救えぬ者を救う為に
乗っ取る。その言葉に、アルフレッドはデルグライファを思い出す。
デルグライファに乗っ取られたラボスはその身を人とは思えぬものに変じさせたが、目の前のヒルダにそんな様子はない。
何より、ドーマの言う事を考えるにデルグライファのものと全く同じというわけでもない。
ならば、たとえば。
「ぬっ!?」
アルフレッドはヒルダの腕を掴んで投げると、高みの見物をしていたドーマとの距離を一瞬で詰め首筋に剣を突き付ける。
「ヒルダを解放しろ。お前の術だというのであれば出来るだろう」
「くくくっ、まあ当然の流れよの。じゃが浅い。浅いのう」
全く慌てた様子の無いドーマの服の中から無数の符が舞い出るとアルフレッドの剣に纏わりつき、その切れ味を封じてしまう。
そして、それだけでは留まらない。あふれ出る符はアルフレッドにも次々と纏わりついてくる。
「これは……!」
「陰陽師を舐めるなよ毛唐の小僧が。儂をどうにかしたくば手順を守るがよい……それ!」
連鎖するように爆発した符はアルフレッドを吹き飛ばし、更に起き上がり迫ってきていたヒルダの短剣がアルフレッドを薙ぐ。
「くっ……」
ヒルダをどうにかするには、とりあえず無力化できればいい。
今のヒルダは強いが、隙が無いわけではない。だが、それをどうやって成すかという問題がある。
先程投げた時にもそうだったが、今のヒルダは痛みを感じている様子がない。
ダメージは入っているようだが、それを無視している……あるいは気付いていない可能性がある。
加えてアルフレッドも、先程のティタンシステムの行使により多少ではあるが動きが鈍っている。
それでもやろうと思えば、きっと不可能ではない。しかし、どうすれば。
痛みで気絶するのであればそれでもいい。しかし痛みを無視できるのであれば「意識を飛ばす」という手段が通じるかどうか。
腕や足を折るというのは論外だ。そして何より……どうやって元に戻せばいいのか。
あのドーマという老人は、見る限りかなり性格が悪い。先程はああやってはみたが、あの様子では素直に元に戻すなどしないだろう。となると、アルフレッドがどうにかするしかない。
しかし、どうすれば。
「ヒルダ……!」
アルフレッドの呼びかけに、ヒルダは答えない。
無表情なその顔には感情はなく、その動きは鋭くアルフレッドを狙い続ける。
何度目になるかも分からない打ち合いの後……アルフレッドは意を決したように剣を構える。
やはり、気絶させるしかない。そう考えた時……「飽きたのう」というドーマの声が響き、二人の周囲に無数の武装したアンデッドが湧き出した。
「強さの割に腹の座らん奴じゃ。恋に脅える小娘でもあるまいに、いつまでやっとるんじゃ」
「貴様……!」
「それ、殺せ」
一斉に襲い掛かってくる。そう考えアルフレッドが身構えた瞬間……アンデッド達が、ヒルダをその手の武器で貫いた。
「……っ」
声もなく崩れ落ちるヒルダ。
その現実が一瞬理解できずアルフレッドは呆けた顔をする。
一体何が起こったのか。何故ヒルダを。混乱するアルフレッドに向けて、ドーマの嘲笑が響く。
「ふ、ふくく! ふははははは! その間の抜けた顔! 面白いのう、面白いのう! 出来ればお主自身がその娘を殺す展開が良かったのじゃが、くふふ! これはこれで良い!」
倒れたヒルダを踏みにじるアンデッド達。
ヒルダから広がり始めた血の染み。
その光景を前に、アルフレッドの思考が真っ白に染まる。
ああ、なんと。なんと無様か。
世界を救うと意気込んで、目の前の少女一人救えない。
英雄達の力を託されながら、なんという無様。なんという無能。
だが……そんな無様にして無能たるこの身でも理解できることがある。
そう。そうだ、それは曲がらぬ一つの誓い。
この世界を救う。その為には理不尽すらも斬らねばならぬ。
だが足りない。今の自分では足りない。
かつて救世の旅に出る事すら出来なかった自分では、今は足りない。
だから、だからどうか。
この身に力を託した英雄達よ。力を……貸してほしい!
「……さて。アルフレッドとやら、お主の力に興味は尽きぬが、それは死後ゆっくりと腑分けして確かめるとしよう」
呆けたように見えるアルフレッドを殺せと、ドーマはアルフレッドに命令を出そうとして。
その瞬間、アルフレッドから噴き出した青い光の奔流に目を見開く。
「な、なんじゃ!? これは……魔力!?」
その光に触れるだけでアンデッド達が消し飛んでいき、ヒルダの傷が僅かながら塞がっていく。
ドーマ自身、その光に本能的な恐れを抱く。
知っている。あれは浄化の光。闇に堕ちたドーマとは対極に位置する力。しかし、あれ程の光。
「何を……何をしようとしている、アルフレッドォォォォ!!」
その恐れを吹き飛ばすかのように、ドーマは巨大アンデッドを生み出す。
ただのアンデッドではなくゴーレムでもあるこれならば、あんな光など。
そう考えアルフレッドを吹き飛ばそうとした瞬間。アルフレッドの口から言葉が紡がれる。
「
……そして世界に、一人の英雄の姿が現れる。
その姿を。忘れるはずもないその憎き姿を目にして、ドーマは叫ぶ。
「立花ァァ……!」
「……久しぶり、道摩法師。随分好き勝手やってくれてるみたいじゃない」
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