襲撃警戒
襲撃者達を全員追い出した家の中で、ヒルダはアルフレッドの差し出してきたものをきょとんとした顔で見ていた。
夜叉金冠。そう名付けられた金色のサークレットとアルフレッドを見比べ「え?」と声をあげる。
「何? くれるの? あ、でもこれ何か物騒な効果があった気がするんだけど」
「いや、貸すだけだ」
「何よケチ」
「勝手に他人にあげていいものではないしな……」
「ふーん?」
言いながらもヒルダは夜叉金冠を手に取ってジロジロと眺め始める。
何度見ても高そうなサークレットだが、売ればアルフレッドが激怒するだろうことくらいはヒルダにも分かる。
「で、これ……どう使えばいいの?」
「被ればいい。あとはそうだな……どうしようもないと思った時に浮かんでくるキーワードを叫べばいいようだな」
「ふーん?」
相槌を返しながら夜叉金冠を被ると、ヒルダの中に魔力が流れ込んでくる。
自分の中を蹂躙するようなその感覚にヒルダは思わず夜叉金冠を外しそうになるが、すぐにそれが収まったことでヒルダは恐々と自分の額に収まった夜叉金冠に触れる。
「ね、ねえ。これ大丈夫なんでしょうね? なんか妙なの流し込まれた感覚があるわよ?」
「それはそんなに危険なものじゃない。まあ、試練を与える効果はあるが」
「ちょっと、そうよ。思い出したわよ。試練って何よ試練って」
「今更だろう? 君は今、試練を受けてるようなものじゃないか」
言われてヒルダはぐうと呻く。
確かに、その通りではある。
アルテーロの罠士ギルドを敵に回し、夜も眠れるか分からない。
アルフレッドがいるとはいえ、こんな試練はそうはない。
「そりゃそうだけど……まあいいわ。借りとく」
「ああ」
頷くと、アルフレッドは思考する。
寝ずの番をしてもいいのだが、相手が長期戦を考えた場合にそれでは拙い。
かなり強い肉体を与えられたアルフレッドではあるが、普通に食事も睡眠も必要とする。
ヒルダを頼るにもヒルダはか弱い女性であり、限度がある。
……となると、アルフレッドがその分頑張るしかないわけだが……具体的にどうするか。
「眠らなくてもいい能力があれば一番なんだが……」
「何恐ろしい事言ってんのよ……」
残念ながら、そんなアルフレッドの呟きに答える「力」はない。
ヒルダの呆れたような声が返ってくるだけだ。
「そんな事より、買い出し行くわよ?」
「買い出し……ああ、食料か?」
「それもだけど、水も汲み直しかしらね。水瓶に何か入れられてないとも限らないし」
食料だって、買い置きのは妙な薬を仕込まれているかもしれない。
その分を買い出しに行かなければ籠城すら出来ない。
「そうだな。行くとしよう」
言いながら部屋の隅に転がしていた自分の金袋を取りに行こうとするアルフレッドの腕をヒルダが掴んで引っ張る。
「あたしが出すからいいわよ」
「そういうわけにはいかない」
「護衛代みたいなもんよ、気にすんじゃないわよ」
「仲間を守るのに金などとれるか。それに君の夢とやらには金が必要だろう」
本気の顔でそう言うアルフレッドにヒルダは何とも言えない顔をした後に「それでもよ」と答え再度腕を引っ張る。
「アンタ、あたしにこれ以上貸し作る気? そういうのを仲間っていうと思ったら大間違いよ」
「いや……それは」
「持ちつ持たれつ。アンタは力を振るう。あたしはちょっとだけ金を出す。ついでにたっぷり稼ぐ。これが理想的な関係ってもんでしょ」
「そう、か?」
「そうよ」
言い切るヒルダに、アルフレッドは「そうか……」と呟く。
「互いに出来るところをやればいいのよ。それが支えあいよ、仲間ってものよ。そうでしょ?」
「……そう、かもしれないな」
「ええ、そうよ」
「ああ、そうだな」
迷いの晴れた顔をするアルフレッドに背を向けて、ヒルダは「こいつの操縦方法分かってきたかもしれない」などと考える。
つまるところ、アルフレッドは基本的に正義バカで善人なのだ。
余程理屈に合わない事を言わなければ簡単に。
「だがそれはそれとして、さっきのように財布を抜くような真似は許さないぞ?」
「うっ。わ、分かってるわよ」
「俺は仲間として君を信頼するが、もし簡単に俺を操縦できるとか思っているのであれば……」
「ちょ、ちょっと。あたしそんな事」
思ってないわよ、と言いかけるヒルダの頬をアルフレッドの指が突く。
「……君は悪巧みをすると、すぐ顔と態度に出る。仲間として教えておこう」
「えっ、嘘っ」
「嘘だ」
思わず両頬を抑えるヒルダにアルフレッドがニヤリと笑い、ヒルダの顔が真っ赤に染まる。
「だ、騙したわね! 正義の味方が嘘ついていいと思ってんの!?」
「武器とは使う者の心次第だ。今も君の企みを砕いたろう?」
「うっさいバカ!」
バシバシとアルフレッドを叩くヒルダだが、アルフレッドは堪えたようすもない。
むしろヒルダの手の方が痛い。
「ああもう、このバカ! 行くわよ!」
「ああ、夜叉金冠を忘れるなよ」
「分かってるわよ……ていうかコレ、被ってたら目立つわよね……」
言いながらもヒルダは夜叉金冠を被る。この場には鏡が無いが、やはり派手なような気もする。
そんな落ち着かない気分のヒルダを先頭に、二人は町中へと歩き出す。
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