光と闇
「ぐおっ……!?」
退魔の力を込めた必殺の剣は、闇の力の集合体であるデルグライファ・ドーマにとってみれば天敵も同然。
大技を放った直後の隙を狙われ避ける事も防ぐことも出来ずデルグライファ・ドーマは明日香の技に呑み込まれる。
……だが当然、それだけでやられるはずもない。その全身を傷つけはしたものの、未だに健在。
そのデルグライファ・ドーマの頑丈さに明日香は思わず冷汗を流す。
「……ほんっと、どういう身体してんのよ。上級怪異だって一発で吹き飛ばす技だってのに」
「いや、かなりの苦痛だった。誇っていい」
デルグライファ・ドーマの放った黒い衝撃波を明日香は慌てて展開した五芒星の障壁で防ぐが、耐えきれずに吹き飛ばされる。
「この身は我とドーマの合わさったもの。正直に言って、過去に例を見ない仕上がりといっていい……そんな身体に傷をつけた事を死出の旅の土産にするといい」
「冗談……! アルフレッド!」
「ああ」
近づいたアルフレッドがデルグライファ・ドーマへと斬りかかるが、デルグライファ・ドーマはそれを無造作に受け弾く。
反対側から斬りかかる明日香の攻撃をも防ぐデルグライファ・ドーマの手には輝く六芒星が浮かび盾のような役割をしているのが見える。
「馴染み始めてもいる。たとえば……そうだな」
アルフレッドの剣を受けているデルグライファ・ドーマの鎧の表面が僅かに剥がれ、無数の符が生まれ出る。
「黒雷符……爆」
「ぐっ……あ!」
アルフレッドを符から生じた無数の電撃が蹂躙し、デルグライファ・ドーマから追加で放たれた符の群れがアルフレッドの身体を覆う。
「爆炎符……爆」
ズドン、と。大爆発が巻き起こりアルフレッドの身体を吹き飛ばす。
「アルフレッド! この……うぁ!」
「立花の娘。お前は符を操る瞬間に隙が出来る」
七支刀を操る手とは別の手で符を取り出そうとした明日香の腹に、デルグライファ・ドーマの蹴りが入る。
「爆炎符……爆!」
だが明日香もただでは終わらない。明日香の手から滑り落ちた符はそのまま勢いよくデルグライファ・ドーマへと向かい爆発を起こす。だが、その爆発はデルグライファを僅かに揺らがせるに過ぎない。
「ダルクレク・ウーノ・ソーディオス」
大地を波紋のように広がり生まれる闇の刃が二人を貫き、大地そのものを瘴気で汚していく。
デルグライファの強靭な肉体と、ドーマの強大な魔力。仲間同士が互いの足りないところを補い合うような関係にも似たソレは、デルグライファ・ドーマの力を大きく高めていた。
「……他愛もない。だが、残念でもある。あの時この力があれば、ヴェガに敗北する事もなかっただろうに」
「くっ……」
立ち上がるアルフレッドと明日香だが、すでに満身創痍だ。
如何に英雄と呼ばれる力を持った二人であろうと、その英雄の宿敵たる二人が合わさり何倍にも力を高めたデルグライファ・ドーマ相手では分が悪い。
悪いが……それでも、負けるわけにはいかない。
明日香はデルグライファ・ドーマを睨みつけると叫ぶ。
「アルフレッド! 貴方の力でこいつ……倒せる!?」
「ほう?」
全く諦めていない様子の明日香のアルフレッドへの問いに、デルグライファ・ドーマは面白そうに呟く。
そして、やはり諦めていないアルフレッドの返答は確信に満ちたもの。
「少し時間はかかるが、可能だ」
「そう、それなら」
明日香は七支刀を構え、符を掴み出す。
「その時間は、私が稼いであげる。その間に……よろしくっ!」
叫び、明日香は符を投げ走る。
「五星輝きて、あらゆる凶を封じん……凶神封滅陣!」
デルグライファ・ドーマの頭上で五芒星を造り出した符が光を放ち、その身体を地面に縫い付けるかのように激しい音を立て始める。
「ハ、ハハ! 分かるぞ、結界というものだな! この俺を封じ殺そうというのか!」
だが、これでもデルグライファ・ドーマを倒すには足りない。噴き出た魔力が結界を破壊し、しかしそれを分かっていたというかのように接近していた明日香がデルグライファ・ドーマの身体に直接符を貼り付ける。
「ぬ……!?」
「邪霊討滅……爆!」
硬い鎧の内部に直接符を通して浄化の魔力を撃ち込まれ、デルグライファ・ドーマは揺らぐ。
人間でいえば鎧通しのようなものであり、そこに防御力は一切関係ない。
だが、そうであってもデルグライファ・ドーマを倒すには全く足りていない。
横薙ぎにされた剣を明日香は七支刀で防ぎ、更に符を投げる。
「氷爆符……爆!」
爆発すると同時に冷気をばら撒き敵を凍らせる符を受けデルグライファ・ドーマは忌々しそうに叫ぶ。
「このような小手先の技……! 重ねれば我を倒せるとでも思ったか!?」
「光霊符……散!」
それに明日香は答えず、分裂しながら敵へと向かう光の弾を放つ。
勿論だが、これでデルグライファ・ドーマを倒せると明日香は考えてはいない。
恐らくは明日香の使える最強の符術でもデルグライファ・ドーマを倒すには足りないだろう。
だが、それでもいい。
明日香の役割は時間稼ぎ。そう、ドーマがしぶとかったように……陰陽師は時間稼ぎに徹するならば簡単に負けはしない。
「さあ、どうしたのデルなんとか! かかってきなさいよ!」
だからこそ、明日香はデルグライファ・ドーマを挑発するようにそう叫んだ。
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