再臨

「了解したドーマ……いや、道摩法師よ。お前の身体を貰い受ける」


 そして剣から……デルグライファから声が響き、ドーマの身体を黒い金属が覆っていく。

 それは一瞬。

 ドーマの身体を一瞬で覆った黒い金属はその姿を綺麗に整え、全身鎧の騎士へと変貌する。

 そこにはもうドーマの面影など欠片もなく、兜の暗い隙間からは赤く輝く目が二つ。

 魔剣デルグライファを構えたドーマ……いや、デルグライファ・ドーマの姿に、明日香がゴクリと唾を飲み込む。


「……アルフレッド。分かってる? アレ、とんでもなく強いわよ」

「ああ」


 こうして向かい合っているだけでも、ビリビリと伝わってくる魔力。

 デルグライファ・ラボスの時とは比べ物にならない程の圧力がそこにあった。

 そして、そんな二人の目の前でデルグライファ・ドーマは身体の具合を確かめるかのように指を動かし拳を握る。


「……素晴らしい。力が漲っている」


 その赤い瞳は自分の身体を見回し……やがて、アルフレッドへと向けられる。


「さて、早速だが……まずは前回の雪辱戦といこうか」


 言うと同時、デルグライファ・ドーマの姿が掻き消える。


「むっ……!」

「よく防いだ」


 響く剣と剣のぶつかり合う音。

 ほぼ直感的な判断でアルフレッドは眼前まで迫っていたデルグライファ・ドーマの一撃を防ぎ、そのまま二人の剣が攻守を入れ替え続けながらぶつかり合う。

 互いに決め手にかける剣戟は明日香が割って入る隙のない程に激しく、一撃でも受け損なえばそれで決着がつく程に強く。

 やがて一際強い音をたてて、二人は同時に距離をとる。

 前回であればここで互いに次の隙を伺うところだが……今回は一緒にいるのはヒルダではなく明日香だ。

 そして明日香は、その剣戟の隙を逃しはしない。取り出した複数枚の符が投げられ、デルグライファへと向かう。


「……フン、こんなもの」


 一枚残らず切り裂こうとしたデルグライファ・ドーマだが、乱れ飛ぶ符を余さず捉えたその剣に符は斬られず絡みつく。


「超重符……縛!」

「これ、は……ぐうっ!?」


 急激に重さを増した剣が地面にめり込み、それでもデルグライファは剣を手放さない。

 それどころか剣を持ち上げ、明日香を睨みつけてくる。


「そうか……立花の娘……! 小癪な真似をっ」

「そういう言い方するってことは、道摩法師のクソジジイの記憶もあるわけね……融合ってこと?」


 明日香はあくまで陰陽師であり、アルフレッドやデルグライファのような剣士ではない。

 平穏な世においては並外れた剣技を誇っていた明日香であろうとも、戦乱の時代の本職の剣士には……本来であれば剣で敵うはずもない。

 だが、符術を合わせれば話は別。明日香はポケットから符を掴み出すと、デルグライファへと向かって投げつける。


「火剋金の理を以て告げる……赤龍業炎陣!」


 デルグライファの手前で散らばった符は光の五芒星を描き、強烈な火を噴き出す。相手がただの「人」であれば骨すらも残さぬような炎。しかし明日香はそれで終わらぬとばかりに再び符を掴み投げる。


「封縛符……縛!」


 炎の消えた後にも変わらずそこにあったデルグライファ・ドーマへと符は向かい、その身体に張り付き光の膜のようなものを形成する。


「折角出てきたところ悪いけど……このまま封滅させて貰うわ」


 符に更なる力を籠め始めた明日香に……しかし、デルグライファ・ドーマは「フッ」という小さな笑いで応える。

 そして次の瞬間、光の膜ごとデルグライファ・ドーマの身体を覆っていた符が全て消し飛ばされる。


「なっ……」

「面白い技ではあるが、力不足だな」


 一瞬で距離を詰めたデルグライファ・ドーマは慌てて七支刀を構えた明日香に……ではなく、その間に入ったアルフレッドと再び打ち合う。


「……まあ、そうだろうな。お前はそういう男だろうよ、アルフレッド」

「お前に俺の何が分かる」

「分かるさ」


 バックステップで離れるとデルグライファ・ドーマは兜の奥で笑みを漏らす。


「お前は正義の騎士とか呼ばれていた連中と良く似ている。正義感、博愛、自己犠牲……そういうものに囚われ死んでいく愚か者の代表格だ」


 そういう者を倒すのは簡単だ。足手まといを突いてやればすぐに死ぬ。

 庇うことで結局足手まといの死にも繋がるというのに、そうしてしまう。

 そういう愚かしいモノが正義の騎士とかいうモノだとデルグライファ・ドーマは知っている。

 そして、同時に知っている。一部の本当に力を持った者は、その正義を力尽くで成してしまうということを。


「……闇よ集え」


 デルグライファ・ドーマの剣に闇が集う。

 以前見た時よりも色濃く、強く。

 禍々しい闇を纏うソレが何であるかを、アルフレッドは知っている。

 だからこそ、アルフレッドもまたヴェガの剣を構える。

 その技には、それでしか対抗できないと知っているからだ。


「光よ集え」


 そしてアルフレッドの剣に光が集う。

 それはアルテーロの町の時よりも更に強く。

 二つの力はぶつかり合い、森が悲鳴のようなざわめきを起こす。


「光を呑み、世界に闇を……! ラ・ダルクレク・レナーガ!」

「闇を裂き、世界に光を……! ラ・アウラール・レナーガ!」



 光と闇の、二つの奔流がぶつかり合い強烈な黒と白の柱を天へと打ち上げる。

 全く互角。

 それが、この二つの力のぶつかり合いの結末。

 そして……その余波が収まるその瞬間。最も気が緩む瞬間を狙い、明日香の技が放たれる。


「退魔之剣一式……閃光斬!」

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