光と闇2

 集中する。自分の中にある力へと意識を向け、アルフレッドは集中する。

 求めるのは、デルグライファ・ドーマを倒せる力。

 一つでは足りない。それでは意味がない。

 無数の英雄達の力を束ね力と為すのがアルフレッドが与えられた能力。

 ならば、束ねなければ意味がない。

 今までを超える使い方が出来なければ意味がない。

 ならば「何が足りない」か考えなければならない。


伝説解放オープン。『巨獣機ヴァルガード』・ティタンシステム」


 アルフレッドの中身が「ヴァルガード」のそれに組み替えられる。

 人を超えたアルフレッドを更に超える、巨大な敵を相手にする為の力がアルフレッドの中に生まれ出る。


伝説解放オープン。『精霊機甲エレスティア』・風霊鎧装」


 続けてアルフレッドの身体を覆ったのは、風。アルフレッドの纏う鎧を変化させ、全身を覆う全く違う装備へと変化させていく。

 緑を基調としたその全身鎧を明日香が余裕のある状態で見れば「ロボットだ!」と叫んだであろうが、特徴的なのは兜から突き出した角だろう。甲虫のそれにも似た角を持つ鎧は、強烈な魔力を発しながらアルフレッドを覆い尽くす。


伝説解放オープン。『魔星伝レヴィウス』・星斬剣」


 続けてアルフレッドの剣が、一振りの巨大剣に変化する。

 黄金色にも似た宝玉の嵌った巨大剣はそれ自体が凄まじい魔力を放ち、周囲の景色を歪ませる。


「なっ、なんだ……何なのだ、あれは!」

「余所見しないでくれる……!? 雷撃符、発!」


 防御と妨害に徹していた明日香に手間取っていたデルグライファ・ドーマは変貌していくアルフレッドの姿に驚愕し、しかし明日香の執拗な攻撃の前に手出しが出来ない。

 ……いや、きっと手出しは出来る。本気の全力で明日香をどうにかして、すぐに向かえば何かは出来るかもしれない。

 しかし、しかしだ。それで本当に「アレ」が止められるのか。

 あの恐ろしいまでの魔力を放つアレは……一体。


伝説解放オープン。『魔導戦記』・ワイズブレイン」


 そして、その言葉と同時に……溢れ出ていた魔力が収束する。

 消えたのではない。アルフレッドの中に渦巻き、もっと恐ろしい何かに変貌した事をデルグライファ・ドーマは悟る。

 そして……アルフレッドは、ゆらりと動き巨大剣を構える。


「……いくぞ」


 その言葉と同時に、アルフレッドの全身を風が覆う。

 離れていたはずの距離が、ほぼ一瞬。その一瞬でアルフレッドの振るう巨大剣がデルグライファ・ドーマを天高く打ち上げる。

 その一撃でひび割れた黒鎧。その事実と痛みにデルグライファ・ドーマは苦悶の声をあげ、鎧の欠片を散らばせながら空へと飛ばされていく。


「ぐ、おおおおっ!?」


―ウインドセイバー―


 アルフレッドの鎧からアルフレッドではない声が響き、デルグライファ・ドーマへと無数の風の刃を発射する。


「ぐっ……!」


 六芒星を展開したデルグライファ・ドーマだが、その六芒星の防御を打ち破り風の刃はデルグライファ・ドーマの黒鎧を傷つけていく。


「馬鹿な……お、おのれえええ!」


 デルグライファ・ドーマの鎧から剥がれるように現れた符の群れがアルフレッドを襲う。


―フレイムシールド―


 だが、それも届かない。アルフレッドの周囲に展開された赤い障壁が符を燃やし尽くし、一枚たりとも近づけはしない。

 違う。今までのアルフレッドとは違う。

 全く違う何かに変貌している事を悟ったデルグライファ・ドーマは戦慄する。

 アレは違う。中も外も、全く違う何かに変わっているのだ。


「だが、負けぬ……! 闇よ、集えええええええええ!」


 叫ぶ。渾身の力でデルグライファ・ドーマは叫び闇の力を集めていく。

 地上に到達する前に、全力で撃ち込む。

 そう考え……しかし、気付く。

 地上には居ない。慌てたように逃げていく明日香しか、そこには居ない。

 何故。

 何故立花の娘は逃げている。

 何故。

 何故アルフレッドは地上に居ない。

 その答えは、上空から伝わる絶望的なまでの魔力が語っていた。


「星斬剣よ……切り裂けっっっ!!」


 輝く。破滅の光を宿し眩く輝く星が、空に生まれ出る。

 それは地上に降り注ぐ流星のように軌跡を描きながら、デルグライファ・ドーマを真っ二つに切り裂き地上へと到達する。


「今の我が、こんな簡単に……」


 今の自分に敵うものなど居ないはずだった。

 それだけの力を手に入れたとデルグライファ・ドーマは確信していたし……事実アルフレッドと明日香の二人を追い詰めていた。

 だからこそ、今のアルフレッドの異常さがデルグライファ・ドーマには理解できていた。

 そしてそれを表す言葉は……デルグライファとドーマの二人の知識を合わせても、たった一つしか存在しない。


「ば、け、もの……がっ……」


 化け物。アルフレッドをそう評し、デルグライファ・ドーマの姿は黒い瘴気の霧となって霧散する。

 其処には依り代となったドーマの姿もないし、黒い鎧の姿も欠片もなく。

 ただ、空から降ってきた一本の剣がキイン、と音を立てて地面に突き刺さる。


「これって、あのデルグライファの……」

「それはもう、ただの魔剣だ」


 ゆらりと立ち上がったアルフレッドはそう呟き、星斬剣を地面へと突き刺す。


「……確かに変なモノは感じないけど。あんまり使いたいとは思わないわね」


 だが、アルフレッドの星斬剣のほうが明日香は怖い。

 今アルフレッドが気軽に地面に刺したそれは、文字通り星でも切り裂きそうな恐ろしい魔力を秘めている。

 少なくとも人間が扱えるものではないし、扱っていいものではない。

 だから星斬剣が元の剣に戻っていくのを見て明日香はほっと息を吐くが……同時にアルフレッドの姿が元に戻っていくのを感じてそちらへと振り向いて。


「……えっ?」


 糸の切れた人形のように崩れ落ちたアルフレッドへと、慌てて駆け寄っていった。

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