今後の話2

「マ、マジか!?」

「なんでもするぜ!」

「どうしたらいいんだい!?」


 あっという間にのってくるサンバカーズを「チョロい」と思いながらも、ヒルダははためく海賊旗を指差す。


「まず、あの旗なんとかして。もっとマトモなの無いの?」

「それならキャプテン・ヴァンが冒険船装う時に掲げてるのがあるぜ!」

「え、あれ何処にあるんだ!?」

「バカ、船倉にあるだろ!」


 サンバカーズの台詞にノエルが「あー」と何かに納得したように呟く。


「あの旗かあ……」


 そんなノエルの反応を見て、ヒルダも頷く。


「うん、嘘じゃないみたいね。じゃあ、まずはそれを掲げる事。海賊旗なんか捨てちゃいなさい」

「えっ」

「変な証拠掴ませるわけにいかないでしょ。その辺で沈んだ船の旗ってことにしときなさい」

「でも姐さん……」

「姐さんじゃないし。で、ここからが大事なんだけど。アンタ等、あたし達に協力しなさい」


 ヒルダの言葉に、サンバカーズだけではなく全員が驚いたような顔をする。


「え……ヒルダ、本気? サンバカーズだよ?」

「あたしは超本気よノエル」

「何を考えている?」

「何って。今回の件はどう考えても長丁場よ。安定した手段は必要でしょ?」


 ヒルダがそう返せば、アルフレッドは何かを考えた後に頷く。

 アルフレッドの力があれば移動手段を確保する事は容易いが、安定性に欠ける。

 分かりやすく言えば、アルフレッドに余裕がない時でも消失したりしない「海の上での足場」が必要なのだ。

 そういった点で、この世界のものではない技術が使われているバッカス号は非常に役に立つ。


「けれど……彼等は悪人ですよ? 信用できるのでしょうか」

「何よ、アンタもアルフレッドと同じで正義バカなの?」

「そういうわけではありませんが……」


 困ったように笑うセレナに、ヒルダはサンバカーズを指差して見せる。


「あたしも正義側ってのとはちょっとばかし違うからね。同類は分かるのよ。こいつ等は自分に利があるうちは従うタイプよ」

「そんなことねーよ姐さん」

「そうだよ、僕等は結構恩義は感じるタイプだよ姐さん」

「姐さんって呼ぶなっての」


 サンバカーズをヒルダが軽く蹴るが、サンバカーズはこたえた様子もない。


「でも姐さん、協力ったって何すりゃいいんだ?」

「姐さんって言うなって……ああ、もういいわ」


 オーバッカを軽く睨みながらも、ヒルダは溜息をつく。何を言っても無駄だろう事は何となく理解できてしまった。こいつ等はヒルダを姐さん呼びで固定する気満々なのだ。


「あんた等にはその船の墓場を造った犯人の調査協力してもらうのよ。といっても、基本的にはこっちの指示で動いて貰うわ」


 立場的には、冒険船とやら……そんなものをヒルダは聞いたことが無いが、まあ金持ちの道楽航海中の船ということでいいだろう。とにかく今回の件に協力してくれている善意の者、という立場に据えるのだ。


「……確かこの船、操縦にはあの船長帽被る必要があるのよね?」

「そうだぜ姐さん」

「んじゃえーと、ヒゲ。アンタが船長ってことにするわ」


 言われたオットーは「任せろ姐さん」と答えるが、どのくらい信頼できるかは今のところ不明だ。


「でもさあ、姐さん……ちょっといいかい?」

「何よ、えーと……モヤシ」

「違うよ僕は細マッチョだよ!? ていうかオーニィっていう名前がだね!?」

「うっさいわね。そういうの名乗りたきゃアルフレッドみたいになってから言いなさい。で?」


 オーニィの抗議を却下して促すヒルダに、オーニィは不満そうにしながらも口を開く。


「協力って言うけれど、それってあの惨状作った奴と戦うってことだよね?」

「そうなるわね」

「いくらバッカス号でも、船をあんなにしちゃう奴とぶつかったら壊れちゃうんじゃないかなあ……」

「そうなる前に倒すのよ、アルフレッドが」


 その辺りはアルフレッドに丸投げだ。アルフレッドの事だから、軍用船の一つや二つ出してきたところで驚かない。

 先程の話を聞く限りではアルフレッドが出している武器も英雄の武器なのだから、ここに来る時に使ったヴァルツオーネ号のような船……いや、もっと攻撃的な船だって所持しているだろうとヒルダは考えている。そういうのを使えば、どうにでもなるはずだ。


「ええ……? 出来るのかい?」

「出来るわよね、アルフレッド」

「ああ、なんとかしよう」


 請け負うアルフレッドを指して「ほら見なさい」とヒルダは言うが、オーニィはまだ不安そうだ。

 そのまま放置するのも危険だな、と。そう判断したヒルダは膝をついてオーニィを正面から見据える。


「いい? どうせ海賊なんかやってたって、アルフレッドに退治されるだけよ? それであたしの財布を重くしてくれるっていうんなら止めないけど、今回の件に協力すれば……アンタ等、英雄の仲間入りよ?」


 英雄の仲間入り。その言葉に、オーニィと……他の二人も唾を飲み込む。


「……も、モテモテになるってことかい?」

「そこは努力次第だけど。まあ……上手くいけばハーレム王くらいなら簡単でしょ」


 サンバカーズの汚い雄叫びが響いて、アルフレッドが思わず頭痛に額をおさえる。


「……なんて悪い笑顔だ」

「たぶん一番悪人だよね」

「困った方ですね……」


 そんな三人の呟きが聞こえていたかは分からないが……確かにヒルダは、物凄く悪い顔をしていた。

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