捜査方針

 アルフレッドにしては常識的ともいえる提案に、ヒルダは一瞬で訝しげな表情になる。


「え、アンタ……調査とかそういう事考えられたんだ……?」

「俺を何だと思っているんだ」

「何って。猪突猛進の正義バカ?」


 一瞬すら迷わず答えるヒルダにアルフレッドは黙り込みそうになるが……それでも何とか反論を捻りだす。


「俺だって色々と考えている」

「ほうほう。じゃあ思慮深いアルフレッドに聞きたいんだけど、具体的に何処をどういう風に調査するか方針はある?」

「そうだな。まずはこの船をしっかり調べてみるべきだろう。その次に、あの残骸だな。何かヒントがあるかもしれない」


 そこまで一気に言うと、ヒルダは驚いたように目を見開く。


「……驚いた。正直、辺りを根こそぎ吹っ飛ばして何か出てくるか確かめる、くらいは言うと思ってたわ」

「……一度、しっかり話し合う必要がありそうだが」

「冗談よ。でもまあ、あたしも同意見。こいつらが嘘ついてないっていう保証はないしね」

「オウコラ! 俺たちゃ親切丁寧正直者の海賊で通ってんだぞ!」

「そうだそうだ! 訂正しろ!」

「訂正しろー!」


 早くも復活していたサンバカーズを無視しながら、ヒルダは船長帽を弄っていたノエルへと視線を向ける。


「アンタ、こいつ等と知り合いっぽいけど……この船の事には詳しいの?」

「うん。乗ったことあるよ」

「そ。じゃあアンタ、あたしと一緒にこの船探索ね」

「いいけど……そうすると、セレナはアルフレッドと組むの?」

「何言ってんの。この三馬鹿の監視も必要でしょ?」


 言いながらヒルダがセレナに視線を向ければ、セレナは微笑み頷く。


「私はそれで構いませんが……そうなりますと、アルフレッド様がお一人なのでは?」

「アルフレッドは一人で動かした方がいいと思うわよ? たぶん、この中の誰一人ついていけないし」


 そんなヒルダの身も蓋もない言葉にしかし、全員が「あー」と頷く。

 ヴァルツオーネ号からバッカス号にジャンプで飛び移ったところを見ていれば、当然の反応ではある。


「俺は一人で構わないが……むしろヒルダ、君達は平気なのか? 何があるか分からないんだぞ」

「む」


 アルフレッドの言葉に、ヒルダは軽く考え込んでしまう。

 ヒルダだって、罠士ギルドと戦士ギルドに登録している一人前の罠士だ。

 得意じゃないがある程度の戦闘は出来るし、探索という分野に関しては一流だとも思っている。

 ついでに正義バカのアルフレッドの居ないところでお宝があればちょろまかしてやろうという考えもある。

 しかし、「何があるか分からない」という言葉がヒルダを押し留めてしまう。

 ついこの間、常識はずれの力を持つドーマとかいう化物に誘拐されたばかりなのだ。

 先程ノエルが言っていたキャプテン・ヴァンとかいう男が船の中に居ないとも限らないし、その男がそういう類の化物でないとも限らない。

 そうした時、ノエルだけで対処できるのだろうか?

 アルフレッドが変な能力で呼び出したのだから、あのアスカと同じように不思議な力を持っている可能性は高いが……どうなのだろう? そこに期待している部分はある、のだが。


「あのさ。アンタって、ヴァンとかいう奴が襲い掛かってきたら勝てる?」

「え? ど、どうかな。ヴァンって結構強いし……あ、でも「ノア」があるから大丈夫かな?」


 自分の杖をチラチラ見ながら答えるノエルにヒルダは不安が増すが……そんな二人を見ていたアルフレッドは「俺も最初は船を探索しよう」と言い出した。


「えっ」

「前回の事もある。未知の場所を探索する場合は最善を尽くすべきだろう」

「あ、その方がボクも安心かな」

「げー……」


 真面目と正義の化身なアルフレッドがついてくると聞いて、ヒルダは唸る。

 言い包める自信はあるが、それでも無制限お宝取り放題というわけにはいかないだろう。

 しかしまあ、アルフレッドが居れば安全なのは確かだった。


「……ま、仕方ないわね。じゃあ早速調べましょ」

「うん!」

「ああ」


 甲板を軽く見回せば、船内に入る扉らしきものがあるのが見える。結構な大きさのあるバッカス号の探索にはそれなりの時間がかかるだろうが……まあ、縛られたサンバカーズ相手であればセレナでも不足はなさそうに思えた。


「ではセレナ、すまないが見張りを頼む」

「はい、任されました」


 頷くセレナをその場に残し、アルフレッド達は船内へと続く扉を開ける。

 すると、すぐそこには下へと続く階段があり……頷き合うと、まずはアルフレッドが最初に降りていく。

 降りた先は小さな広間のようになっており、船の前方へとつながる扉と船の後方へとつながる扉があるようだった。

 

「アルフレッド! 勝手に扉とか開けないでよ!?」


 何もないか確かめようとしていたアルフレッドは扉に伸ばした手をピタリと止め「当然だ」と返す。

 仕方ないと周囲を見回すが、どうやらこの空間には他に何もないようであった。

 やがてノエルとヒルダが降りてくると、ノエルは「わー、懐かしいなー!」と喜び……ヒルダは楽しそうに舌なめずりをする。


「さーて……っと。それじゃあ、あたしの出番ね!」

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