原因は
「う……」
「気付いたか」
ヒルダが目を覚ました時、そこは自分の家のベッドの上だった。
心配そうな顔をしているアルフレッドをぼうっとした顔で眺めた後、覚醒していく意識の中ヒルダは頭に触れる。
そこにはすでに夜叉金冠は無く、周囲を見回してもやはり無い。
「あれ? あたしのサークレットは?」
そう冗談めかして聞いてみるが、アルフレッドの顔がより深刻なものになっただけだった。
「え、まさか無くし……」
「……すまない。君が気を失ったのは、夜叉金冠が原因だ」
「へ?」
無くしたのか、と聞きかけたヒルダにアルフレッドはそう告げる。
「この夜叉金冠……いや、他の道具もそうだが、かなりの力を使う事が分かった」
「えーと……?」
「俺の感覚で考えていたから気付かなかったのだが、夜叉金冠に君の力……魔力が凄まじい勢いで吸い取られていたのを見て確信した」
言われて、ヒルダも「あー」と頷く。つまり、先程意識を失ったのは魔力切れだったのだ。
恐らくは限界まで一気に魔力を吸い上げられてしまったが故に意識も途切れてしまったのだろう。
あの短い間で感じた自分ではありえない反応を考えると、当然のようにも感じてしまう。
「なるほどねえ……使いこなせたら便利そうだけど、使えて数秒じゃねえ」
「本当にすまない。能力にばかり目が行って、君自身の事を考えるのを疎かにした」
頭を下げるアルフレッドに、ヒルダは困ったように笑う。
「え、あー……いや。仕方ないでしょ。あんなアーティファクトの事を全部把握できてるわけないし、あたしの実力不足も……」
「いや、俺の責任だ。女神ノーザンクにも顔向けできない」
自刃でもしそうな顔をしているアルフレッドをどうしたものかと考えながらも、女神ノーザンクとやらは何処の神様だろうともヒルダは思う。
恐らくはアルフレッドの居た国の神様なのだろうが、聞いたことがない。
しかしまあ、とりあえずはアルフレッドだ。
「じゃあさ、一つお願い聞いてくれる?」
「俺に出来ることであれば」
迷いもせずに即答するアルフレッドに「じゃあ悪事働いてこい」って言ったらどうすんのかな……などとヒルダは考えるが、やった後に自刃しかねないので言わないようにしようとゴクリと台詞を呑み込む。
とはいえ、いつまでもこの空気が続いても疲れるので何か冗談にして明るい空気に戻してやろうと考え、ヒルダはニヤリと笑う。
「じゃ、キスして」
「分かった」
くいと顎を持ち上げてくるアルフレッドにヒルダは思わず「今のなし!」と叫んでベッドの上を壁際まで逃げる。
「何今の! なんかすっげー慣れてる奴の動きだったわよ!」
「いや、そんなことはないはずだが」
何しろアルフレッドは人間関係の経験自体が少ないのだ。
慣れているなどあるはずもないが……。
「……何か作法が違ったか?」
「作法なんかあるかバカ! もう、冗談だって気付きなさいよ! 家出る前にあたしからかったのはなんだったのよ!」
「いや、しかし」
「終わり、反省終わり! この空気疲れるのよ!」
ベッドから跳び起きると、ヒルダは腕をグルグルと振って元気アピールをする。
事実、魔力量の少ないヒルダは少し寝れば全快するし、そうなってしまえば元通りだ。
「……君がそう言うのであれば」
「もう、調子狂うわね」
「俺の浅慮が君を傷つけそうに……ああ、いや。やめるんだったな」
「そうよ。やめないと罪悪感に付け込んで悪事するわよ」
ヒルダが冗談めかしてそう言うと、アルフレッドはクスリと笑う。
「そう言われては、やめるしかないな」
「あ、でもそしたら敵の財布抜いても見逃してくれる?」
「いや、見逃さない。絶対にだ」
即答するアルフレッドにヒルダは「お、戻ったわね」と笑う。
「アンタに調子崩されたら、本気で私が死んじゃうもの。戦力にはなれそうにもないって分かったし、しっかり守ってもらわないと」
「ああ、それは請け負う。元よりあのラボスとかいう男の蒔いた種。こんな形で復讐を成そうなど、許されるはずもない」
「その調子、その調子。さ、ご飯にしましょ」
パンは買い損ねたが、買ってきた食材でもそれなりの食事にはなるだろう。
言いながら、ヒルダはもう何もついていない頭部に軽く触れる。
結局鏡は見なかったが、あの綺麗な金のサークレットは少しもったいなかったかもしれない。
そんなガラにもない事を考えながら歩きだし……アルフレッドに、その頭にポンと手を載せられる。
「なによ、アルフレッド」
「いや、なんでもない……そうだな、なんとなくだ」
「は?」
部屋を出て階段を下りていくアルフレッドを見送りながら、ヒルダは疑問符を浮かべる。
なんとなく。アルフレッドにはおよそ似合いそうにない事を言ったのを不思議に思いながら、ヒルダもその後を追う。
……しかし、実を言えば。本当に「なんとなく」だったのだ。
空っぽの心に使命だけを詰め込んだアルフレッドの中に生まれた、「なんとなく」という行動。
それは設定されたものでも与えられたものでもなく。
アルフレッド自身が手に入れた、そんな小さな心の欠片なのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます