犯人は誰?

 何かをする前にアルフレッドにノックアウトされてしまったサンバカーズの三人はバッドラック号……ノエル曰くそういう名前の船らしいが、ともかくそのバッドラック号の甲板の上で縛られ座らされていた。

 維持自体がアルフレッドの魔力頼りになるヴァルツオーネ号は一度消され、その光景にサンバカーズが驚いていたが……それはさておき。


「で? この海域の惨状作ったのはアンタ等ってことでいいの?」

「あー、それは」

「おうともよ! 俺達サンブラザーズがやったのよ! どうだ怖ぇか! 今のうちに解放したほうが身の為だぜ!?」


 ヒルダの問いにオーバッカが何かを言いかけたところを、遮るようにオットーが叫ぶ。

 ……が、ヒルダの視線は冷たい。ゴミを見るような目で見られ、サンバカーズはぶるりと身を震わせる。


「あ、アニキィ……この子怖いよ。僕等をものすっごい目で見てるよ」

「俺、ちょっと気持ちよくなってきた……」

「うぅるせえ、ビビッてんじゃねーぞ!」


 三人を無視すると、ヒルダはアルフレッドへと視線を向ける。


「ねえ、アルフレッド。アンタ、船の残骸見た時に何か気付いた風だったけど」

「ああ。大砲による破損痕とは思えなくてな」

「タイホウ……この船についてる黒い筒よね」

「そうだ。俺も実際に撃っているところは見たことが無いが、そうだな……かなりの遠距離まで届く投石のようなもの、という認識で問題なかったはずだ」


 細かく言えば問題はかなりあるのだが、大砲が何であるか知らないヒルダは「へー」と頷く。


「投石みたいなものってことは……ああ、なるほど。確かにおかしいわね」


 あの船の墓場にあった船はほぼ全てが「ボロボロの残骸」だったのだ。

 大砲の攻撃で沈んだのであればそういう破壊痕があるはずだし、何より「船底が損傷して沈んだ船」が多くなるはずだ。ボロボロの残骸ばかりなどという事になる可能性は低いだろう。

 それに……だ。よく考えてみれば、あんな船の墓場と呼べるようなものになっていること自体がおかしい。

 サンバカーズのバッドラック号は見た目は普通の大型船だし、大砲で沈めていたなら船の残骸は当然あちこちに点在しているはずだ。

 これではまるで、船の残骸を一か所に意図的に集めているようにも見える。


「こういう目立つ事するのはヴァンだと思ったんだけど……居ないなら、君達は犯人じゃないよね。だって、物凄いバカだし。後先考えないし」

「う、うるせえぞ絶壁小娘! 俺たちゃ大悪党だぞコノヤロー!」


 呆れた様子のノエルにオットーがそう返すが、実際にサンバカーズが犯人の可能性は低いだろう。

 勿論、戦士ギルドを襲ったのはサンバカーズで間違いないだろう。だが、それ以外の何かがこの海域にいる……ということになる。それは個人であるかもしれないし、集団であるかもしれない。


「こいつ等とは違う勢力が存在する、か……」


 呟くアルフレッドに、ヒルダも深刻そうな表情で続ける。


「だとすると、話が面倒になってくるわよ。漁業ギルドも戦士ギルドもこいつ等が全ての犯人として認識してるはずよ。もし「違う何か」が犯人なら……」

「犯人なら?」

「儲からないわ。だってそいつ倒しても感謝されるだけで金にならないのよ?」


 ヒルダの言い草にノエルが驚いたように目を見開くが、ちらりと見たアルフレッドが溜息をついているのを見て「あ、冗談か何かだったのかな……」と呟く。


「何言ってんのよ。本気の超本気よ。漁業ギルドのおっさん、どう見てもシブチンだったでしょうが。あ、ノエルは知らないわよね」

「え? あ、うん。大体の事情くらいなら知ってるけど……」

「そう。とにかくあの手の人間は予定外の事に経費払うなんてしないのよ。ったく、失態だわ! 「海賊討伐」じゃなくて「今回の事件の原因解決」で契約しとくべきだった!」


 ヒルダは甲板をウロウロと動き回ると、思いついたように顔を輝かせる。


「そうだ! とりあえず目的の海賊は捕まえたんだし、一端船ごと引き渡して依頼金貰ってくるってのはどう!?」

「どう、じゃないだろう。他に犯人がいるなら何も解決していないだろうが」

「そこはほら、今回の犯人は海賊じゃないかもしれません。依頼としては解決しましたがどうしますかー、みたいに言えば後は向こうの責任でしょ?」


 向こうは海賊を退治しろと言っているんだし、犯人が違う可能性を示せば説明責任も果たされる。

 ついでに言えばサンバカーズが戦士ギルドに砲撃してるのは恐らく間違いないのだから、依頼としては文句ない完遂である。


「ちょ、ちょっと待て! 引き渡しってそりゃ、俺等がやってもいねー罪を押し付けられるってことだろが!」

「そうだそうだ! まだ美味しい思いしてねえ!」

「大体僕等、そんなことになったらどうなるのさ!」

「え? 縛り首じゃない?」


 満面の笑顔で自分の首をキュッと絞める真似をしてみせるヒルダにサンバカーズは芋虫のように動いて逃げようとするが、アルフレッドに抑えつけられてバタバタと暴れ出す。


「やめろ、離せ! 畜生、この外道ー!」

「とにかく落ち着け。ヒルダのアレは冗談かもしれない」

「あたしは超本気よ?」

「うわー!」


 暴れるサンバカーズをひとまず気絶させると、アルフレッドは深い溜息をつく。


「……とにかく、だ。犯人が別にいるのであれば事件は何も解決していない。まずはこの辺りを調べて、状況を整理してみるべきじゃないか?」

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