今後の話

「……すまないな」

「いいわよ。なんとなくそうかもなーって予感はしてたわ」


 具体的にはサンバカーズが現れた辺りから嫌な予感はしてたのだ。

 しかし実際に一億イエンが幻と消えるとなると、結構くるものはある。


「あー、でも。外の惨状はあいつ等のせいじゃないとか、そんな話あったわよね」

「うん。どう考えてもサンバカーズがあんな事出来るとは思えないんだよね」


 今も外にある船の墓場。積み上げられた船の残骸達は如何にも凄惨で……。


「ん?」


 そこで、ヒルダは何かが引っかかる。


「ちょっと待って。なんでアレ、あんな風になってるの?」

「なんだ?」

「アルフレッド、ノエル! 甲板行くわよ!」


 慌てたように部屋を出ていくヒルダをアルフレッドとノエルも追い、そのまま甲板に出ていく。

 そうして甲板に出たヒルダは「船の墓場」の良く見える場所まで移動し……そこで「やっぱり」と声をあげる。


「どうされました?」


 慌てたように戻ってきたヒルダにサンバカーズを見張っていたセレナがそんな声をかけるが、ヒルダは聞いてすら居ない。

 

「あれは……おかしいわ」

「何がだ?」


 ヒルダの隣にやってきたアルフレッドに、ヒルダは船の墓場を指差す。


「さっきは気づかなかったけど……なんでアレ、あんな風になってるのよ」

「何がだ?」

「あの船の残骸よ! なんであんな風に纏まってるのよ!」


 たとえば、船に絡みやすい海藻が群生していて船がその地域で停まってしまうとか。

 たとえば、船底に穴をあけるような浅瀬が隠れているとか。

 あるいは、そういう理由で一定の地域に「船の墓場」が生まれることはあるだろう。

 だが、此処は違う。

 なのに、まるで全ての船がこの場所で沈んだかのように船の墓場が出来上がっている。

 もしこの近辺で船を沈めるような何らかの自然的要因があるのならば、そんなものはここ最近ではなくもっと以前から見つかっていたはずだ。

 ましてや、海賊のような連中が居つくはずもない。

 だというのに、そうした海賊連中までもが行方不明となり……恐らくはあの船の墓場の一員となっている。

 それは、有り得ない事だ。


「襲撃者がああした、ということか?」

「わざわざ船の墓場に追い込んで? 有り得ないわよ」


 バッカス号のように大砲を積んでいるのならばともかく、この世界における船同士の戦闘とは魔法士による魔法の撃ちあいが主となる。

 それによって船が沈む事も珍しくはないが、だからといって綺麗に船の墓場を構成するようなことにはならないはずだ。

 ……いや、そう考えてみると。


「……汚いわね」

「あの場所が、か?」

「うん。あの船の墓場、全体的に汚いわ。ごみ集積所って感じ」


 先程積み上げた、とヒルダは心の中で表現したが、実際に積み上げられている場所もある。

 船が沈んだ、とか壊れて積み重なった、というよりはそういう表現が正しいような気がしたのだ。

 そう、沈んでその場にあるのではなく船の残骸が積み重なっている。

 それ故に正確な船の数が測定し辛くなっているわけだが……考えてみると、それもおかしな話だ。

 まるで何かが沈めた船の残骸をその場に集めたような、そんな印象すら受けてしまう。

 そしてそうだとすると、それがバッカス号とサンバカーズの仕業でないことはもはや明白だ。

 言ってみれば、船のような巨大なものをゴミのように積み上げられる「何か」がこれを成したということであり……海竜というキーワードが、ヒルダの中で現実味を帯びてくる。

 だが海竜とて、こんな酔狂な事をするだろうか?

 あまりにも目撃例が少なすぎる海竜の考えなど、ヒルダには推し量る術もない。


「……犯人は、三馬鹿じゃない」


 唯一確かなその事実を、ヒルダは呟く。

 サンバカーズの引き渡しなどでは、今回の事件は解決しない。


「犯人は違う何かだ、ということか」

「そうね……でもたぶん、三馬鹿とはレベルの違う何かよ」

「ならば、放っておくわけにもいかないだろう」

「……アンタなら、そう言うでしょうね」


 言いながらも、ヒルダは今後の事を考える。

 船を沈めたのがサンバカーズではないのであれば、今回の依頼はサンバカーズの引き渡しでは解決しない。

 たとえば渡したとして、事件が解決しないのだから後々詐欺だなんだと言われかねない。

 となると「事件が海賊によるものではない」という調査結果を突き付けて依頼内容の変更を迫るのが妥当なところだろう。

 まあ、それで納得するかは分からないが……やらないよりは大分マシだろう。


「戻りましょ、アルフレッド。一回仕切り直す必要があるわ」

「ああ。ならすぐに船を」

「それは待って」


 言いながら、ヒルダは縛られている三馬鹿の元へと歩いていく。


「おうおう、なんだ姉ちゃん。俺に惚れたか?」

「ハハハ、冗談キツいよアニキ。女の子が惚れるとしたら僕に決まってるだろ?」

「オーニィは頭軽いからモテねえじゃねえか」

「なんだとオーバッカ! お前が一番バカだろ!」

「なんだとう!?」

「はいはーい、そこまで!」


 手を叩くと、ヒルダはオットーをニヤリとした笑顔を浮かべながら見下ろす。


「ねえ。あんた等さ、縛り首って好き?」

「好きなわけねえだろ! アホかてめえ!」

「そうよねえ。でもこのままいくと、まあ縛り首か斬首かは知らないけど、間違いなく死刑よね。戦士ギルドに手ぇ出してるし」

「うぐっ……で、でもよう。アレはあいつ等だって悪いんだぜ? いきなり海賊だって襲い掛かってこようとしたのは向こうなんだしよ」

「実際海賊旗掲げてるでしょうが」


 はためく海賊旗を指差すと三人は揃って顔を背けるが、ヒルダはオットーの顔を掴んで引き戻す。


「で、なんだけど。アンタ達の態度次第ではそういう事にならないように手伝ってあげてもいいんだけど……どうする?」

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