サンバカーズ
「こらー! 君達、そんなところで何してるの!」
最大音量で響くノエルの声にサンブラザースは「うおーっ!?」と驚いたようにのけぞる。
「こ、この色気のない声……!」
「まさか絶壁小娘!?」
「なんでこんなところに! てことはまさか……」
絶壁小娘、の辺りでノエルにヒルダとセレナが視線を向けるが……睨まれてすぐに視線を逸らす。
「知り合いか?」
唯一ノエルではなくサンブラザーズに視線を向けていたアルフレッドに、ノエルは頷き船外放送用のマイクを掴む。
「キャプテン・ヴァンは何処にいるの!」
「キャプテン・ヴァンも其処に居るのか!?」
重なった2つの声。ノエルとサンブラザーズは互いに首を傾げ……ヒルダがノエルの肩を叩く。
「ね、ねえ。早速話についていけないんだけど……そのキャプテンってのは誰?」
「あの船の船長」
そう答え、再び何かを言おうとノエルはマイクを握るが……セレナの「あっ」という声に気付き、その視線の方向に目を向けて。
そこに、軽やかに……しかし力強く跳ぶアルフレッドの姿を見た。
「ん……? う、うわああ! アニキ!」
「なんだ!? 今あの絶壁小娘をやり込める最強の悪口を考えて……!」
「ぼ、僕には及ばないけど結構なイケメンが空を飛んで!」
「はあ? ……はあ!?」
甲板へと着地したアルフレッドを見つけた髭面……オットーは驚きの声をあげると同時に一気に距離を詰めてきたアルフレッドの拳で吹き飛び、ゴロゴロと転がっていく。
「ぬ、ぬおおお! 力なら負けねえええええええ!」
「そうか」
ドスドスと荒い足音を立てながら拳を振りかぶるオーバッカの攻撃はアルフレッドの手によって弾かれ、腹へと叩き込まれた蹴りで宙を舞う。
「ひょ、ひょええええ!? 待った、待つんだ! 僕は荒事が苦手なんだ! そうだ、ゲームで勝負を」
「駄目だ」
何やらカードを取り出したオーニィを殴って甲板に沈めて。更なる増援を警戒しアルフレッドは周囲を見回すも、誰も出てくる様子はない。
「……うわあ」
あっという間に船を制圧してしまったアルフレッドにヒルダはそんな声をあげ、サンブラザーズの乗っている船を眺める。
確か漁業ギルドで聞いた話では黒い筒を無数に積んでいたという話だったが……見たところ、船体にそういうものが装備されている様子はない。
ないが……船のあちこちに奇妙な部分があるのは分かる。
まるで閉められた窓のようなソレが本当に窓であると仮定して、そこに「タイホウ」があるとするならば……。
そこまで考えて、今更どうでもいいことかとヒルダは思考を打ち切る。
どっちにしろ首謀者らしき3人はすでにアルフレッドが倒してしまっている。
「で、あのバカ3人は何なの?」
「あー、うん。あのサンバカーズはちょっと因縁があって……ただ、あの3人でこんな事出来るとは思えないんだけど……」
サンブラザーズ……もといサンバカーズは「永遠のフローランド」におけるノエルの敵だ。
空飛ぶ海賊船バッカス号に乗りフローランドへとやってきたキャプテン・ヴァンの部下なのだが……最終的にヴァンが船を降りていた隙に裏切って船を乗っ取っている。
しかしアルフレッドの事情も自分を巡る事情も分かっているノエルはそれを説明するわけにもいかず曖昧に微笑みマイクを手に取る。
「アルフレッド! サンバカーズからヴァンの行き先と何やってるかを聞き出して! サンバカーズには「こんな」ことできない!」
基本的にサンバカーズは馬鹿でアホで間抜けでどうしようもないくらいに小悪党だが、所詮小悪党なのだ。来る者皆殺しとか、そういう事を思いつくとはノエルには思えなかった。
「そういうことらしいが……そのヴァンとかいう男は何処だ」
アルフレッドがオーニィを掴み上げると、脅えたようにオーニィは首を横に振る。
「し、ししし……知らないよ! フローランドにいるんじゃないの!? ていうか、なんでノエルがこっちにいるのさ!」
フローランドに居る。その言葉にアルフレッドは強い違和感を覚える。
アルフレッドもノエルも「元の世界」が虚構のものであることは知っている。
しかしオーニィはまるで、此処ではない場所に「フローランド」があるかのように語っている。
それは何か、重要な事のような気がして。
「そ、そぉこまでだあ!」
更なる質問を続けようとしたアルフレッドに、よろよろと立ち上がったオットーが叫ぶ。
「おい色男! オーニィを離しな……でないとお前さんの船がズドンだぜ!?」
オットーの声に応えるように船が音を立て始め……その側面に無数の四角い穴が開き黒い砲身が顔を出す。
それはアルフレッドが予測した通り大砲であり……一斉に放たれればそのうちの何発かがヴァルツオーネ号に当たるだろうことは充分に予測できた。
「……他に人の気配があるようにも思えなかったが」
「ヘッ、バッカス号は魔導船だぜ? そこら辺の海賊船と一緒に考えたのがお前さんの運の尽きよお!」
「なるほど、凄まじいものだ。どういう仕組みなんだ?」
「おう、この船長帽がカギになっててな……ってしまっ!?」
慌てて口を塞いだオットーにアルフレッドのぶん投げたオーニィが命中し、ほぼ同時に走っていたアルフレッドの手により船長帽が奪われる。
「あー、ひ、ひひひ……卑怯者ォ!」
「……言うほど卑怯な手管だったようには思えないが」
その指先でクルクルと船長帽を遊ばせながら、アルフレッドは小さくため息をつく。
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