合流、そして
「サンドイッチだってさ。こういうのは自分じゃ中々作らないわよねー」
楽しそうに言いながらもヒルダはアルフレッド達の手前で止まり、周囲を見回す。
「で? 状況はどうなの?」
「然程進展があるわけではないな。昨日の夜、沖の方が荒れていたらしいということくらいだ」
「ふーん?」
「漁業ギルドのマスターは海竜の存在を懸念していたようだったが……」
アルフレッドの言葉にヒルダは考えるように腕を組むと「うーん」と唸る。
「海の怪物で一番有名っちゃ有名だしね。その可能性込みで、アンタならどうにかなると思ってんだけど」
「さて、な。実際やってみないとどうにも言えないが」
「頼むわよ。アンタにどうにか出来ないなら逃げの一手しかないんだから」
そう言った後、ヒルダはそのまま後ろ歩きで何歩か下がり……アルフレッドを手招きする。
「どうした?」
「アンタを呼んでんのよ! ちょっと来なさい!」
言われるままにアルフレッドが近づくと、ヒルダはアルフレッドの耳に口を寄せてくる。
「……あの女に何処まで話したの?」
「何処まで、とは」
「アンタのことよ! アンタの事情!」
「特には、何も?」
「……そう」
思案気な顔になったヒルダはそのまま無言で……しかし、アルフレッドを掴んで離さない。
「……まあ、船とか他の英雄を呼ぶことについては今更よね。あの女も見てるし」
「そうだな?」
「多少は自重しろって話よ?」
「努力はしよう」
「どうだか」
その辺りについて、ヒルダはアルフレッドを信用していない。
何かあれば躊躇わない。そういうものが「物語の英雄」であることくらい、ヒルダだって知っているのだ。
アルフレッドをトンと押して軽く遠ざけると、ふうと息を吐く。
「で、船用意しなきゃいけないわよね。どうするの? 昨日の船使うの?」
「そうだな……」
アルフレッドは、自分の使える「船」を幾つか思い浮かべる。
海を行く船、空を行く船、更にその上……星々の間を行く船。
海竜と戦うのであれば相応の船が相応しいだろうが、どうしたものか。
「昨日の船で宜しいと思いますよ?」
悩むアルフレッドに、セレナがそんな事を言う。
「そうか?」
「ええ。先日の船であればノエル様が扱っておられる所を拝見しておりましたし、どのような船か多少想定は出来ております」
「って言っても、海竜出てきたら戦闘になんのよ?」
ヒルダの懸念はそこだ。昨日時点では海賊という想定であったから「あまり強そうでない船」でもよかったが、海竜を敵として想定するならば強い方がいいのは間違いない。
そしてアルフレッドのストックに、そういう如何にも強そうなものがあるだろうことも想像は出来ていた。
「そこも問題ないかと。先日の船ですが、あれには間違いなく武装がついております。戦う船特有の気配を感じました」
「武装、ねえ……」
ヒルダには船の武装など、あまり想像がつかない。
戦闘艦といえば、魔法士を乗せているのが普通だ。
火の魔法を使う魔法士を一列に並べて撃てば敵船など簡単に沈むし、敵の魔法士からの攻撃を防いでこちらの魔法士の攻撃を届かせるのが一般的な勝負の付け方だ。
昨日のタイホウのようなものを載せているなら話は別なのだろうが、ヴァルツオーネ号にはそういうものがついているようには見えなかった。
「アルフレッドはどう思う?」
「そうだな。慣れている船の方がいいだろうとは思うが……今の話からするとセレナ、お前が操縦するつもりなのか?」
「ええ。私の魔力については先日時点でノエル様の保証つきかと」
確かに、ノエルはセレナが居れば自分を呼ぶ必要がなかったと言っていた。
それが真実であるのならば、セレナにはノエルに匹敵するほどの魔力があることになる。
とすれば、確かにヴァルツオーネ号の操縦に問題はないだろう。
「ふむ……」
「それより、本日もあの不思議な力でノエル様をお呼びに?」
「そうだな……」
言いながら、アルフレッドは考える。
ノエルには「今回はここまで」と言われている。
実際、セレナがヴァルツオーネ号を操縦できるというのであればノエルを呼ぶ意味はあまりない。
今回の想定敵が海竜であるのならば、むしろ必要なのはいざという時にセレナとヒルダを守れるような……そういう戦闘能力、あるいは運動能力に長けた英雄だ。女性二人を取り扱うのであれば、当然その配慮が出来るような人物であればなお望ましい。
「……」
アルフレッドの中で男性英雄達が躊躇したような気がした。
俺を呼ぶんじゃねえ、と。そんな事を言われているような錯覚すら覚える。
実際には彼等の意識がアルフレッドの中にあるわけではないのだから間違いなく錯覚なのだが、なんとなくアルフレッドは彼等を呼ぶ事を躊躇った。
「……今日は、ノエルは呼ばない」
「あら」
「まずは、船だ。
アルフレッドの詠唱と共に、ヴァルツオーネ号が港に姿を現す。
「この船に武装、ねえ……?」
ヒルダはヴァルツオーネ号をジロジロと見るが、やはり分からない。
その間にも、アルフレッドは呼ぶ英雄の選定を終えている。
「
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます