まずは情報収集
バッサーレの罠士ギルド。
それは罠士ギルドの例に漏れず、裏通りにひっそりと存在していた。
とはいえ一応公的なギルドである罠士ギルドの建物は小綺麗であり、しかし建物の中は陰鬱な空気に満ちていた。
だからこそ、扉を開けてヒルダとアルフレッドが中に入ってきた瞬間、罠士ギルドの中はざわめきに包まれる。
その原因はヒルダというよりはアルフレッドだ。お仲間っぽい雰囲気を纏うヒルダはともかく、アルフレッドはどう見ても騎士だ。
警戒するあまり武器に手を伸ばそうとした者もいるが……その空気はヒルダが銀色のカードを出した事で霧散する。
罠士ギルドのギルドカード。貢献した者の証であるそれに敬意を払わない者はあまり居ないし、それを見て尚ヒルダ達を敵だと考える阿呆は此処には居ない。
「……ギルドカード持ちたあ恐れ入ったね。何処から来たんだ?」
「アルテーロからよ」
カウンターの職員に問われヒルダが答えると、何人かが「ああ、あの田舎町か」とバカにしたように呟く。
まあ、港町であるバッサーレからしてみれば何処にでもある小さな町にしか過ぎないアルテーロは田舎町だろう。
ニヤニヤしているところを見れば、彼等の中でヒルダのギルドカードの価値が下がったのであろう事が見て取れる。
だが、ヒルダはまったく気にしない。ギルドカードはギルドカードであり、持っている者と持っていない者との間には天と地程の差がある。
実際、そんな馬鹿はさておき職員はヒルダに「そうかい」と告げただけだ。
「で、罠士ギルドに何の用だ? 仕事をしたいってんなら是非紹介したいとこだが、今は時期が悪い」
「それって海賊騒ぎの事でしょ? それについて聞きに来たのよ」
ヒルダの言葉に職員は途端に渋い顔になり、「あー……その件か」と嫌そうな顔をする。
「ウチも困ってんだ。一週間くらい前だったか……海賊連中が漁船も襲うようになってな。しかも陸に戻ってこないようになった」
「戻ってこないって……補給はどうしてんの? まさか漁船襲って手に入れた魚だけ食ってるってわけでもないでしょうに」
「分からん」
当然だが、海賊だって生きている。生きていれば飯も食うし水も飲む。酒を飲みたい者も居れば色んなやんちゃをしたい者だっている。
そうしたものは近くの港で補給するのであり、だからこそ近隣住民との関係は良好でなければならない。
地元の罠士ギルドの息のかかった店がそういう海賊に調達することもあるように、海賊自体が罠士ギルドの「裏」に属する連中であったりもする。
つまり、海賊の事を知りたいのであれば罠士ギルドに来るのが一番なの、だが。
「確かなのは、連中がバッサーレとは違う何らかの補給先を手に入れたってことと……強力な武器か何かを手に入れたってことだな。ひょっとすると上もすげ変わってるかもしれない」
「そのすげ変わった「頭」について予想は出来ないの?」
「予想もつかねえな。この付近にいる海賊団は幾つかあったが、一番でけえので青鮫ジョゼの海賊団だ。だがそいつだけじゃなく、全部の海賊団が港に戻ってこねえ」
確かにそれは妙だとヒルダも思う。盗賊団でも同じなのだが、基本的に独立採算的な精神を持っている。
具体的には互助精神の持ち合わせなどないし、隙を見せれば出し抜こうとする殺伐としたライバル関係だ。
もし青鮫とやらがバッサーレの港に来ないのであれば、これ幸いとバッサーレに来てどんちゃん騒ぎをするのが当然にも思える。
全員足並み揃えて仲良く、なんていう考えが存在するはずがないのだ。
「そもそも海賊っていう可能性自体どうなの? 実は全部海竜か何かに殺られてて、そいつが暴れてるって可能性は?」
「……戦士ギルドの連中が船を見てる。その船に一方的にやられたって話だぜ」
「その船は何処の船なの?」
「分からん。が、髑髏旗なんぞ掲げてるのは間違いなく海賊だろうな。青鮫じゃねえだろうが」
「……確かにそうね」
そんなものを掲げるのは、確かに海賊以外には無いだろう。万が一何処かの国の軍船だったら趣味が悪すぎる。
「だが、これがどうにも妙な話があってな」
「妙な話?」
「おう、妙な話だ」
言いながらトントン、とカウンターを指で叩く職員に舌打ちすると、ヒルダは銀貨を載せて。
再度カウンターを叩く職員を睨みつけながら、また銀貨を積む。
「おい、セコく1000イエン単位で積むんじゃねえよ。もっとドンと1万イエン単位で積んでこい」
「何よ、どうせ戦士ギルドでも聞ける話なんでしょ。ボるんじゃないわよ」
「なら戦士ギルドに聞きに行けばいいんじゃねえか? あ?」
「へえ、いいの? こっちのアルフレッドは戦士ギルドのカード持ちよ? お茶とお菓子付きで話を聞かせてくれるんじゃないかしら」
職員とヒルダは睨み合っていたが、やがて職員は銀貨を素早く回収しふうと息を吐く。
「……火を噴きデケえ鉄球を吐き出す黒い筒を山のように積んでたそうだ。たぶん何らかの魔法具だと思うが……そんなもん使われちゃ近づけもしねえ。戦士ギルドの連中も及び腰ってわけだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます