ティタンシステム

 そう唱えると同時に、アルフレッドの身体に激痛が走る。

 体の中に何かが入り込んだような……あるいは引っ掻き回されたような、そんな感覚。

 だが同時に、アルフレッドの中に今までとは違う力が生まれ出る。

 第三の目が消え、恐らくはスレイプニルも消えたであろうことを感じ取る。

 この力は、それほどまでに異質。

 だが……同時に、アルフレッドは思う。

 この力があれば、もう……目の前に迫る巨人の拳など、恐れる必要はないと。

 そして、その想像通りに。アルフレッドの振り上げた腕は、巨人の拳をしっかりと抑え込んでいた。


『ぬっ……!?』


 無効化したわけではない。衝撃はしっかりとアルフレッドへと伝わっているし、その衝撃は大地にまで響いている。

 ただ、それでは揺るがなくなっているだけ。

 アルフレッドの中にあるものが丸ごと組み替えられ、別物になっているという……ただそれだけのこと。

 

「お、おおおおおおおお!」

「GAAAA!?」


 アルフレッドの腕が巨人の拳を押し返し、巨人が宙に浮く。

 その隙を逃さずアルフレッドは高く跳び、巨人の身体を駆けあがり巨人の首へと剣を叩き付ける。

 それは、卓越した剣技というわけでもない力任せの剣。

 ただそれだけのことで巨人の首に傷が入り、深々と切り裂かれる。

 そして、続く蹴りで巨人の首がメギリという破滅の音を立て胴体から離れ飛ぶ。

 そのまま森の何処かに着弾し砕け散った頭部。

 そして頭を失った巨人はそのままガクガクと壊れた玩具か何かのような動きをしていたが……やがてその動きを止め、巨大な土の塊となって崩れ落ちる。

 それと同時にアルフレッドの中の「変わってしまったモノ」も元に戻り……アルフレッドは荒い息をつく。

 ティタンシステム。OVA『巨獣機ヴァルガード』における主役機……つまり巨大ロボットの動力であり、敵を屠る為の最大の力。それを人であるアルフレッドの中に無理矢理詰め込み再現するソレは、アルフレッド自身に多大な負担を強いる。

 だが、期待した通りに巨人は倒した。ならば、後は。


「ふ、くくく……かかかかかかっ!」


 響く笑い声と、手を叩く音。

 そこに立つのは、あの老人……ドーマ。

 見るからに直接戦闘に向いてなさそうなドーマは目に見える武器もなくアルフレッドの前に立ち、邪悪で醜悪な笑顔を浮かべ拍手をしている。


「良い。中々良い見世物であったのう。タネは分からんが先程の戦いの最中、お主が全く別物になっておった。全く、どれ程のものを隠し持っているやら」

「御託はいい。ヒルダを返して貰おうか」


 アルフレッドの言葉にドーマは笑顔を更に醜悪に歪めると鷹揚に頷いてみせる。


「勿論じゃとも。あの娘は返してやろう……なあ?」


 ドーマが声をかけると、その近くにある小屋……ビオレが監禁されていたその場から、ヒルダがフラリと歩み出る。

 

「アルフ、レッド……」

「無事だったか、ヒルダ」

「うん、ありがとう……怖かった」


 ゆっくりと歩いてくるヒルダを迎え入れるように、アルフレッドもヒルダへと向けて歩く。

 花の咲くような笑顔を浮かべるヒルダとアルフレッドの距離は近づいて。

 音もなく引き抜かれ突き出された短剣を、アルフレッドの剣が防ぐ。

 まるでそうなると分かっていたかのような動きにドーマがほう、と声をあげ……ヒルダが素早くバックステップで距離をとる。

 その表情は無表情のそれに変わっており……アルフレッドは油断なく剣を構える。


「気付いておったのか。さて、何故かのう」

「……彼女なら俺に「助けに来るのが遅い!」くらいは言ってのける。そういうことだ」


 アルフレッドの視線は、ヒルダの持つ短剣へと向けられている。白と黒が互いに噛み合うような円形のデザインが柄に施されたソレは、ヒルダが持っていた短剣とは明らかに違う。

 となると、ヒルダの様子がおかしいのはその短剣のせいであると考えていいはずだ。

 デルグライファの時のように手遅れになる類ではないようにも見えるが……とにかく、短剣とヒルダを引き離さなければどうしようもない。

 必死で考えを巡らせるアルフレッドが面白いのか、ドーマはその場から動きもせずにカラカラと笑う。


「儂は元々この手の術が得意でのう。デルグライファ殿の「乗っ取り」は中々に興味深い技じゃった。その小娘に持たせたのはそれを参考にしたわけじゃが……」


 ドーマの語りの間にも、ヒルダは走り出しアルフレッドへと襲い掛かってくる。

 戦闘が苦手だと言っていたとは思えない素早い動きは一瞬でアルフレッドとの距離を詰めると、フェイントを織り交ぜた攻撃を無数に繰り出してくる。


「しかしのう、あの乗っ取りはデルグライファ殿という核あって故じゃった。そこで儂は式神に使っておる疑似人格を流用したわけじゃ」

「何が言いたい……!」


 打ち合い、躱し。ヒルダを傷つけぬように戦うアルフレッドに、ドーマは最高に醜悪な笑みを浮かべて告げる。


「その短剣を壊したところで、その娘は元には戻らんぞ? 儂の式神が乗っ取っておるからのう?」 

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