフレッド!」
ヒルダに後ろから引っ張られ、アルフレッドは振り向く。
「なんだ?」
「やめなさいよ。アンタが悪気も邪気も無いのは知ってるけど、無駄にイケメンばら撒くんじゃないわよ」
「意味が分からん」
「女の子は難しいのよ。ま、今回はあたしが悪いんだけど」
「そうか」
全く分かっていない風のアルフレッドに溜息をつくと、ヒルダは手を膝をついて項垂れてしまっている陽子へと近づく。
「えーっと……ヨーコ? なんかごめんね。あたしも言い過ぎたわ。戦士として考えれば動きやすそうよね、それ」
「……そんな事言うなら、ヒルダも着る?」
「あ、ごめん。絶対やだ」
「もう私帰る。別の人呼んで」
すっかり拗ねてしまった陽子を説得するまで更に時間がかかったりしたのだが……まあ、その話はさておくとしよう。
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