決戦、ドーマ2

 襲い来るアンデッドの群れを斬る。斬る。斬る。

 土塊に変わるアンデッド達は斬っても斬っても途切れず、合間に振り下ろされる巨大アンデッドの足が他のアンデッドごとアルフレッド達を踏み潰そうと襲い来る。

 これ程の数の死体が森の中にあるはずもないが、その答えを明日香が口にする。


「反魂の術……! 相変わらず嫌らしい手を使うわね……!」

「……良く分からんが、それをどうにかする手はあるのか」


 倒しても倒してもきりがないのでは、いずれ体力が尽きてしまうのは確実だ。

 たとえアルフレッドが大火力を持つ武器で薙ぎ払ったところで、同じだけ復活されてしまえば意味がない。


「あのクソジジイの本体を見つけてブッ倒すか、この土地自体をどうにかしないと! でもそういうのは巫女とか神主とかの領分よ!?」

「……ふむ」

 

 襲い来るアンデッド達を斬り倒しながら、アルフレッドは考える。

 その巫女とか神主とかいうものについては分からないが、そういう能力を持った専門の何かがあるということだけは理解できた。

 しかし、土地の浄化に類する能力を持った「力」は見当たらない。

 ならば第三の目でドーマを見つけるのが順当だが……。


「ドーマを探すにはこの状況をどうにかせねばな……!」

「それが出来ないから探したいって言ってんでしょうが!」


 巨人を含めた無限のアンデッド達は、アルフレッドに第三の目に集中する時間を与えない。

 それもドーマの戦略なのだろうが、地味ながらも効果的だ。

 アルフレッドや明日香にとっては、強力な単体敵の方がよほど対処しやすい。

 勿論大軍であろうと対処できるが……それに終わりがないとなれば。


「……ん?」


 そこで、アルフレッドは気付く。

 土地自体をどうにかする。それはつまり。


「明日香! 一つ聞く!」

「何よ、手短に……っとお!?」


 巨人の蹴りを跳んで躱す明日香に、アルフレッドはその疑問を投げかける。


「土地をどうにかするということは……この土地が何かに憑りつかれているということか!?」

「言い得て妙ってやつね! たぶんこの辺りは道摩法師のクソジジイが術式で支配下に置いてるのよ! 呪いって言い換えてもいいわ! つまり……」

「いや、それだけ聞ければ充分だ!」


 アンデッドを切り裂きながら、アルフレッドは剣を元に戻す。

 勿論、元のアルフレッドの剣ではアンデッド相手には通用しにくい。

 しかし……アルフレッドの目的はその次にこそあった。


伝説解放オープン。『神姫伝承ヴェガ』・ヴェガの剣!」


 輝ける光の剣は七支刀同様にアンデッド達を土塊に変えていくが、目的はそうではない。

 ヴェガの剣は、神姫伝承ヴェガにおける伝説の剣。

 悪しき者共を倒す為の力を秘めた、浄化の剣。

 

「ヴェガの剣よ!」


 アルフレッドはヴェガの剣を大地へと突き刺し、叫ぶ。


「穢れを、祓え――!」


 その叫びに応えるかのように、ヴェガの剣が輝く。

 放たれた浄化の光は大地に巡らされた悪しき術式を祓い、瞬間的にではあるが大地を聖域の如き浄化された空間へと変えていく。

 当然、その上にいるアンデッド達が無事で済むはずもない。


「ガ、アアアアアアアア!」

「ギアアアアアアア!」

「グアアアアアアア!」


 断末魔と共にアンデッド達が消えていき、唯一残されたのは浄化に耐えた巨人のみ。

 七支刀を通さぬアンデッドとゴーレムの技術の融合たる巨人もしかし、弱った今では一介のモンスターに過ぎない。


「光よ集え」


 アルフレッドの構えるヴェガの剣に、光が集う。

 白く輝く剣は周囲の魔力をも集め、風が逆巻いて。


「闇を裂き、世界に光を……! ラ・アウラール・レナーガ!」


 そして、光の奔流が巨人を呑み込み消し去っていく。

 この場にはアルフレッドと明日香を除けば敵しか居らず、故にその攻撃に一切の遠慮はない。

 森の一部を消し飛ばしながら放たれた一撃は大地にその痕跡を残し、ポカンとした顔の明日香を背後にアルフレッドはヴェガの剣を地面に突き刺し叫ぶ。


「さあ、後はお前だ……出てこいドーマ!」

『……なんとも凄まじき事よ』


 聞こえてくるドーマの声にアルフレッドと明日香は周囲を見回すが、やはりドーマの姿はない。


『お主の能力は恐らく、人に許される範疇を超えておる。選ばれし一人の人間が一生涯をかけて極めるような神具の類を複数所持する……なんとも妬ましいものよ。一体どのような奇跡が重なればそのようになるものか』

「御託はいい。出てこないというのであれば……!」


 第三の目で引きずり出す。そうアルフレッドが宣言するより前に、ドーマの笑い声が響く。


『いいや、こうなれば逃げも隠れもせんよ。仕切り直したところで恐らくは同じ結果になろう』

「諦めるってこと? 随分と潔いじゃないの」


 怪しむような明日香に、ドーマの声が更なる笑い声をあげる。


『ふ、ふはははは! そうかもしれんのう! このような気分になったのは、どれくらいぶりのことか!』


 その言葉と共に、アルフレッド達の眼前にドーマの姿が現れる。

 瘴気を垂れ流すその姿からは、諦めようなどという気は感じさせない。


「……さて、アルフレッド。そして立花の娘よ。儂はお前達に勝つ事を諦めた」


 だが、その口から出るのは文字通りの敗北宣言。

 だというのに……その目からは闘志が全く消えてはいない。

 そして、その手にあるのは。その、見覚えのありすぎる剣は。


「デルグライファ殿……儂の身体を譲りましょうぞ! どうぞ本懐を果たしなされ!」

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