占い
「……俺は、アルフレッドだ」
「アルフレッド……アルフレッド、ですか」
その名前を何度か繰り返し、占術師の少女……セレナは頷く。
「強い力を感じる名です。名とは大なり小なり願いが籠るモノですが、尋常ではない何かを感じます」
「一々胡散臭いわね……」
胡乱な目で見るヒルダを意図的に無視しつつ、セレナはアルフレッドへと近づいていく。
「アルフレッド様は、これからどちらへ向かわれるのですか?」
「俺は」
「占術師でしょ、占えばいいじゃないの」
「ヒルダ、絡むんじゃない」
「なによ」
アルフレッドに窘められたヒルダは不満そうな顔をするが、何処となく勝ち誇った風のセレナに気付き思い切り睨みつけ……そのままアルフレッドの腕を引っ張る。
「もう、行くわよアルフレッド! 変なお守りとか買わされるわよ!?」
「そんな子には見えないが……」
「アンタ初対面であたしに思いっきり騙されたの忘れたの!」
「君が言うのか……」
勿論そのつもりで抵抗すれば簡単だが、アルフレッドは仕方ないといった様子でヒルダに引っ張られていく。
「……なるほど、沖に向かわれるのですね」
だが、その動きは水晶玉を覗き込むセレナの言葉によって停止する。
……というよりもアルフレッドが動かなくなったという方が正しいのだが、それはともかく。
「策をお持ちのようですが、強すぎる輝きは目指すものを遠ざけます。避けた方がよろしいでしょう」
「……君は」
アルフレッドの持つ「手段」について言っているのだと分かるが故に、セレナの言っていることが恐らく正しいとアルフレッドには理解できてしまう。
自分を引っ張るヒルダを引きずったまま、アルフレッドはセレナへと近づいていく。
「君は、本当に「何か」が見えているのか?」
「万物全てを見通すというわけにも参りませんし、信じるかどうかは聞き手次第です」
「ならば君に問いたい。俺が取るべき「策」とはなんだ?」
「……お待ちを」
セレナが水晶玉を覗き込むと、その目が薄く光り始める。
魔力による輝きだと理解できるそれを保持した瞳は水晶玉をじっと見つめ……やがて、口からは言葉が紡がれる。
「可能であれば普通の船がよろしいでしょう。もしくは、あまり強そうに見えない船がよろしいでしょう。それが目指すものを引き寄せる餌となります」
「……ふむ」
「ですが……」
言いかけた後セレナは逡巡し「いえ、なんでもありません」とそれを打ち切る。
「ご武運を」
「ああ」
「満足した? 行くわよ!」
ひらひらと手を振るセレナをひと睨みしてからヒルダはアルフレッドを再度引っ張っていく。
今度はセレナは何も言わず、その姿は遠ざかっていく。
「まったくもう、占わなくても分かる事しか言ってないじゃないの!」
「そうか?」
「そうよ! つーか常識!」
アルフレッドが何を出すつもりだったか知らないが、きっと海賊が船を捨てて逃げるようなとんでもないものだったに違いない。
そんなものを出されては海賊退治どころではないのは当然だ。
「どーせドラゴンとかそういうの出すつもりだったんでしょ!」
「いや……確かに空を飛ぶのはどうかと思ってはいたが……」
どちらかといえば生き物ではなく機械に該当するものだったりするのだが、それを言うとヒルダがまた怒るだろうと思いアルフレッドは言わずに黙り込む。
「しかし、船か……」
「言っておくけど、たぶん普通の船なんて買えないわよ」
「そうなのか?」
「そうよ。船ってのは買うにも色々手続きが要るのよ」
ちょっとした小舟であっても造船技術を持つ船大工が手作りし、時間をかけて仕上げるのだ。
船は一隻ごとに許可が出て登録がされ、何処の造船所が作ったかが分かるようになっている。
一応表向きにはそれは海賊対策であり、海賊が船を手に入れられないようにする為のものなのだが……実際には「商人向けに作った船が試験航海中に奪われた」などを装い取引されていたりもする。
しかし、そういった例はともかく一般人がまともに船を手に入れようとすれば漁業ギルドとの兼ね合いもあり相当面倒な事になる。
「新規の船はまず間違いなく手に入らないし、既存の船も売る奴がいるかどうかは不明ね」
「しかし、海賊騒ぎで船を出す人間が減るのであれば手放そうという者もいるんじゃないか?」
「居ないわよ。飯の種よ? 漁師やめて商人やろうってんなら手放すかもしれないけど、ひと財産になるくらいにはボッてくるわね。話にならないわ」
「ふむ……」
「ま、そもそもの話で言えば買わないけどね。別に船旅するわけでもなし、無駄な出費よ」
そんな話をしながらヒルダとアルフレッドは再び港の見える坂の前まで辿り着くが……そこに立っている少女の姿を見つけ、ヒルダは顔をヒクつかせる。
「……何してんのよ、アンタ」
「漁業ギルドでしたら、此処を真っすぐ行った突き当りを左ですよ」
「なるほど、占ったわけか」
「ええ」
静かに微笑むセレナにアルフレッドは納得したように頷き、ヒルダは頭痛を抑えるように頭を指でコツコツと叩く。
「……こいつ、ストーカーじゃないの……? つーか本業が暗殺者だったりしないでしょうね……」
「失礼な方ですね……」
「すまないな、少し問題はあるかもしれないが悪い奴じゃないんだ」
「ちょっと、フォローになってないわよ!」
アルフレッドを軽く叩くと、ヒルダは再びアルフレッドを引っ張って漁業ギルドへと向かっていく。
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